アツい
活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現する企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。
RPGツクール版は早ければ年内に公開できればと思っています。
アツい。
喉が渇く。
苦しい。
呼吸ができない。
体の奥底に炎を吐き出す種火が燻っているみたいだ。
籠った熱は際限なく高まり、内側から這いずり出ようとしている。
「ふうあああ、はああああぁぁぁ……はあぁぁぁ……」
体内の熱をすべて吐き出すように長く長く息を吐いた。
少し楽になる。
ゆっくりと目蓋を開く。
知らない天井だった。
なんだか視界が歪んで見えるのは体が火照っているせいか。
体を動かそうとすると背中にぬるりとした感触があった。全身が汗みずくだ。
眼窩にも汗が溜まっていて気持ちが悪い。
汗を拭おうと右手をあげようとしたけど何かが絡みついているのか動かなかった。
視線を向けるとふわふわの毛並みをした耳が顔のすぐそばにある。
「……おおう」
これはきっとあれだ。頑張ったご褒美に神様が見せてくれた夢なのだろう。
手を動かせないので遠慮なく鼻先を埋めさせてもらった。
「すぅぅぅ……ふう。この匂い、嫌いじゃないかも」
どことなくお日様の匂いを思い出す。干した布団の匂いだ。
存分に堪能した後に顔を上げる。
「じー…………」
知っている顔が形容しがたい表情で見下ろしていた。
困っているような、嬉しそうな、ほっとしているような、呆れているような……いくつもの表情がミックスされている。
「やあ、澪じゃないか。僕の夢にまで出張とはご苦労なことだね」
そういえば酔いつぶれた澪が僕の名前を寝言で呟いていたな。だったらこれでお相子だ。
声をかけたのに澪は返事をしてくれない。
小さく鼻を鳴らしてから手が差し出されて額に当てられた。
ひんやりしていて気持ちがいい。
「ああ、気持ちいい……夢だからかな」
「顔色も戻ってきたし、もう大丈夫みたいね。あとこれは夢じゃないから」
「……そうなの?」
え、本当に?
「そうだよ。キヨマサ君が寒い寒いって言いながら震えていたから、この子たちがお布団に入って温めてくれてたの。スイジュなんて見てるこっちが慌てるぐらい取り乱して大変だったんだから。起きたらちゃんとお礼を言ってあげてね」
そういえば反対側にも似たようなふわふわもこもこの耳があった。
「それは本当に感謝しないとなあ」
パタパタと尖った耳が揺れていた。
「まだ夜明け前だから、そのまま寝ちゃっていいからね」
「どのぐらい寝てたのかな」
「半日くらいだよ。思っていたより早く目が覚めてくれてよかった」
「お腹の傷は澪が治してくれたんでしょ。助かったよ。ありがとう」
戦いの最中にずっと感じていた痛みはなくなっていた。
見えないけど傷もすっかり塞がっているのだろう。
「それは……うん。普通のことだし。ちょっとっていうか、かなり危なかったんだからね。もうあんな無茶はしないで」
ざっくりというか、ずっぽりいっていたもんな。
槍がお腹を貫通とか初めての経験だ。
もう二度と経験したくないくらいには痛かったので神妙な顔をして頷いておく。
「助かってよかったよ。死んでたらこの先の楽しみを体験できなかったし。澪の領地で造ってるお酒も飲まないといけないしね」
視線をあちこちへと向けてみる。
「……葵は?」
「汗をかいてるキヨマサ君の体を拭くために冷たい水を汲みに行ってもらってるわ。すぐに戻ってくると思うよ」
「そっか。葵にもお礼を言わなきゃ」
機巧武者の姿になってからはずっと彼女が励ましてくれた。
何度心が折れそうになったかわからないけど、最後までやれたのは葵がいてくれたからだ。
「そういえば中伊さんたちはどうなの? 紀美野さんは無事だったんだよね?」
「うん、二人とも大丈夫。そのあたりは落ち着いたらちゃんと話すから、もう少し寝てるといいよ」
再び澪の手が額に当てられる。
冷たい手にほうとため息が漏れた。
体内に溜まり続ける熱が彼女の手に吸い寄せられているかのようだ。
「わかった。実はまだちょっと眠かったんだ」
目蓋が重い。まるで目に砂を投げ込まれたように眠気が襲ってくる。
「安心して寝ていいからね。おやすみ、キヨマサ君」
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