「馬車があるからもう必要ない」と追放されたスキル【荷物持ち】。実は【概念】すら収納できる神スキルだったので、彼らの『強さ』と『幸運』を全回収し、国家最高の概念管理組織の総帥になります。
「レオン。お前には今日限りで、このパーティを抜けてもらう」
冒険者ギルドの一室。
Sランクパーティ『黄金の獅子』のリーダー、ガルドは、俺に向かってそう告げた。
「……え?」
突然の宣告に、俺は思わず聞き返す。
「聞こえなかったのか? お前はクビだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! どうして急にそんな話になるんだ?」
「どうしても何も、お前が必要なくなったからだ」
ガルドは呆れたように肩をすくめた。
「お前のスキルは【荷物持ち】。戦闘能力は皆無。俺たちが魔物と戦っている間も、後ろで荷物を抱えているだけだ」
「でも、俺がいなかったら回復薬や魔道具を持ち運べないだろ?」
「それなら問題ない」
ガルドが指を鳴らす。
すると、部屋の外から一台の立派な馬車が運ばれてきた。
「見ろ。これからは馬車があるから」
「……馬車?」
「そうだ。これなら大量の荷物も運べる。わざわざお前を連れていく必要はない」
隣にいた魔法使いのミリアも、呆れたようにため息をついた。
「まったく、ようやく解放されるわね」
「……解放?」
「ただ荷物を持つだけのアンタに、わざわざ給料を払うの、はっきり言って本当に嫌だったのよね」
ミリアは俺を見下すように笑った。
「私たちが命懸けで戦って稼いだお金を、何もしていないアンタに分けるなんて馬鹿らしいじゃない?」
「そうだそうだ!」
剣士のロイドも同意する。
「荷物持ちなんて、誰でもできる仕事だろ? むしろ今まで雇ってやったことに感謝してほしいくらいだぜ」
……誰でもできる、か。
俺は彼らのために十年間働いてきた。
食料の管理から装備の手入れ、戦闘後の魔石回収まで。
誰よりも早く起き、誰よりも遅く眠る。
危険な魔物のいる場所でも、彼らが必要とする道具をすぐに取り出せるよう、常に準備していた。
それでも、彼らにとって俺はただの荷物持ちだったらしい。
「……分かった」
俺は小さく頷いた。
「今まで世話になったな」
俺はそのままギルドを後にする。
背後から聞こえてきたのは、彼らの笑い声だけだった。
◆
「はぁ……これからどうするかな」
ギルドを出た俺は、街の路地裏で立ち止まった。
これからの生活を考えると、頭が痛くなる。
俺のスキルは【荷物持ち】。
触れた物体を異空間に収納し、好きなときに取り出せるというものだ。
収納できる量には限界があるものの、普通の冒険者よりは遥かに多くの荷物を持ち運べる。
ただ、それだけ。
戦闘能力もなければ、魔法も使えない。
これからは誰かの荷物持ちとして雇ってもらうしかないだろう。
「……ん?」
そんなことを考えながら、自分のスキルを確認した。
すると、見慣れない表示が浮かび上がった。
【収納対象を確認しました】
【対象:疲労】
【収納しますか?】
「……疲労?」
何だこれ。
今まで見たことのない表示だ。
そもそも、疲労なんて物を収納できるはずがない。
「まあ、試すだけなら……」
俺は半信半疑のまま、『はい』と念じた。
その瞬間。
「……あれ?」
身体に妙な変化が起きた。
先ほどまで感じていた重だるさが、嘘のように消えている。
肩も軽いし、頭も妙にすっきりしていた。
「何だ、今の……?」
俺は自分の身体を見下ろした。
特に変わったところはない。
けれど、確かに何かが起きた。
「もしかして、さっきの表示が関係しているのか?」
俺はもう一度、スキルの詳細を確認した。
すると、そこには今まで存在しなかった項目が表示されていた。
【収納可能対象】
・物質
・魔力
・生命力
・状態
・概念
「…………は?」
概念?
そんなものまで収納できるというのか?
