プロローグ(3)
「ハッハッハ、アーッハッハッ! ハッ――」
狂気に震えて笑う少女の視界を完全に覆うべく、霧の中から姿を現した棺桶男は布袋を取り出し、慣れた手つきで彼女の顔を覆った。
視界が暗転するまでの僅かな時間で、棺桶男の正体が少女の記憶へ植え付けられる。
くたびれた黒革のロングジャケットに白のシャツ、鍔付きの帽子を被る顔は――――血飛沫が疎らに彩る奇妙な仮面で隠されていた。
なるほど、少女は壊死していく心の中で納得する。
出会った異形の正体はまさに、紛うことなき怪人だったのだと。
やがて、傀儡のように糸で拘束された少女は、六体の人形たちによって棺桶に幽閉された。
精一杯の叫びも、嘆きも、霧の中に飲まれて消え失せる。
奪われた視界、闇に包まれた閉所、反響する慟哭、入り乱れる恐怖と狂気の果てに――棺桶の少女は、失禁した。
呼吸を荒げ、意識が遠のいていく最中で、骨の軋む音が聞こえる。
そして、それは人形たちの身体が鳴らしているものだったのだと。
少女を封じた棺桶は人形たちに担がれ、棺桶男と共に霧が烟る夜闇へと消えていく。
伝染する失踪の答えは霧に紛れ、日常世界には行方不明者の数がまた一人刻まれる。