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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

本棚の奥の秘密

作者: 来宮サキ

(1)


受験生にとって長く退屈な夏休みが終わり、今日から2学期が始まりました。といっても、受験生にとっては夏休みなどないに等しく、来年の高校受験に向けてひたすら勉強する毎日です。友達の春奈とは夏期講習に通い、そうでない日は一緒に勉強して、顔を合わせない日はありませんでした。ですから、いざ学校が始まっても特別なことは何もなく、終わりのない受験生という身分を延々と続けているようなものです。


「今日も一緒に勉強するでしょ?」


始業式は型通りつつがなく終わり、学校は午前中で終了です。家に帰る道すがら、私は念を押すように春奈に尋ねました。


「うん、いいよ」


春奈は快く承知したように見えましたが、本音を言えば遊びたかったに違いありません。昨日も5時間は共に勉強しましたので、新学期の初日ぐらいはそうしてあげたいのもやまやまなのですが、何しろ春奈の学力がかなり怪しく、私が志望校を下げたとしても、このままでは同じ高校に入れないかもしれません。春奈はいちばんの親友ですし、できれば同じ高校に通いたいので、かわいそうだとは思いますが、そのためにはもう少し頑張ってもらわなければなりません。午後から春奈の家で勉強することを約束して、私たちは別れました。


お昼ご飯を済ませたあと、少し仮眠を取ってから家を出ました。10分ほど歩いた住宅街の一角にあるごく普通の一軒家が春奈の家です。形ばかりの庭を通って呼び鈴を押すと、春奈が出迎えてくれました。春奈は一人っ子で両親も共働きですから、家の中はがらんとして誰もいません。私には弟がいて、居間でゲームなどをしていると気が散るので、勉強するのはたいてい春奈の家になります。


勝手知ったる感じで2階へ上がり、廊下のいちばん奥が春奈の部屋です。南向きで日当たりのよい広々とした部屋は、ベッドと机を入れてもまだ余裕があります。フリルの付いたカーテンやシーツ、それに枕元に置かれた数体のぬいぐるみが、ついこの間まで中学生だったとはいえ、少し幼い印象を与えます。本棚には少女マンガがぎっしり詰まっていて、小説などは1冊もありません。私がいる間はいいとしても、誰もいなかったらこんな部屋でちゃんと勉強できるのでしょうか? 春奈が一人で勉強する姿はなかなか想像できませんが、マンガを読んでベッドに寝そべる姿は容易に想像がつきます。


あまり勉強熱心とは言えない春奈ですが、私と同じ高校に行きたいと言ってくれるのはうれしく思います。私が尻をたたくせいもありますが、嫌な顔ひとつせず勉強に付き合ってくれますし、一応彼女なりに努力してくれているみたいです。


2時間もみっちり勉強すると、春奈は頬杖(ほおづえ)を突いてぼんやりすることが多くなり、この辺が集中力の限界のようです。疲れたままでは効果も上がりませんので、一度休憩を取ることにしました。


春奈がおやつを取りに1階へ下りていく間、私は本棚にあるマンガにふと目が留まりました。部活もせず去年までは二人で遊びほうけていましたから、よく春奈の部屋でマンガを読んでは、有り余る時間をつぶしていました。その頃よく読んでいたマンガを手に取り、ペラペラとページをめくりました。魔法少女が活躍するどちらかといえば小学生向けの内容でしたが、春奈のことをバカにしながら、私もつい夢中になって読んでいました。


こんなところを春奈に見られたら恥ずかしいので、すぐマンガを元に戻そうとしましたが、本棚がぎゅうぎゅう詰めで、ちょっと押し込んだぐらいではうまく入りません。仕方がないので隣のマンガを取り出すと、奥の方に何かあります。何だろうと思いさらに数冊取り出すと、細長い棒状のものがハンカチで丁寧にくるまれていました。


私は急に胸がドキドキしてきました。誰にも見つからないように、本棚の奥にこっそりとしまわれたその物体は、形といい大きさといい、もしそれが私の想像通りのものだとしたら、私は見てはいけないものを見てしまったようです。


