09 仮にそれが可能だとすると
「仮にそれが可能だとすると、狙いは新しい人形がどの程度やれるかを試しているというあたりですかな」
「関谷ではこれまでにない方法で人形を作ろうという動きがありますからね。他国で新たな発見があっても不思議ではないでしょう。それを試しているという可能性はあると思います」
「でも弱いんだから大丈夫でしょ」
「一体一体が弱くても数に物を言わせて攻められれば話は別だよ。いずれ確実に負ける」
「清正君でも?」
黙って頷く。
雑魚敵をバッタバッタとなぎ倒していく爽快感が売りのアクションゲームならいざ知らず、この世界で同じことはできない。
多勢に無勢。数の暴力に飲み込まれてしまう。
「使い捨てのように見えるのが安価に機巧姫を用意できることの裏返しとも言えますな」
「それにいつまでも相手が弱いままとは限りませんしね」
「普通は貴重な機巧武者を使い捨てになんてしないもんね。そう考えるととんでもないことが起きようとしているのかも」
「ハイローミックス……えーと、弱くても安くて大量に用意できるものと、高額だから少量で強いものを揃えているんだと思います。日影たちは普通の機巧姫も集めていましたから」
「紅樺と鶯色の君まで持っていかれなくてよかったよね」
「そうだね。そこはみんなのお陰だよ。でも問題はそれだけじゃなくてさ」
「清正君が言いたいことはわかるよ。このところ城下町も落ち着かない感じだよね。品物が不足してるって話も聞くし。みんながピリピリしてる気がする」
「現状はやりたい放題されてるようなものだからなあ」
勿論、手をこまねいているわけではない。
砦の守りを固め、関所を通る荷物や人物のチェックを厳重にしている。
でもそちらに力を入れれば領内の治安を維持する人員が不足してしまう。
関谷は国が小さい分、武士の数も限られているのだ。
「不吹殿は八岐を利用しようとしていると聞きましたが」
「利用というと言葉が悪いですけど、力を貸してもらうように澪を通じてお願いしています。例えば人狼は長距離を素早く移動できる上に遠吠えで仲間同士の意思疎通ができます。それを活かせば情報の伝達速度を上げることができると考えたんです」
「はい! やれるじゃん!」
翠寿はニコニコ顔で尻尾を勢いよく振る。
つまりは伝令役だ。
これまでは狼煙と早馬を併用していた。
でも基本的に狼煙は雨が降っていると使えない。それに有効距離もあまりなく、せいぜい十キロというところらしい。
それも見通しがよくて風がないなどの条件が揃っている場合に限る。
だから必ず早馬も走らせるんだけど、現代のようにすべての道が整備されているわけではないので、馬を乗り継いでも久納砦から志野城まで半日は必要だった。
そこで人狼の長距離移動能力と遠吠えを活用することを提案してみたのだ。
「私の領内で暮らしている人狼を何人か久納砦に置いてもらうようにしたんです。人狼は戦いでも頼りになりますしね。あと、砦以外にもあちこちに小屋を建てて待機させています」
何かあれば伝令として走り、各拠点にいる人狼の仲間に遠吠えで知らせる。
これなら砦に敵が攻め寄せても数時間後には第一報をお城まで伝えることができるはずだ。
「三桜村が襲われた時に澪へ知らせが入ったという話から思いついたことなんです。早馬を走らせるだけよりも伝達速度は格段に向上すると思います。情報は鮮度が命ですから」
「なるほどねぇ。九十九の俺が言うのもなんですが、八岐をそうやって使おうした人はこれまでいませんでしたからなぁ。しかし砦を守る矢作殿をどうやって説得したんです」
「それはちょっと……ね」
言いながら澪が含み笑いをした。




