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05 とにかく戦力を揃えないとね

「とにかく戦力を揃えないとね。ほの香姫が機巧操士だったのは本当に助かるよ」


「そうだね。私も水縹みずはなだがいてくれたらきっと……」


 模擬戦を見つめながら、澪の右手がぐっと握られる。


 澪が所有する水縹の君は勾玉に不具合があって動けないでいる。


 茅葺さんの話によると、この修理は勾玉の専門家である須玉匠すだまのたくみにしかできないそうだ。


 幸いなことに関谷には腕のいい須玉匠が住んでいる。生憎と半月ほど出かけているという手紙が茅葺さんのところに届いていたけど、そろそろ戻っている頃合いだ。


「ええい!」


 大きく振り下ろされた薙刀を、体を捻ることで深藍は回避する。


「くっ……つああっ」


 強引に軌道を変えて深藍を追いかけるけど当たらない。


「ふうふうふう……」


 呼吸を整えつつ基本である左中段に構える。


「ほの香様が戦場に出たらすぐにでも殺されてしまうなんて白糸様は言っていましたけど、あれなら十分に戦力ですよね」


「幼い頃から薙刀をやっておられますからな。最低限、自分の身を守ることはできるかと」


「正直、薙刀で立ち会ったらほの香姫に勝てる気がしないなぁ。当然だけど刀でもね。あれはちゃんと学んだ人の動きだもん」


「澪が得意な武器ってなんなの」


「弓ならそれなりに使えるつもりだよ」


 ほほう。それはいいことを聞いた。

 せっかくこういう世界に来たんだし、機会があれば弓の扱いを教えてもらおうかな。


「とはいえ、ほの香姫の薙刀はあくまで道場で学んだもの。正々堂々、一対一の戦い方ですからな。綺麗過ぎるのですよ。戦場で求められるものとは全く異なります。相手は一人ではないかもしれない。正面から来るとは限らない。それを知っているのと知らないのとでは大きな違いとなります。実戦で生き残るのは梅園殿でしょうな」


「確かに二人の間には紙一重どころか何十枚もの差がありそうですね」


 果敢に攻めるほの香姫をきっちりといなし続けていることからも二人の技量差は明白だ。


「その梅園様を清正君は圧倒したんだよね」


「あの時は深藍の君が負傷していたからだよ。それに葵のお陰もあったしね」


「いいえ。主様の実力だと思います」


 葵が褒めてくれるのは嬉しいけど、今はやめておいて欲しいかなあ。

 だって筒針さんが目を輝かせて僕を見ているんだもん。


「何故そちらから仕掛けてこないのです。私を侮っているのですか」


 言いながら左手で柄側を持ち、右手で刃側を持つ脇構えに変化する。

 切っ先を自分の体で相手の視線から隠しながら天色がジリジリと間合いを詰める。


「……いいえ」


 深藍は相手の構えを見つつも動かない。


「ならばかかってきなさい」


「わかりました。ではこちらから行かせていただきます」


 刀身がわずかに下がったと思った瞬間に跳ね上がり、深藍が一足で距離を詰める。


「速い!」


「姫様!」


 三人組のうち深藍の動きに反応できたのは亀井さんと菅生さんだった。


「はあああっ」


 即座に天色も踏み込む。


 構えと手にした武具の特性を考えれば正しい選択だとは思えない。


 脇構えは相手の虚をつくのに適している半面、遠い軌道をとるからだ。


「ほう、考えましたな」


 上段に振りかぶった深藍が兜目掛けて振り下ろす。

 まるでバットでも振るように天色が胴払いを放つ。


「――勝負あり。勝者、天色!」


 澪が宣言した。


 深藍の胴に触れるほどの位置に薙刀が、天色の兜の手前で刀が止められていた。


「やりました! 姫様の勝ちです!」


「むむむ……わずかな差だったが確かに……」


「お、終わったのか? 私の目には同時に見えたのだが……」


 天色と深藍の機巧武者は互いに距離を取ると礼をする。


「あの脇構えは間合いを悟らせないためではなく握りの位置を変えるのが目的だったわけですな」


「それで胴払いが先に届いたんですね」


 薙刀を短く持つことで振る速度が上がるのを見越して自分からも飛び込んだのか。間合いが短くなる分、前に出ないと当てられないもんな。


「勝つための方策を考え、それを実行できるのは素晴らしいですね」


「この模擬戦は姫様にとって価値あるものだったと言うことでしょう」


 機巧武者姿を解いたほの香姫に五十鈴さんが駆け寄っていた。

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