持ってみるとそれは思いのほか軽く、私の両の手のひらにちょうど収まるサイズでした。私は春奈にすまないと思いました。私がこんなものを見つけたばかりに、ひた隠しにしていた春奈の秘密が、今白日の下にさらされようとしているのです。開けるべきかどうか私は迷いました。しかし、ここまで来てしまって、どうして引き返すことなどできましょう。本当に春奈がそんなものを使って行為に及んでいるのか、この手で明らかにせずにはいられません。


固唾(かたず)をのんで、私はその物体を覆っているハンカチを取り払いました。鮮やかなピンク色をしたその細長いものは、先の方が膨らんでいて溝が刻まれています。もっと本物を模したグロテスクなものを想像していましたが、思ったよりずっとおしゃれで、外見からはマッサージ器に見えなくもありません。反対側にはスイッチが付いていて、それが何のためにあるのか、私の少ない知識でもすぐ理解できました。


こういうものを間近で見るのは初めてでしたので、私はただ目を白黒させるだけで、こんな太いものが入るんだろうかとか、スイッチを入れても感電しないのかなど、物珍しさもあって、その器具をしげしげと眺めていました。すると、階段を上る足音がかすかに聞こえてくるではありませんか。私はわれに返り、手にしていたものを急いでハンカチにくるみ、元あった場所に戻しました。そして、空いているところにマンガを押し込もうとしましたが、本棚がきつくてうまく入りません。春奈は階段を上り終わり、すぐそこまで来ています。もう入れ直している暇はありません。慌ててクッションに座り直したのと同時に部屋のドアが開き、春奈がおやつと飲み物を持って現れました。


おやつを食べている間も、私は本棚が気になって仕方がありません。よく見ると、私が押し込んだ2冊のマンガが、明らかにほかのマンガよりも手前にはみ出しています。幸い本棚は春奈の後ろ側にあるので視界には入りませんが、何かの拍子に振り向いたら簡単に見つかってしまいそうです。


勉強を再開したあとも、私はどうやってあのマンガを元に戻せばいいのか、そのことで頭がいっぱいでした。おまけにジュースを飲んだせいかトイレに行きたくなり、もはや勉強どころではありません。しかし、今席を立ってしまうと、私がいない隙に春奈がマンガを読んでしまわないかと思い、恐ろしくてトイレにも行けません。その後、1時間は我慢しましたが、もう尿意の限界です。


「今日はこのへんにしようか? 2学期の初日だし」


適当にそれらしい理由をつけて、私は勉強会を打ち切りました。春奈は意外な顔をしましたが、当然うれしくないはずはなく、私の気が変わらないうちにさっさと勉強道具を片付け始めます。私は本棚が見えないようにうまく間に立って、なんとか春奈を部屋の外へ誘導しました。そして、玄関までたどり着くと、「ゴメン、忘れ物しちゃった。ちょっと待ってて」と言って、部屋に引き返しました。もちろん実際は忘れ物などしておらず、部屋へ戻るための口実に過ぎません。私は飛び出していたマンガをどうにか引っ込めると、何食わぬ顔をして玄関に戻り、春奈の家を出ました。


なんとかバレずに済んだでしょうか? ハンカチの包み方は元の通りだったでしょうか? マンガの位置がずれたりしていないでしょうか? きれいに戻したつもりですが、不安は尽きません。絶対に見られたくないでしょうから、中をのぞいたことがわかるような何か巧妙な仕掛けがあったとしても不思議ではありません。私は気づきませんでしたが。


妹みたいなまだ幼い感じのする春奈が、あんなものを使っているなんていまだに信じられません。しかも、あの小さい体であんな太いものを! それとも、やっぱり上からあてがうだけでしょうか? 私だって週に1、2回はそんなこともしますが、自分の手以外でしたことはありません。


春奈がどうやってあれを手に入れたのかが気になります。中学生がお店で買えるとは思えませんので、やはりネットでしょうか? それとも、誰かに買ってもらったのでしょうか? 春奈にそんな年上の彼氏がいるとは思えませんし、まさか知らないおじさんからお小遣いをもらっているとか……。春奈に限ってそんなことはないと思いますが、私は何もかも信じられなくなりました。


