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04 そこ!

「そこ! そこそこそこっ!」


 連続した突きを天色が放つ。


 深藍は慌てない。

 左右に体を揺すってかわし、後ろに飛んで間合いを切る。


「しかし、ほの香姫がこんなに早く操心館へ来られるとは思っていませんでしたよ」


 彼女の兄である藤川ふじかわ白糸しらいと様の計画では、ほの香姫を操心館へ入れるのは少し先の予定だった。


 たまたま城下町で知った新しい製法による人形が近々発売されることを報告する際、試作品をお披露目するのと同時にほの香姫が天色の機巧姫の連れ合いになったことを伝え、操心館へ入れてもらえるように交渉をするはずだったのだ。


 従来の人形は選別された樹木から素材を切り出していた。

 古式こしきならば一本の大木から、新式しんしきになると相性の良い複数の木から選び出さなければならないため、どうしても完成までに時間がかかってしまう。


 新製法の人形は手、足、体、頭という部位ごとに製作するというものだ。

 しかも各部位を型取りし、陶器として焼き上げる。

 こうすることで量産ができ、しかもパーツの組み合わせである程度好みに応じた人形を作れる画期的なものだ。


「どうも井田いだ様の耳に新しい人形の情報が入ったと思われたので計画を前倒しせざるを得なかったそうです。事前に断りなく実行することになり申し訳なかったと不吹殿に伝えて欲しいと白糸様が言っておられました」


「肝心の藤川様の反応はどうだったのでしょうか」


「新しい人形のことを知ってお喜びになり、早速、ご自分も注文したそうですよ」


「……その時のやり取りが目に浮かびますね」


 藤川様は人形が大好きなお方だからなあ。新作が出ると聞けば一つ欲しくなるのも納得だ。


「ほの香姫については大事にならなかったんでしょうか」


「機巧操士が増えたことを喜ばれていたそうですよ」


「それはよかったです」


 三桜村での戦いから既に二十日ほど経っていた。関谷は今も霧峰に狙われている。


 霧峰とは角田川かくたがわを国境としているけど、そこに築かれた久納砦をこれまでに二度攻め込まれた。幸い二度とも追い払うことに成功している。


 ただ霧峰は大国だけあって擁する機巧武者も多い。早いうちにこの戦力差をなんとかしなければならなかった。


 調練場の模擬戦はまだ続いている。


 派手に攻め立てているのは天色の機巧武者だ。

 有効打を与えようと右に左に薙刀を振り回す。


 それを深藍は時に下がって、時に刀でいなしている。

 ギリギリでそれができるのは相手の動きがよく見えているからだ。


「おお、おおお! 今のは惜しい! わずかでも踏み込みが深ければ一撃を浴びせていただろう。ほの香様はお強いなあ。こんなに頼もしいことはない」


「い、いや、先ほどの攻撃はどう転がっても当たらぬであろう。体当たりでもする勢いであれば話は別だが、そこまでの踏み込みではなかったからな」


「なるほど。そういうものか。亀井殿は私と違ってよく見えておられる」


「お言葉ではありますが亀井様の評価は先ほどから梅園様贔屓ではありませぬか。よくご覧になってください。どう考えても姫様が押しているでしょう」


「姫様が弱いとは思わぬ。だが梅園様が一枚上手だと言っておるのだ」


 六地蔵さんと五十鈴さんの評価はほの香姫優勢、亀井さんは梅園さんがわずかに上の見解か。


「彼らはまだしばらく候補生ですなぁ」


「今は茅葺かやぶきさんの研究に期待したいところですね」


 この世界では機巧姫は限られた相手としか連れ合いになれない。

 なのに関谷に侵入し暗躍していた日影ひかげたちは初見の機巧姫と共感して機巧武者となってみせた。


 鍵となるのは日影が落としていった数珠のような道具だ。


 質の良い勾玉の欠片で作られた数珠を身につけていればどんな機巧姫とも共感できるらしい。

 それが事実なら人形作りが盛んな関谷は一気に戦力を増強することが可能になる。


「鬼の大平が協力しているというやつですかな」


「ええ。紅樺べにかばきみの修理と同時進行ですから時間はかかるかもしれませんけど」


「茅葺様は働きすぎだよ。無理して体を壊したら元も子もないのに……」


「僕たちも砦を守りに行ったり、食料を調達したり、魔物を倒したり、人形修理のための材料を集めに行ったりと色々やっているじゃない。今はどこも人手が足りてないから仕方がないよ」


 本来は仕方がないで片付けられる問題ではない。

 こんな状況を長く続けられないのは当然のことで、このままだと遠からず破綻するのは目に見えている。


 だから無理が利いている間に事態を改善する必要があった。

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