俺はさらに詳細を確認する。
すると、収納可能な対象の一覧に、奇妙な項目がいくつも並んでいた。
【強さ】
【幸運】
【不運】
【才能】
【敵意】
【疲労】
【絶望】
そして、その下には小さな文字が表示されていた。
【概念収納枠:1/5】
【同時収納可能数:最大5個】
「……五個まで?」
どうやら、概念を収納できる数には制限があるらしい。
物質を収納する空間とは別に、概念を保管するための特別な枠が五つ用意されているようだ。
「さっきの疲労って表示も、これに関係しているのか……?」
俺は収納物の一覧を開いた。
【収納物:疲労】
【所有者:レオン】
「……俺の疲労?」
そこでようやく、先ほどの出来事に思い当たった。
もしかすると、俺は自分の疲労を収納してしまったのかもしれない。
「いや、まさかな……」
半信半疑のまま、俺は収納物を選択した。
【対象:疲労】
【取り出し先を指定してください】
「取り出し先……?」
どうやら、収納したものを取り出すこともできるらしい。
俺は試しに、自分自身を取り出し先に指定してみた。
【対象:疲労】
【取り出し先:レオン】
【実行しますか?】
「……やってみるか」
俺は『はい』と念じた。
次の瞬間。
「うっ……!」
身体に重たい感覚が戻ってきた。
肩が重くなり、足取りも鈍くなる。
先ほどまで消えていた疲労が、再び俺の身体に戻ってきたのだ。
「本当に戻った……!」
俺は驚きながらも、すぐにもう一度スキルを発動した。
【対象:疲労】
【収納しますか?】
「もちろん!」
再び身体が軽くなる。
【概念収納枠:1/5】
「なるほど……!」
俺はようやく理解した。
このスキルは、物質だけでなく、目に見えないものまで収納できるらしい。
しかも、収納したものは自由に取り出せる。
自分自身に戻すことも、別の誰かに与えることもできるのだろう。
「……とんでもない能力じゃないか」
俺は自分の手を見つめた。
今まで自分のスキルを過小評価していたことが、急に馬鹿らしく思えてきた。
「ちょっと試してみるか」
俺は再びギルドへと戻った。
◆
「おや? レオンじゃないか」
ギルドに入ると、ちょうどガルドたちが受付で依頼を受けていた。
「何の用だ? まさか、戻ってきたいとでも言うつもりか?」
「いや、少し確認したいことがあってな」
「確認?」
俺はガルドを見つめた。
すると、再びスキルが反応する。
【収納対象を確認しました】
【対象:強さ】
【所有者:黄金の獅子】
【収納しますか?】
……あった。
俺は迷わず答えた。
「はい」
その瞬間。
「……ん?」
ガルドが不思議そうに自分の手を見つめた。
「何だ……?」
彼は一度、手を握ったり開いたりする。
「おい、どうしたんだ?」
ロイドが声をかける。
「いや、急に身体が重くなった気がしてな……」
ガルドは首を傾げながら、腰に差していた剣を抜こうとした。
しかし、剣を持ち上げることすらできなかった。
「なっ……!?」
両手で握り、力を込める。
それでも剣は動かない。
俺は収納空間を確認した。
【概念収納枠:2/5】
【収納物:黄金の獅子の強さ】
【収納物:疲労】
本当に収納できている。
しかも、個人ではなくパーティ全体の強さを奪えたらしい。
「ガルド、どうしたのよ?」
ミリアが不思議そうに近づく。
「分からん。急に力が入らなくなったんだ」
「ちょっと貸してみなさい」
ミリアはガルドの剣を持ち上げようとした。
だが、彼女もまた顔をしかめる。
「……重いわね。何なの、これ?」
「お前までか?」
「そんなわけないでしょ。ちょっと調子が悪いだけよ」
俺は彼らの様子を眺めながら、収納空間を確認した。
そこには、先ほど自分から収納した『疲労』が残っている。
これを、別の誰かに与えたらどうなるのだろうか。
俺は試しに、取り出し先をガルドに指定した。
【対象:疲労】
【取り出し先:ガルド】
【実行しますか?】
「……やってみるか」
俺は『はい』と念じた。
次の瞬間。
「ぐっ……!?」
ガルドの表情が歪んだ。