帰宅すると弟は外出していて、家には誰もいませんでした。私は荷物をその辺に放り出して、トイレに直行しました。そして、便器に座り下着を下ろすと――。ああ、なんということでしょう。私の下着が少しぬれているではありませんか。直接触ってみると糸を引いて、漏らしたわけではないことがわかります。トイレを済ますと、私は下着もはかずにそのまま自分の部屋に駆け込みました。


家の中に誰もいないことをいいことに、私は自分の机で自慰しました。それも、事もあろうに春奈をおかずにしてです。――私が帰ったあと、春奈は本棚の奥からあの器具を取り出してベッドに横たわりました。スイッチを入れると器具は細かく振動し、それを下着の上から押しつけます。春奈は目をつぶり、時折小さな声を上げます。少しぬれてきたところで下着を脱ぎ、今度は直接あそこにこすりつけました。春奈の声が徐々に大きくなり、よがり声が誰もいない家に響き渡ります。そして、ついにあの器具を自分の穴に入れるのです――。


私も春奈と同じことをしてみたくなりました。もちろんそんなものは持っていませんので、代わりになるものを探します。とりあえず手元にあったシャープペンシルで試しました。でも、穴に入れるには細すぎるし、凹凸があって感触がよくありません。もっと太くてすべすべしているものはないかと思い、カバンから使い古しのリップスティックを取り出しました。春香のものと比べるとだいぶ小ぶりですが、奥まで入れるのは怖いので、これくらいがちょうどいいかもしれません。


私は少しずつ穴に挿入しました。すでにあそこはヌルヌルですから、リップスティックはすんなり入りました。そして、半分ほど出し入れしながら、もう片方の手で突起した部分を指でこすります。ああ、春奈は今、あの器具を使って私と同じことをしているのでしょうか? きっと今ごろは腰をくねらして、私が味わったことのないような快感に酔いしれているのでしょう。そして、私も春奈のまねをして、いつ弟が帰ってくるかもしれないというのに、興奮のあまり悲鳴のような声を上げました。


私は茫然(ぼうぜん)自失で、快楽の余韻に浸っていました。こんなに気持ちがよかったのは初めてです。今までにないほどの液があふれ出し、椅子をかなりぬらしてしまいました。私は精も根も尽き果てて、下半身もそのままで椅子にもたれかかっていました。やがて、穴に入っていたリップスティックが滑り出て、ポトリと床に落ちました。


(2)


次の日の朝、私は春奈に対する後ろめたい気持ちで学校へ向かいました。昨日は1回では飽き足らず、自分の部屋はもとよりお風呂場でも自慰して、さらにベッドの中で続きをしながら知らない間に寝ていました。壁一枚隔てた隣の部屋に弟がいてもお構いなしです。そして、自慰していないわずかな間に、スマートフォンで春奈と同じ器具を見つけ出し、購入する方法を真剣に考えました。


昨日を境にして、私は春奈を見る目がすっかり変わってしまいました。それまでは仲のいい友達にすぎませんでしたが、あの秘密を知ってしまった今は、もうそんなふうに考えることはできません。私は春奈に会うのが怖くなりました。


学校に着くと、春奈は友達とおしゃべりに興じていて、私が登校してきたことに気づきませんでした。私は自分でも驚くほど激しく動揺しました。なぜ私に気づいてくれないのか? なぜほかの人と楽しそうに話すのか? なぜ私以外の人に笑いかけるのか? 私の中で嫉妬の炎が渦巻きました。


視線の先に春奈の姿を捉えながら一人寂しく席に着くと、知らず知らずため息が出ました。もしかして秘密を知ったことを春奈が気づいて、私のことを無視しているのでしょうか? 誰にも口外しないと誓っても許してもらえないでしょうか? 春奈に絶交されたら私はどうすれば……。私はまったく途方に暮れてしまい、ただ春奈をじっと見つめることしかできません。しかし、そのとき奇跡が起こりました。春奈が私に気づいてくれたのです!


