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妹の通知

作者: finalphase
掲載日:2025/11/15

 三年前に死んだはずの妹から、最初の通知が届いたのは、命日の夜だった。


 風呂上がりにスマホを開いた瞬間、画面の上にひょこっと出てきたポップアップに、俺は手を止めた。


『美桜:にいちゃん』


 思わず息が詰まった。

 家族の中で、妹のアカウントを消せた人間は一人もいなかった。

 思い出を消すようで、どうしてもできなかったからだ。


 でも、こんな通知が来るはずがない。


 開く勇気が出なくて、結局その夜はスマホを伏せて寝た。


***


 翌日。

 講義を終えてアパートに帰ると、また通知が来ていた。


『美桜:ずっとみてたよ』


 鼓動がうるさいほど鳴った。

 まるで今日一日の俺の行動を知っているみたいだ。


 怖くて、けれど無視できなくて、震える指でトーク画面を開く。


 そこには、誰かが打ち込んだとしか思えない文字が並んでいた。


『きょう にいちゃん かえりおそかったね』

『へや さむいよ』


 俺は深呼吸を繰り返しながら、返信した。


「誰だ。やめてくれ。」


 既読は付かない。

 けれど直後に、メッセージが一つ増えた。


『うしろ、あったかいね』


 全身に鳥肌が立つ。

 振り返る勇気なんてなかった。


 俺はそのまま玄関から飛び出し、コンビニの明かりが見えるまで走った。


***


 それから毎晩、通知は届くようになった。


『にいちゃんのかお、すき』

『きょうもいっしょだったね』

『ふふ しってるよ』


 “知ってる”って何だ。

 妹は事故で──俺の目の前で──死んだんだ。

 知ってるわけがない。


 怖い。

 でも俺は、恐怖よりも“美桜が戻ってきたのではないか”という、ありえない希望のほうが大きかった。


 だから、その晩も通知が来た瞬間に開いてしまった。


 メッセージではなかった。

 写真だった。


 部屋の床。

 ぼんやりと写る、俺の後頭部。


 撮った覚えなどない。

 というか──昨日、部屋には俺しかいなかったはずだ。


 思わず手が震えた。


 その直後、スマホが震え、妹のアカウントから“通話”がかかってきた。


 俺は拒否できなかった。


***


「……美桜?」


 耳に当てたスピーカーからは、ザザ……ザ……と、湿った呼吸みたいなノイズ。


 混じって、か細い声がした。


『ねぇ……にいちゃん……』


「なんで……お前……」


『あのね……』


 ノイズが一瞬止まる。


『にいちゃんのかお……ないの』


 その瞬間、通話が切れた。

 ほぼ同時に、新しい画像が届いた。


 開いた画面を見た瞬間、俺は声にならない悲鳴を漏らした。


 俺の部屋。

 俺のすぐ後ろ。


 そこに、美桜が立っていた。

 笑っていた。

 だけど──


 顔の皮を、両手でめくり上げていた。

 まるで“俺の顔を探している”みたいに。


 震える俺のスマホに、最後のメッセージが届いた。


『ねぇ……にいちゃんのかお、かして?』


 そこで意識が途切れた。


***


 気がついたとき、俺はベッドの上で動けなかった。

 顔が重い。

 何かが貼りついているような感覚。


 震える手で触れようとして──やめた。


 スマホが光ったからだ。


『にいちゃん、ありがと。

 これで、いっしょだね』


 その瞬間、俺の“皮膚の内側”で、誰かが笑った気がした。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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