「な、何だ……急に身体が……!」
彼は膝に手をつき、荒い息を吐き始める。
「おい、ガルド! どうした!?」
ロイドが慌てて駆け寄った。
「分からん……身体が重い。まるで何日も眠っていないみたいだ……!」
俺は思わず目を見開いた。
成功だ。
俺が収納していた疲労を、ガルドに与えることができた。
しかも、ガルド自身は何が起きたのか分かっていない。
「……すごいな」
思わず声が漏れた。
このスキルは、ただ何かを収納するだけじゃない。
収納した概念を、別の誰かに与えることまでできるのだ。
そのとき、再びスキルが反応した。
【収納対象を確認しました】
【対象:幸運】
【所有者:黄金の獅子】
「……これもか」
俺は続けて収納した。
【概念収納枠:2/5】
【収納物:黄金の獅子の強さ】
【収納物:黄金の獅子の幸運】
すると、ガルドの頭上にあった照明器具が突然落下した。
「うおっ!?」
ガルドは慌てて飛び退く。
しかし、逃げた先には誰かが置いた荷物があった。
足を取られ、派手に転倒する。
「ぐあっ!」
「ガルド!?」
ミリアとロイドが慌てて駆け寄る。
「くそっ、何なんだ今日は!」
ガルドは床を叩きながら立ち上がろうとする。
しかし、そこへ近くを通りかかった職員が運んでいた書類の束が崩れ落ちた。
「うわっ!」
書類がガルドの頭に降り注ぐ。
「……おい」
ガルドは怒りを込めて周囲を睨みつけた。
俺は確信した。
間違いない。
俺のスキルは、概念を収納できる。
しかも、収納された概念は対象から失われるらしい。
「おい! レオン!」
ガルドが俺に気づき、声を荒らげた。
「お前、さっきから何を見ている!」
「いや、別に」
「ふざけるな! お前が戻ってきてから、妙なことばかり起きているんだぞ!」
「そうなのか?」
俺はとぼけた。
まさか、自分たちの強さや幸運が収納されたなどとは、夢にも思っていないだろう。
そのとき、再びスキルが反応した。
【収納対象を確認しました】
【対象:魔力】
【所有者:ミリア】
「これも収納できるのか」
俺は迷わず収納した。
【概念収納枠:3/5】
ミリアの杖から魔力が消える。
「……え?」
彼女は何度も魔法を発動させようとする。
しかし、杖からは何の反応もない。
「う、嘘でしょ……?」
「どうした、ミリア?」
「魔法が……出ないの」
「はあ? 何を言っているんだ?」
ミリアは何度も呪文を唱える。
それでも、いつもなら簡単に発動するはずの魔法が、まったく形にならなかった。
「どうして……?」
続いてロイドを見る。
【収納対象を確認しました】
【対象:剣技】
【所有者:ロイド】
こちらも収納した。
【概念収納枠:4/5】
「……ん?」
ロイドは自分の剣を握り直した。
そして、いつものように軽く振ってみる。
だが、剣先は大きくぶれ、普段のような鋭い動きはできなかった。
「おいおい、何だよこれ……」
何度振っても同じだった。
「俺の剣が……どうなってやがる?」
これで四つ。
残りは一つだ。
「お前! こんなことをして、ただで済むと思うなよ!」
ガルドが叫ぶ。
「俺たちはSランク冒険者だぞ!」
「そうだったな」
俺は笑顔で頷いた。
「今は、だけど」
そして、ギルドを後にした。
◆
それから三日後。
俺は王都の冒険者ギルド本部を訪れていた。
目的は、冒険者としての再登録……ではない。
「概念を収納できる、ですか?」
受付嬢が怪訝そうな顔をする。
「ああ。物質だけじゃなくて、魔力や能力、幸運なんかも収納できる」
「……失礼ですが、冗談でしょうか?」
「まあ、そう思うよな」
当然だ。
こんな話を信じろというほうが無理がある。
しかし、受付嬢が奥へ確認に行ってから数分後。
「すぐにこちらへ!」
慌てた様子で戻ってきた彼女に案内され、俺はギルドの奥にある特別室へと通された。
そこにいたのは、王国の宮廷魔導師だった。
「君がレオン君か。少し能力を見せてもらいたい」
「分かりました」
俺は部屋に置かれていた魔石に触れる。
そして、収納する。
次に取り出す。