「なんだ、いつ来たの?」


春奈は私に優しくほほ笑みかけました。ああ、なんという天使! これを奇跡と言わず何と言いましょう! これ以外の言葉が見つかりません。春奈は昨日のことを気にするそぶりはなく、普段と変わらない調子で私に話しかけてきました。たったそれだけのことで、私の心は晴れ渡り、私を覆っていた暗い陰は一瞬のうちに消え去りました。


「今日も一緒に勉強するでしょ?」


もちろんです。もちろんですとも! 私は心の中でそう叫びました。


「今日も春奈のうちでいい?」


「うん」


放課後に春奈と二人きり。これがどんな特別なことなのか、私は今の今までわかっていませんでした。そして、さっきまで春奈とおしゃべりしていたクラスメートに向かって、こう言ってやりたくなりました。


(春奈は私だけのものよ。ざまあみろ!)


私は放課後が待ち遠しくて、こんなに時間を長く感じたことはありません。何度も時計を見ては、時間が進まないことをもどかしく思い、特に6時間目の授業は永遠のように長く感じました。


ようやく学校が終わり、私たちは春奈の家に直行しました。家に戻って着替える時間さえ、私には惜しいのです。今日も家の中には誰もおらず、春奈と二人きりです。ただし、同じ二人きりといっても春奈にとっては同じでしょうが、私にとっては昨日までとは意味が違います。


春奈の部屋に入ると、やはりあの秘密が隠されている本棚に自然と目がいきます。そこで私が見たものは――。ほんのわずかではありますが、あのマンガが前に飛び出しているではありませんか! 昨日の帰り際、私は間違いなく隣のマンガに寸分たがわずそろえたはずです。それはまさに私が帰ったあと、春奈があのマンガを動かした証拠にほかなりません。もっとも、春奈はただマンガを読んだだけなのかもしれませんが、その奥が今どうなっているか、私はどうしても知りたくなりました。


昨日の出来事を再現するかのように、2時間もすると春奈は勉強に飽きてしまい、休憩ということになりました。そして、昨日とまったく同じように、おやつを取りに部屋を出ていきました。春奈、どうか許してください。春奈のことは大好きです。それでも、昨日あの器具を使った痕跡がないか、私は確かめずにはいられません。


私は慎重にマンガを取り出して、奥をのぞきました――。私は震えるほど感動しました。あの器具を包んでいるハンカチが、昨日のものとは違っていたのです! ああ、私が春奈のことを思って自分を慰めている間、春奈も同じことをしていたのですね! それだけわかればもう十分です。私はマンガを丁寧に元に戻しました。もちろん1冊だけ少し手前に出しておくことも忘れません。


勉強が再開しても私は勉強が手に付かず、問題を解くふりをしながら春奈をチラチラ見やっては、あの器具で自慰する春奈を想像しました。こんなかわいい顔をしたいたいけな少女が、あのいやらしい器具をくわえ込みながらよがり声を上げて、さぞかしシーツを汚したことでしょう。ああ、私は全部知っているんです。春奈が一人で何をしているのかを!


「ちょっと、トイレ借りるね」


私はよろめきながら立ち上がり、部屋を出ました。トイレに入る前から、あのネバネバした液体が下着から染み出しているのがわかります。私の体はいったいどうなってしまったのでしょうか? 昨日、あれほどしたというのに、まだ足りないとでもいうのでしょうか?


(どうしよう、こんなにぬれちゃって……)


トイレで下着を脱いで、ぬれてしまったところをトイレットペーパーで拭きました。あそこはあふれんばかりの液体でドロドロになり、触ってもいないのにこんなになってしまうことを私は初めて知りました。


(うっ……!)


突起に少し触れただけで全身がしびれて、危うく声が漏れそうになりました。またリップスティックを入れたくなりましたが、あいにくカバンの中に置いてきてしまったので、私は左手の指を2本入れて、右手で突起部分をなでました。


「んっ! んっ!」


とうとうこらえきれずに声が出てしまいました。こんなところを春奈に聞かれたら私は破滅です。しかし、もうただ気持ちよくてほかのことは考えられず、私は無我夢中になって指を動かし続けました。


「うぐっ!」


あっという間に絶頂に達しました。友達の家のトイレという状況がそうさせるのか、昨日以上に興奮して、トイレの床と便器を盛大にぬらしました。これが潮吹きでしょうか? やり始めてからどれくらい時間がたったのかもわかりません。朦朧(もうろう)とする意識の中、トイレットペーパーでぬれたところを拭き取り、夢うつつの心持ちでトイレのドアを開けた瞬間、私は驚きのあまり悲鳴をあげました。なんと目の前には春奈が立っているではありませんか!


