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紀美野さんは怪我とかありませんでしたか

活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現する企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。

RPGツクール版は近いうちに公開できればと思っています。


「紀美野さんは怪我とかありませんでしたか」

「はい。彼らは機巧姫が手に入れば私は無事に戻すと言っていましたから。小屋からは自由に出られませんでしたがひどいことはされませんでした。食事も私が作っていたぐらいで」


 それはさぞや好評だったことだろう。

 今だっていい匂いが鍋から漂ってきている。


「彼らと何か話をしましたか?」

「いいえ。ほとんど会話もなかったので」


 不要な情報を残すことはしないか。

 そこから足が付いたら人質を生かして戻す意味がないもんな。


「兄貴、元気になったんだって?」


 不動と翠寿が戻ってきた。


「心配かけたね」

「いや、全然。兄貴なら平気だって俺は信じてたし」


 履物を脱いで上がると、僕の隣に腰を下ろす。


「くすくす……」

「どうしたの」


 口元を隠して笑う葵に理由を聞く。


「主様が傷ついていたと知って一番慌てていらした方でしたから」

「ちょ、それは言わないでくれって頼んでおいただろ!」


 不動は耳まで赤くしている。


「それは心配をかけて悪かった」

「だから俺は心配なんてしてなかったって! そんなことより飯にしようぜ、飯! ああ、うまそうだなあ。さっきから腹の虫がうるさかったんだ」


 不揃いのお椀に汁物が取り分けられる。


「おいしーです!」


 翠寿はご機嫌だ。パタンパタンと尻尾が床を叩いている。


「はむ、はむはむ……ごくん。おかわり!」


 既に不動は二杯目を要求していた。


「アワブチ様はもう少しお休みになっているでしょうから、コウジュちゃんもこちらへどうぞ」


 紀美野さんは自分の隣をぽんぽんと叩いて紅寿を呼び寄せる。

 しかし紅寿は顔を上げただけで澪の元を離れようとしない。


「犬っ子姉。食える時に食っておけ。いざという時に空腹で主を守れないなんてことがないようにな。しかしあんたの作る飯は相変わらずうまいな。おかわり!」


 不動は三杯目にも関わらず堂々とおかわりを要求する。

 しばらくの逡巡の後、紅寿も腰を上げる。

 お椀に息を吹きかけて冷ました汁を口に入れるとピンと耳が立った。それから勢いよくお椀の中のものをお腹に収めていく。


「フブキ様はこちらをどうぞ。ゆるめに作ったので消化がいいですから」


 お椀の中身は少し赤味色のついたとろとろのおかゆだ。

 柔らかく煮込まれた小豆と小さくサイコロ状に刻まれているのは凍り豆腐かな。

 真ん中には色鮮やかな梅干しが鎮座している。

 見ただけで口の中に唾液があふれてきた。


「いただきます」


 うん、塩味が効いていて美味い。

 これならいくらでも食べられそうだ。


 横になっていた澪の体がもぞもぞしている。


「ん、んんぅ……」


 お椀を置いた紅寿は澪の枕元に座って様子を伺っている。


「なんかいい匂いがする……」

「体調が戻られたのでしたらアワブチ様もいかがですか」


 むくりと起き上がったものの、まだ目は完全に覚め切っていないようで頭がフラフラしていた。


「ん~。そうだね。私もいただこうかな」


 紅寿はかいがいしくお椀と箸を澪の前に用意していた。

 両手を目の前で合わせてから澪はお椀を手に取る。


「ん……おいしい」

「よかったです。このまま食材を使わずにおくのももったいなかったですからね」

「そうだな。このあたりだと米はかなり貴重だし。ありがたくいただいておこう」


 不動の言葉に思わず手が止まる。


「そうなの? 澪の領地はお酒を造ってるって聞いてたからお米がたくさんとれるのかと思ってた」

「姉貴のところは領地だけは広いけど米はあんまりとれないんだよな。ほとんどが山で、あとは沼地みたいな場所だし。そのくせ領民が多いからさ」


 鶯色の機巧武者と対峙した場所を思い出す。

 ああいった土地は稲作には向かないのかもしれないけど、泥炭を乾かしたら燃料にならなかったっけ。それを売れば多少のお金にはなるんじゃないだろうか。


「冬を越してやっと今年の作付けだったんだけどね。収穫があるまでは蓄えておいた食料でやりくりしないといけなかったんだけど仕方ないよ。だから全部食べちゃって」

「遠慮なくもらってるさ。ずずっ」


 不動は傾けていたお椀から口を離して床に置く。


「領民が大事にしてた食料を食ったんだ。それを食った以上は俺たちが領民を守らなきゃな。それが侍ってもんだ。だから俺は絶対に機巧操士になるぜ!」


 口元を引き締めた不動は何かを覚悟しているようだ。


「というわけでさ」


 胡坐をかいていた不動は器用に体を動かして中伊さんの方を向く。


「俺に紅樺の君をくれないか。頼む!」


 そう言って頭を下げる。

 中伊さんもお椀を置いて不動に向き直った。


「あれはもう壊れてしまったのではないですか」


 刃が何度も胴体を貫通しているし左腕も斬り飛ばしてしまった。

 あれは修理でなんとかなるレベルなのだろうか。

 そもそもの話として不動が連れ合いになれるかどうかもわからないんだけど。

Amazonやe-hon、セブンネット、Yahoo!ショッピングでも予約が始まっていますので、よろしくお願いします。

オフィシャルサイトは

https://arklightbooks.com/product/karakurihime/

です。

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