それだけで、宮廷魔導師の表情が変わった。
「……なるほど。確かに収納系の能力だ」
「これだけではありません」
俺は彼の目を見た。
「例えば、あなたの魔力も収納できます」
「何?」
半信半疑の宮廷魔導師。
俺は彼の魔力を一部だけ収納し、すぐに戻した。
その瞬間、彼の目が大きく見開かれる。
「……信じられん」
「ちなみに、概念の収納枠は同時に五個までです」
「五個……?」
「はい。今は四個埋まっているので、あと一つしか収納できません」
宮廷魔導師は俺の説明を聞き、しばらく考え込んだ。
「それでも十分すぎる。いや、むしろ制限があるからこそ、運用方法を考える価値がある」
彼はしばらく沈黙した後、俺の手を握った。
「君の能力は、王国の歴史を変えるぞ」
その言葉は、決して大げさではなかった。
◆
それから一週間後。
俺は王宮に招かれていた。
目の前に座っているのは、この国の王と王女、そして大臣たち。
「レオン殿。あなたの能力については報告を受けている」
王は真剣な表情で口を開いた。
「率直に聞こう。あなたは我が国に協力してくれるつもりはあるか?」
「もちろんです。ただし、一つ条件があります」
「聞こう」
「俺自身が組織を立ち上げたいんです」
俺は一枚の紙を取り出した。
そこには、俺が考えていた構想が記されている。
組織名は『万象管理機関』。
世界に存在するあらゆる概念を管理し、必要に応じて保管・運用する組織だ。
「能力を持て余している人間や、才能があっても活躍できない人間を集めたい。そして、彼らの力を必要な場所に届けるんです」
「それは、冒険者ギルドのようなものか?」
「違います。もっと大きな組織です」
俺は笑った。
「いずれは国の防衛、災害対策、資源管理、外交まで担えるような組織にします」
「……面白い」
王は少し考えた後、頷いた。
「よかろう。王国の全面的な支援を約束しよう」
「ありがとうございます」
「ただし、一つ頼みがある」
王が隣に座る王女を見た。
「娘のアリアを、君の組織に協力させたい」
「え?」
「私も賛成です」
王女アリアが微笑む。
「あなたの能力は、きっと多くの人を救えます。私も、そのお手伝いをさせてください」
こうして、俺の組織作りが始まった。
◆
それから一年。
『万象管理機関』は、王国で最も重要な組織へと成長していた。
俺が最初に行ったのは、人材集めだった。
戦闘能力は低いが、魔法の知識に優れた研究者。
特殊な能力を持ちながら、使い道がなく冒険者を辞めた者。
治癒魔法に特化した者。
さらには、他国から追い出された優秀な技術者まで。
俺は彼らを積極的に採用した。
そして、俺のスキルを使って、彼らの能力を必要な場所に届ける仕組みを作った。
ただし、概念を収納できる枠は五つしかない。
そのため、何を保管し、何を取り出すのかは慎重に決める必要があった。
例えば、災害が発生した際には、収納していた能力を必要な人間に返す。
あるいは、戦争が起きそうな国の指導者から一時的に『敵意』を収納し、交渉の時間を作る。
五つの枠しかないからこそ、俺は一つ一つの概念を大切に扱うようになった。
そして、何よりも重要だったのは、人材だった。
俺のスキルだけでは、世界中の問題を解決できない。
だからこそ、優秀な人間を集め、彼らの能力を最大限に活かせる環境を作った。
結果、組織は急速に成長した。
国の防衛、災害対策、資源管理、外交。
あらゆる分野で成果を上げ、王国の人々から絶大な信頼を得るようになった。
気づけば、王国の人々は俺たちの組織をこう呼ぶようになっていた。
『国家最高の概念管理機関』と。
そして、その頂点に立つ俺の肩書きは、総帥。
かつて荷物持ちと呼ばれていた俺が、国の命運を左右する存在になったのだ。
◆
一方、その頃。
俺を追放した『黄金の獅子』は、見る影もなく落ちぶれていた。
「くそっ! 何でこんなことに……!」
冒険者ギルドの酒場。
ガルドは机を叩いていた。
彼らは俺を追放した直後、以前と同じように高難度の依頼を受けた。
