大丈夫なの!?
活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。
「大丈夫なの!?」
そういえば澪と初めて会った時にもそうやって心配されたんだったな。
にもかかわらず僕は彼女の着ていた忍び装束について考察をしていたっけ。失礼なこともあったものだ。
『兜が傷ついただけです。主様なら大丈夫です。立てます。そして勝ちます』
葵の言葉に思わず苦笑いが出た。
授業でやっていた剣道の面とは比べ物にならない衝撃だったんだよ。まだチカチカとした光が見えているぐらいすごい一撃だったんだ。
それなのに大丈夫な訳がないだろうに。
でも大丈夫だと言ってもらえたおかげだろうか。立ち上がる気力が湧いてきた。
真っ暗だった視界にじわじわと色が戻ってくる。
ぼやけた世界に何かが映る。
澪だ。
四足の美しい毛並みをしたケモノにまたがっていた。
「敵が来るよ! 返事をしてよ、キヨマサ君!」
「だい……じょ、ぶ……」
しっかりとした言葉にならない。
まだ手足が痺れているのか自由が効かない。
「……コウジュ、行って」
低く小さな声で澪が命令を下すと小さな影が飛び出した。
軽やかに僕の体に飛び乗り、弦走韋を張った胴の上に立つ。
そこで空を見上げているのは紅寿だ。
「うおおおおおぉぉぉぉん!」
そして山々に響き渡るような力強い遠吠えを上げた。
「るおおおおぉぉ――――ん!」
その遠吠えに応える声がある。
翠寿だ。
術が解けて動けるようになった翠寿が四つ足になってこちらへ駆けてくる。
「なに、を……」
するつもりなのか。
視界の隅にこちらへ迫ろうとする鶯色の機巧武者が映る。
まさか。まさかまさかまさか!
紅寿はちらりとこちらを一瞥する。
決意を秘めた表情。
そして胴から飛び降り駆け出した。
「や、めろ……」
人狼では機巧武者に勝てない。
機巧武者に勝てるのは機巧武者だけなのだから。
「キヨマサ君、立って! あいつを倒すために!」
「くぉぉ……」
肩を地面から引き剥がし、肘を使ってうつ伏せになる。
たったそれだけで目が眩む。
倦怠感が全身を包み、意識を手放しそうになる。
『主様、お気を確かに。気を失ってしまえばこの姿を保てなくなります。そうすれば戦うことができなくなります』
わかっている。僕がやるしかないんだ。
上体を起こしながら片膝をつく。
立った膝に手を当て、渾身の力を込めて立ち上がる。
「こっちだよ。ついてきて!」
ケモノにまたがった澪が促す。
ザクザクと地面を削る音がする。
背後では紅寿と翠寿が鶯色の機巧武者を引き付けてくれていた。
でもその必死の時間稼ぎも長くは持たない。
引きずるようにして足を前に出す。
敵を倒すことができる場所へ移動するために。
「ヘキジュ、お願い」
澪を背に乗せたケモノが走り出した。
静止状態から一気に加速したケモノは既に小さくなっている。
まさに目にも留まらない速度。これぞ〈神速〉。
遅れまいとその後に続く。
「むッ。背中を見せて逃げるつもりか!」
こっそりと二人組で戦っていた奴に言われたくはない。
声を無視して走る。
「ええい、チビどもがちょこまかと。邪魔だッ!」
背後で大地を穿つ大音がした。
先を駆けるケモノの足は速かった。
木々の間を速度を落とすことなくすり抜けるようにして走る。
置いていかれないように必死に足を動かす。
翻る肩の大袖が木に当たるのも気にせず駆け抜けていく。
倒木を飛び越え、下草を踏み分けてひたすら走る。
高速移動を可能にする〈神速〉は移動中も障害物を回避する動きの制御が可能だ。
一方、瞬きの合間に踏み込む〈縮地〉は戦闘などで距離を一瞬で詰めることができる。
〈神速〉が目にも留まらない速さだとしたら、〈縮地〉は瞳にすら映らない速度だと言える。
だがその速度で動き続けることはできない。
ある程度の距離を走るのなら〈神速〉は〈縮地〉に勝る。
そのおかげで鶯色の機巧鎧と距離を取ることができた。
「ここだよ!」
開けた場所に出た。
かなり広く、見渡す限りが人の背丈ほどある草で地面が覆われていた。
ところどころに水が溜まった場所もある。
急制動をかけると踝のあたりまでぬかるんだ地面に埋まった。
Amazonやe-hon、セブンネット、Yahoo!ショッピングでも予約が始まっていますので、よろしくお願いします。
オフィシャルサイトは
https://arklightbooks.com/product/karakurihime/
です。




