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Double bang

作者: 森椰恭輔

サークルで出たお題「梅雨」「銃撃戦」「体育祭」を使って書いた小説です。


   Double bang


 空は灰色の雲に覆われていて、人々に不吉な印象を与えていた。そんな中、この軍事専門学校内では季節外れの体育祭が行われていた。現在の種目は二人三脚。しかしこの二人三脚はかなり特殊である。一組に一つの拳銃と銃弾が与えられ、選手の胸と腹についている的を一つ撃ちぬかれるか、転倒すると脱落になる。そして四百メートルトラックを二十週走るか最後まで残った組が優勝となる。

 この競技に参加している柚子川久遠と勇田英弥はかれこれ十二週は走り、残るは久遠の組を除き一組となった。

 疲れが出始めた英弥は久遠に泣き言を言い始めた。

「なあ、久遠。俺たちもう十二週も走ってんだぜ。いい加減疲れてきたよ」

「泣き言を言うな。あと一組なんだ。ここまで来たら俺たちが勝つんだ」

 久遠はそう言うが、彼にも疲れが出ていた。ただこのままで終わったら今まで走ってきたのが無駄になってしまい、彼にはそれが苦痛で耐えられないのだ。


 その時突然がっはっはと耳障りな笑いが響いた。二人が振り向くと、後ろには二人三脚最後の一組が徐々に迫ってきた。

「おーいっ柚子川ぁ、追いついたぜぇ。てめえはここでお終いだぁ」

 そう下品なしゃべり方をするのは、身長が優に二メートル近くあり、鍛え抜かれた体を持つ郷島である。

「郷島、早く終わらせてよ。僕飽きてきた」

 気怠そうに不満を言っているのは、郷島とは対象的に背は低く、やせ細った体をした阿久津である。

「そう言うなって阿久津ちゃん、お前は何もしなくていいんだぜ。俺は今日という日をどれほど待ち望んでいたことかぁ。普段のうっぷんをあいつらにぶちまけてやるんだ!」

 郷島は拳銃を久遠に向けてきた。それを見た英弥は久遠に立ち止まるよう伝え、振り返って応戦し始めた。

「うっぷんだか何だか知らないが、やつあたりは良くないぜ。そんなことするやつは俺が成敗してやる!」

 英弥は引き金を引いて郷島の胸についている的を狙った。しかし郷島たちは、まるで一人で動いているような素早い身のこなしで弾に当たることはなかった。

「嘘だろ、二人三脚であんな動きするなんて」

 英弥は郷島たちの予想もしない動きに驚いた。

「どうしたぁ、もう終わりかぁ? なら次は俺の番だ!」

 郷島は銃口を英弥の足もとに向けて引き金を引いた。的を狙われると思った英弥は体をひねってかわそうとしたが、銃弾は英弥の足首に当たった。

「ぐあああああああああ!」

「英弥! しっかりしろ!」

 激痛で倒れそうになった英弥の体を久遠は支えた。

 この競技では実弾を使っていない。体育祭で死者が出ないよう、専用の特殊弾が使われている。しかし拳銃は本物であり、当たり所によっては怪我もあり得るほど、威力はすさまじかった。

「っしゃあ! まずは一人だ」

「何やってんの郷島。雑魚の勇田なんか後で簡単に潰せるだろ。柚子川から狙った方がまだ効率がいいとあれほど言っただろう」

 久遠の表情はだんだんと険しいものになっていった。久遠は拳銃を手に取り、郷島たちを睨み付けた。

「おい、訂正しろ。英弥は雑魚じゃない」

「はあ? 君は何を言っているんだい?」

「おいおい、そんなに恐い顔すんじゃねえよぉ。弱い奴から狙うのは立派な戦術ってもんだぜぇ」

 郷島はそう言って自分が有利であるかを示すようにへらへら笑い、阿久津も鼻で笑っていた。久遠は表情を変えずに郷島を睨み付けたままだった。

 そして、久遠は一つの決心をして重い口を開いた。

「……お前たちが正真正銘の下衆野郎だってことがよく分かった。それなら英弥の仇を思う存分打てるってわけだ」

 郷島たちは笑うのを止めて真剣な顔をした。

「なんだと? てめえごときが俺を倒せると思ってんのかよ!」

「君も案外馬鹿なのか? 二対一を覆すなんて無理なんだよ」

「人数差なんか大した問題じゃない。お前らなんかより早く脱落した奴らの方がよっぽど強い。何故ならお前らより潔いからだ」

「てめえ、よくもそんな口が利けるな。お前もぶっ潰してやるよ!」

 怒りに任せて郷島は銃弾を三発放った。

 同時に、久遠も拳銃を構え同じく三発撃った。

 久遠の撃った弾は郷島が撃った弾の正面に当たり、全て弾き飛ばした。

「な、なんだと? そんなことありえねえ!」

 当たるはずの弾なのに、全て当たらなかった。そのことが信じられない郷島は唖然としていた。

 その一瞬の隙を久遠は見逃さなかった。久遠は銃口を郷島の目に向けて引き金を引いた。

 久遠の放った弾は郷島の目の上を抉った。

「うがああああああぁぁぁぁぁぁ!」

「おい、郷島。早く反撃しろよ……って、ば、馬鹿野郎、こっちに倒れんな!」

 あまりの激痛に郷島は隣にいた阿久津を腹で押しつぶすように倒れていった。

 郷島が倒れた瞬間ホイッスルが鳴り響き、観客席から歓声が上がって競技の終了が告げられた。

 健吾は構えていた拳銃を下ろし、痛みでうなだれている英弥に声をかけた。

「俺たちの勝ちだぜ。相棒」


 二人三脚終了後、しばらくしてから土砂降りの雨が降ってきた。

 雨はあまりにも強く体育祭は一時中断となった。

 それからも雨は一向に止む気配が無く、続行は不可能と判断された。勝敗はその時点で得点の多い組が優勝という形に決まり、体育祭は終了した。

 久遠の組が優勝することはなかった。しかし彼にとっては二人三脚で英弥と手に入れた勝利が何よりも嬉しく、それだけで満足だった。


初投稿でかなり不安が多かったです。

一人でも多くの人々に読んでもらって、感想をいただけたら幸いです。


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