腕の一本や二本はなくなっているかもしれんがな
活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。
「腕の一本や二本はなくなっているかもしれんがな」
あっと思った時には目の前にいた。
「遅い」
首をひねって刺突をかわす。
吹き返しを穂先が削る。
動いた勢いそのままに右回りに回転しつつ腰から刀を抜き、右足を踏み込みつつ横に薙いだ。
「いない!?」
背中に衝撃。痛みに息が止まる。
振り返ると後方へジャンプした鶯色の機巧武者が離れいていくところだった。
こちらの回転に合わせて死角に潜り込まれていたらしい。
「速い……っ」
「お前が遅いだけ――だッ」
左足に衝撃。太ももを守る佩楯がなければ貫かれていた。
距離を取るために後ろへ跳躍する。
相手の間合いにいたら一方的にやられるだけだ。
「硬いな。だが我が槍が届けばいずれ貫けよう。あまり傷をつけたくはないのだが仕方あるまい」
刀と槍が相対すれば攻撃範囲の広さで槍に軍配があがる。
そこはゲームでも反映されていて、赤属性の刀は緑属性の槍に対して与ダメージが減り、被ダメージが増えるようになっていた。
実際にこうして相対してみてつくづく思う。
刀が槍を相手にするのは不利だ。勝てるビジョンが見えない。
この世界へ来て初めての戦闘ではこんなことを感じなかった。
同じ槍を持っていても、速さも強さもあの時とは比べ物にならない。
それだけ目の前の敵が強いということだ。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
『主様、大丈夫ですか?』
問いかけに応える余裕もない。
息が荒い。体が重い。
それに心なしか視界が隅の方から暗くなっている気もする。
『相手はかなりの手練れ。正面から打ち破るのは難しいでしょう』
わかっている。
何か策がなければこのまま押し切られるだけだ。
『なにより主様の命が持ちません』
なるべく早く決着をつける必要がある。
そうでなければ死ぬ。
死ぬのは困る。この世界でやりたいことがまだたくさんあるんだ。
「いつまでそうしているつもりだ。その手にある刀はナマクラか?」
腹部に衝撃がある。
「ふんッ。もう少しぐらい強く突いても大丈夫か」
十分に距離を取っていたはずなのに相手の槍が届いていた。
どうしても相手の動きについていけない。
機巧姫としては葵の方が絶対に優秀なのに。
機巧操士の違いなのか。
この世界の僕は筋力や敏捷性なんかも向上していると思っていたんだけど、それはただの思い込みだったのか。
『大丈夫です。あの程度の攻撃なら傷すらつけられません。ですが動きの素早さではあちらが上。勝つには相手の動きを制限する必要があります。足を止めることができれば――勝てます』
葵が勝てると言ってくれた。
それを信じるしかない。
でもどうやって止める。
動きは相手の方が一枚も二枚も上手だ。おまけに戦い慣れもしている。
鶯色が槍を構え、余裕のある足取りで立ち位置を変えている。
紅樺は鶯色の後方に隠れるように立ってこちらの様子を伺っていた。
同時に二体を相手にするのは絶対に無理だ。
まずは前面にいる鶯色を倒す。
生け捕りをしようと手を抜いている間に勝機を掴むしかない。
頭が上下に動かない見事な歩法で鶯色の機巧武者が動く。
しかも槍の構えは半身だから見えている体の面積が小さく打ち込みにくく感じる。
「兄貴! そいつは〈縮地〉で距離を詰めてくるぞ。離れるならもっと離れろ! そのぐらいの距離は全部相手の間合いだ!」
戒めの解けた不動が中伊さんを抱えて森に入り込むところだった。
「〈縮地〉の踏み込みは犬っ子の〈神速〉より上だから気をつけろ!」
技能を使えば能力値の差を埋めるどころか上回ることができるということか。
それならば技能を使わせなければいい。
あるいはこちらも何かの技能を使って押し切るのがゲームではセオリーだ。
「わかっていてもかわせるものではないがなッ」
鋭い突き込みを正眼に構えた刀で弾く。
手札が一枚明らかになっているんだ。落ち着いて対処すればいい。
ここは能力値の高さを活かせ。
「ふッ! はッ! はああァ!」
問題は尋常ではない速さだ。
この鋭い攻撃をすべて捌ききることは難しい。
連続した突きをかいくぐり接近を試みるも、クルリと槍が回ると迎撃されてしまう。
右前の場合、出かかりが速いので簡易的な槍衾が形成されて近づけなかった。
距離を開けると左前に構えてストロークの長く鋭い突きが放たれる。
動作の大きなその攻撃を逆手に取ろうと槍の穂先が下がるのに合わせて前へ出る。
「甘いッ」
前に出された左手は柄に添えるだけで後手の右手を巧みに操り、次の突きの準備を整えている。
「ふんッ!」
空気を穿つ音と共に突きが放たれる。
「つあぁぁ」
腰を落として穂先をかわし、地面スレスレを斬り払う。
鶯色が軽やかに飛び上がる。
剣の軌道を強引に曲げて追いすがる。
無理な態勢からの一撃は臑当を壊すに留まった。
振り切った刀の勢いもあり、かなり遠くまで鶯色を弾き飛ばす。
『こんなはずでは……』
葵の困惑が伝わってくる。
『今のは足を斬り飛ばしてもおかしくなかったはずです』
腰の入っていない一撃だったとはいえ臑当の篠に遮られて本体にまで刃が届いていなかった。
明らかに刀の切れ味が落ちている。
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