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正直なところ、智人にとっては鈴木さんも糸居さんもへったくれもない。
誰もが目にかけるような異性であれ、脚光を浴びることのないような異性であれ、自分が意識する対象でなければ差別することなくクラスメイトの一部という認識だ。
視界の中でどうしても背景に染まり、置物と化してしまう人物が出ることは否めない。
しかし、枢人の場合は違った。
誰一人として深い関係に踏み込まぬけれど、一人でも多く最低限は繋がりを持とうとする。
まるで一人一人の人間を尊重し、背景に紛れて視界から消え去ることのないように。
それが自身の身を削らなければ到底叶わぬ苦行であることを智人は知っている。
運命の赤い糸のように、人が出会いを糸で例えるならば枢人が紡ぎ上げる糸は限りなく細い釣り糸だ。
本人はおろか獲物ですら断ち切ることは容易い。
どれだけ時間を費やしたとしても、切られてしまうのは一瞬なのだ。
そんな繋がりに価値を見いだせないと智人は思う。
だからこそ、無謀な挑戦に励む枢人を友人として応援したい気持ちもある。
千差万別の出会いと別れを繰り返さなければいけない人生を高校生ながらに見据え、臆病風を吹かせる自分に証明してほしいのだ。
それでも人と繋がりを持つことに、価値はあるのだと。
「色んな人間へ平等に接して、自分は人前で嫌み一つこぼさない。まるで接待でもしてるかのような仕事人間なのに、何故か嫌いになれないんだよなぁ」
智人の言葉に女子生徒二人は納得する。それが、綾杜枢人という男なりの生き方なのだと。
ならば、せめて自分がすべきことはできる限りの力を貸して成り行きを見守ることだろうと智人は悟った。
仮にも挫けてしまった枢人を目にしたとき、なりふり構わず支えてあげることができる人間になるくらいには、と。
◆ ◆
「どうした、そう息を荒げるほど急ぐ用事でもないだろうに」
生徒会室に入室するなり、待ち人であった生徒会長――弐敷天馬は悠長な様子で笑った。
まるで私物のように設備のストーブを焚き、一方で私物確定の急須は熱い緑茶を堪能するための秘密兵器らしく、満を持して机の上に君臨している。
生徒会室を自由奔放に扱う様はさながら、この空間を王国に見立てて支配下に置く暴君のようだ。
学識溢れた優等生でありながら垢抜けた一面も見せる、それが枢人にとって尊敬すべき親友の弐敷天馬という人物である。