なぜ春奈がこんなところにいるのか訳がわからず、私はワナワナと震えるばかりで声も出ません。一方の春奈も、顔を真っ赤にして呆然と立ち尽くしています。


「あの、私……、真希があまりにも遅いから心配して……」


春奈の言うことは本当なのでしょう。様子を見に1階に下りてみたら、私のあえぎ声が聞こえてきて、さぞや驚いたことと思います。春奈の恥ずかしい秘密を知ったと思ったら、逆に私のいちばん恥ずかしい声を聞かれてしまいました。きっと罰が当たったんだと思います。私は情けないやら申し訳ないやらで涙が出てきました。


「ごめんなさい……、私……」


もう春奈の顔をまともに見ることができず、私は両手で顔を覆って下を向きました。


「そ、そんな気にしないで! そんなの誰だってやってるし!」


こんな私に対しても、春奈は必死に慰めようとします。なんて優しい子でしょう。それに比べ、私は悪い人間です。この期に及んで私は春奈の善意に付け込もうとするのです。


「本当に……?」


「そうだよ、私だってたまにしてるよ!」


「昨日も……?」


春奈の顔色がさっと変わったのを私は見逃しませんでした。なんという卑劣な人間なのでしょう。本棚の秘密をほのめかし、あわよくば春奈を私と同じの立場におとしめようとしているのです。


「私のだけ聞くなんてずるいよ……春奈のも聞かせて……」


私は何を口走っているのでしょうか? 自分でも歯止めが利かなくなってきました。このままだとあのことまで口を滑らすかもしれません。春奈はすっかりおびえてしまい、目には恐怖の色が浮かんでいます。あの事実を伝えたら春奈はどんな表情をするでしょうか? 羞恥と絶望でゆがんだ春奈の顔を想像して、私は胸がゾクゾクしました。私は知っているんです。本棚の奥に何があるのかを!


「冗談だよ……」


私はすんでのところで思いとどまりました。やっぱりあのことは口が裂けても言えません。春奈があまりにもかわいそうですし、恥辱は私一人が受ければいいのです。それに、春奈の性格からして、誰かに口外する心配もないでしょう。冗談だと知って少しは安心したようですが、私の笑えない冗談に春奈の顔は引きつったままでした。


とりあえず今日のことは暗黙のうちになかったことになり、私は家に帰りました。そして、部屋につくなり、トイレで春奈に遭遇したその後のことを妄想して2回目をしました。春奈に見られながら、私は強制的にトイレで自慰させられるのです。春奈が言うには、悪い子には当然のお仕置きだそうです。ひどいことをします。その日も夜中まで、私の手は止まりませんでした。




それ以降も私の自慰は止まらず、今日に至るまでほぼ毎日しています。やらなかったのはインフルエンザにかかったときぐらいでしょうか。その分、家で勉強する時間は目に見えて減り、それに応じて私の成績もみるみるうちに下降しました。もっとも、そのおかげで受験する頃には春奈との学力差はほぼなくなり、私たちは晴れて同じ高校に入学することができました。さすがに同じクラスというわけにはいきませんでしたが、私たちは行きも帰りも手をつなぎ、休み時間もずっと一緒に過ごしています。あまりにも仲がいいので、私たちの関係をうわさする人もいるようです。


今でも放課後には勉強会を行っています。といっても、もう受験生ではありませんので、真の目的は別のところにありますが。春奈はよほど気に入っているのか、あの器具はいまだに健在です。といっても、私にはまだ教えてくれないので、私も知らないふりをしています。いつか二人で使う日が来ればいいのになと思います。そうそう、私の本棚の奥にも同じものがあるんですよ。もうすっかり慣れてしまって、今ではすんなり入るようになりました。勉強会がない土日などは、春奈の代わりによく使っています。


宿題を済ませると、春奈の両親が帰ってくるまでまだ2時間ほどあります。春奈は私の隣に座り、腕を絡めて私に寄り添います。そして、私を見つめて切ないため息を漏らすのです。


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