それならまずあの男から殺す
活動報告にキャラクターデザインや書籍版冒頭をRPGツクールで再現するゲーム企画の開発状況をアップしていますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。
「それならまずあの男から殺す。そうすればこいつらも考えを変えるだろう」
岩戸の視線は草むらから足だけを出してバタつかせている中伊さんに向けられている。
「一人殺せばこいつらも本気になるだろう」
「やめてくれ!」
中伊さんを無事に連れ帰ることは機巧姫を取り返すことよりも優先だ。
「僕たちは何もしないからそのまま立ち去ってくれ。そちらは機巧姫を手に入れる。僕たちは誰も欠けずに帰る。それでいいだろう」
「そいつで結構――」
「気に入らん」
岩戸は振り回していた槍を勢いよく地面に叩きつける。
連続して地面を削る音がする。
「何をするんでさァ!?」
地面が抉られ、大量の土砂が舞い上がる。
「わぷ。くそ、目が……葵! 中伊さんを保護してくれ!」
「はいっ」
地を蹴った音を残し葵が離れていく。
間近にある何かの気配。
気が付いた時には目の前にいた。
「キヨマサさま!」
翠寿の声に体を捻る。
「うぐ――っ」
わき腹を熱いモノが貫く。
「まずは貴様からだッ」
衝撃で吹き飛ぶ。さっきよりも転がる距離が長い。
体を丸めて衝撃を逃がす。まだ転がる。上下がわからない。
気が付いたら空を見上げていた。
「がはっ」
痛い。
体が半分なくなってしまったみたいだ。
お腹が熱い。
全身から汗が噴き出す。
「あがああああああああ!」
痛い、痛い痛い痛い痛い!
痛みを発する場所に手を当てるとぬるりとした感触があった。
熱いお湯がかけられているみたいだ。
「俺の初撃をよくぞかわした。だがそれではもう動けまい」
体から大量の血液が流れ出ていく感覚がある。
手足の先が痺れ、冷たい。きっと熱い血液が流れ出ているから熱も奪われているのだ。
ガチガチと歯が鳴っている。意識が遠くなる。
「主様!?」
葵の声が耳元で聞こえる。
一瞬、気を失っていた。
顔を上げる。
頬に触れる柔らかな感触。
温かい。じんわりと熱が伝わってくる。
心なしか体の奥底から力が湧き上がってくる気がする。
「生きることを諦めてはいけません主様! 主様! 吾を求めてください! 力を! 吾を!」
手を伸ばす。
誰かがその手に触れた。
そして導かれる。
指先が硬いモノに触れる。
トクントクンと脈動している気がする。
温かい。何か大切なものが指先を通じて伝わってくるみたいだ。
「願ってください! 力を! 力が必要だと! 吾はそのためにいるのです。主様!」
視界が霞む。
目の前にあるものがはっきり見えない。
聞こえていた声も遠くなっていく。
「まだこの世界で見ていただきたいものがたくさんあるのです! 主様!」
ああ、そうだ。
僕はまだ終われない。
ここで見たり聞いたり体験したことをゲームに反映しなくちゃいけないんだから。
だから、だから――
――力が欲しい!
混濁していた意識が急速に覚醒していく。
頭の芯まで澄み切っている。
同時に冷静な部分が告げていた。このままでは長くないことを。
それでも。でもだからこそ。やれることをやらなければ。
圧倒的な力がみなぎってくる。でもこの力の限界は近い。
地上を見下ろす。
依然として不動は絡めとられたままだ。
中伊さんも草むらでもがいている。翠寿はまだ結界に閉じ込められていた。
そして日影と岩戸だ。
日影が担いでいた機巧姫を岩戸に押し付けているところだった。
手分けをしてバラバラの方向へ逃げるつもりか。
それでもいい。確実にどちらかを倒す。
次の瞬間、目の前に二体の機巧武者がいた。
「な、に――!?」
一方は紅樺色で威された機巧武者。武具は腰に刀を差しており、もう一方は鶯色で手には槍を持っている。
「まさか!?」
日影と岩戸が――いない。
「こういう展開は想定していなかったが悪くない。むしろ武士の本懐とも言える。存分に楽しませてもらおう」
鶯色の機巧武者が進み出て、左前で槍を構える。
「面倒事は避けたかったんですがねェ。こうなりゃ仕方がありァせん。このことを知られた以上、きっちり片を付けやしょう」
信じられなかった。
出会ったばかりの機巧姫と共感することができるだなんて。
だが目の前に二体の機巧武者がいるのは間違いない。
それぞれの色は中伊さんが購入した機巧姫のそれと一致しているのだから。
「気を付けなせェ。ありァかなりの上物。できればあれも手に入れたいところですなァ。どうです、できやすかい?」
ジリジリと鶯色の機巧武者が距離を詰める。
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