しかし、結果は散々だった。
以前なら簡単に倒せていた魔物を相手に、何度も苦戦するようになった。
ミリアは魔法を使えず、ロイドは剣を思うように振るえない。
さらに、依頼のたびに不運な出来事が重なった。
準備していた道具が壊れたり、道に迷ったり、予想外の魔物に遭遇したり。
依頼は失敗続き。
報酬は減り、借金は増える。
ついにはSランクの資格まで剥奪されてしまった。
「レオンのせいだ……全部あいつのせいだ!」
ガルドは歯を食いしばる。
そのとき、酒場の壁に貼られていた新聞が目に入った。
『万象管理機関、隣国との共同事業を開始!』
大きな写真には、見覚えのある男が写っていた。
「……レオン?」
そこにいたのは、豪華な衣装に身を包んだ俺だった。
記事には、俺が国家最高機関の総帥に就任したことが書かれている。
「嘘だろ……?」
ミリアが新聞を奪い取る。
「この人が……レオン?」
「俺たちが追放した、あの荷物持ちが……?」
彼らは言葉を失った。
そして、さらに衝撃的な知らせが届く。
『黄金の獅子の元メンバー三名、万象管理機関への加入を申請するも却下』
当然だ。
俺は彼らを再び雇うつもりなどない。
そもそも、今の彼らには何の取り柄もないのだから。
「……あいつに会いに行こう」
ガルドが立ち上がった。
「俺たちの力を返してもらうんだ!」
しかし、彼らが王宮へ向かうことはなかった。
王都の門をくぐろうとしたところで、万象管理機関の職員に止められたからだ。
「申し訳ありません。総帥への面会は許可されておりません」
「ふざけるな! 俺たちはあいつの元仲間だぞ!」
「そのような記録は確認できません」
「なっ……!」
彼らは何度も抗議した。
しかし、誰も相手にしなかった。
かつて彼らが俺にしたように、今度は彼らが誰からも必要とされなくなったのだ。
◆
それからさらに半年。
万象管理機関は、隣国を含む複数の国と協定を結び、世界規模の組織へと成長していた。
俺の能力も、以前よりさらに進化していた。
概念収納の枠は五つのままだ。
しかし、収納と取り出しを繰り返すことで、俺は概念の扱いにすっかり慣れていた。
現在、俺の収納枠には四つの概念が保管されている。
【黄金の獅子の強さ】
【黄金の獅子の幸運】
【ミリアの魔力】
【ロイドの剣技】
そして、残り一つ。
空いている枠は、いつでも新しい概念を収納できるようにしてある。
俺は窓の外を眺めた。
王都の街並みは、今日も平和そのものだった。
かつて荷物持ちと馬鹿にされた俺が、ここまで来るとは思わなかった。
「総帥」
隣に立つ王女アリアが、微笑みながら声をかけてくる。
「どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ」
俺は笑って答えた。
「ただ、少し昔のことを思い出していただけです」
「昔……ですか?」
「はい。俺を追放した連中のことを、少しだけ」
「まだ気にしているのですか?」
「まさか。もうどうでもいいですよ」
俺は肩をすくめる。
彼らの強さも幸運も、今では俺の収納空間に保管されている。
この概念たちも、そろそろ誰かに譲り渡すべきか……
「総帥、次の目的地ですが、隣国が我が国に『敵意』を向けているとの情報が……」
隣に寄り添う王女が、引き締まった表情で書類を差し出してくる。
いまや俺の立ち上げた組織は、この国の命運を握る最高機関だ。
地上からは、かつて俺を「荷物持ち」と見下した連中の、届くはずのない絶望の悲鳴が風に紛れて聞こえていた。
俺は窓の外の青空を見つめながら、穏やかに微笑む。
「大丈夫。そんなもの、僕のアイテムボックスにサクッと収納して、代わりに余っている『黄金の獅子の幸運』でもばら撒いておきますよ」
追放された少年が作り上げた組織は、今日も世界を最高に理不尽なまでのハッピーエンドへと導いていく。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
わんちゃん連載するかもしれません




