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人魚隠しし灯篭流し  作者: 淡雪みさ


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15/41

異様な影



 :



「本当に女の子だったんだねぇ」

「いやぁ、あの女の娘のことだから、てっきり女が好みそうないい男が出てくると思ったんだけど。こんな女の子だなんて……」

「珊瑚は今どこに?」

「別室で仕置きを受けています。指を何本か切り落とす予定です」

「あらあら。あの子、あの仕置きは特に嫌いだものねぇ」

「どうせすぐ治るのだから、全ての指を切り落としてしまえばよろしいのに」

「それはさすがに可哀想ではなくって?」

「優しすぎるくらいでしょう。婆様が死んでいるのに。全て、不吉なものをこの屋敷に招き入れたあの子のせいなのですよ」


 大勢の話し声が聞こえて、ゆっくりと目を開いた。

 大広間のような和室の両側に、ずらりと同じ着物を着た男女が並んでいる。若い見た目の者も、老人のような見た目の者もいる。目視できる範囲だけでも数が多い。百人はいるのではないだろうか。

 文は身じろいだが、手足を縄でしっかりと拘束されていることに気付く。


「起きたのかい」


 文の元に近付いてきたのは、黒い着物姿の中年の女性だった。

 珊瑚の頬を平手打ちしていた人物だ。


「アンタには聞きたいことがあるんだよ」

「――私はやってません」


 おそらく彼女たちが知りたいのは昨夜の事件のことだろうと思い、聞かれる前に否定する。


 しかし、女性は不機嫌そうにぴくりと眉を動かし――縛られた状態で倒れている文の胸倉を掴んだかと思えば、勢いよく打ってきた。


「聞かれたことにだけ答えな! 勝手に喋っていいなんて言ってないよ」


 女性の耳をつんざくような金切り声が響く。頭が痛くなった。

 おそるおそる見上げれば、彼女は鬼のような形相をしていた。


「アンタじゃなかったら誰だってんだい。あたしたち人魚族はねえ、この島で気が狂いそうなほど長い時を助け合いながら過ごしてきたんだよ。結束力の強いあたしたちの中から裏切り者なんて出るわけないだろう。一番怪しいのはよそ者のアンタだよ!」

「う……裏切り者なんていない可能性はないのですか? 例えばこのお屋敷のどこかが老朽化していて、そこから怪異が入り込んだ可能性もありますよね? とにかく、私は一切知りません!」


 震える声で必死に否定するが、また平手打ちされてしまう。

 女性は文が認めるまで叩き続けるつもりのようだった。


(我慢しろ。こんなの、あの時よりは怖くない)


 一度は認めてしまえば終わりな気がした。

 文は茂との情事を思い出し、歯を食いしばって耐える。


「そもそも、アンタどこから来たんだい。何が目的でこの島へ? 人魚族を滅ぼすつもりで来たんじゃないのかい。え?」

「栃木から……。霧海村の近くに旅行に来ていて、浜から流されて、ここに流れ着いて……。この島のことも、人魚族という神様のことも、全然知らなかったです……」

「嘘を吐くな! ただの人間が、あの村からこの島まで船も使わずに来られるわけないだろう!」


 駄目だと思った。どう伝えても聞いてもらえない。彼女たちの中では最初から文が犯人なのだ。その犯人が何を言ったところで信用に値しないことは分かりきっている。


「……珊瑚さんは……?」


 文は力ない声で問うた。


「別室で仕置きをしている最中だよ。やめてほしければ正直なことを話しな」

「――やめて! 珊瑚さんは関係ない」

「おや、珊瑚は関係ないけれど、自分は関係あると認めるのかい」

「そうじゃない! 何の罪もない珊瑚さんに変な真似しないでって言ってるの!」


 必死に思考を巡らせる。


 どうしたら話を聞いてもらえるのか。

 どう交渉すればいいのか。


 文の足りない頭では即座に答えが出てこない。

 けれど、時間稼ぎくらいならできる気がした。


「私が怪しいと思うのなら、こうして私を縛ったままもう一晩待ってください。それで何も起きなければ私のことを犯人として扱っていい。ただ、もし今夜また何かが起こったら、それは私が招き入れたのではなく、この屋敷に怪異の通り道ができてしまっているということです。もう一晩、もう一晩だけ待ってください。珊瑚さんにも、何もしないで」


 泣きそうな声で訴える文を見て、目の前の女性はぷっと噴き出し、高らかに笑い始めた。


「例え犯人がアンタじゃなかったとしても、よそ者のアンタを生かしたところであたしたちには何の得もないね」


 どこからともなく現れた使用人のような若い女性が身を低くしながら中年女性に斧を渡す。

 文はぎょっとしたが、周囲の大人たちはまるで見世物を見ているかのようにケタケタと嗤っているだけだ。


「体をバラバラにするのは久しぶりだよ。きっといい悲鳴を聞かせてくれるんだろうねぇ?」


 悪い夢の続きなのではないかと思った。


 これまでの出来事は全て夢であり、本当は銀鱗島などどこにも存在せず、霧海村にも行っておらず、あの別荘での行為も幻で、現実の文は窮屈だが平和な栃木のあの家で両親と笑い合っている。


 全部夢だ――そう念じてぎゅっと固く目を瞑る。


 しかし、次に目を開けた時、そこは変わらない和室だった。



 中年女性が斧を振り上げた。


 現実だと、そう確信する。



 ――――絶望したその時、部屋の外から大きな悲鳴が聞こえた。


 女性がぴたりと動きを止め、悲鳴のした方に目をやる。


「……様子を見てきな」


 彼女は振り上げていた斧を下ろし、近くにいた者に短く命令した。

 すると何人かがすぐに部屋から出ていく。



 しばらくして外でざわめきが起こったかと思うと、一人が慌ただしく音を立てながら部屋に入ってきた。


「大変です! 離れの者が皆喰い殺されています!」


 離れ――珊瑚が言っていた、発症者を隔離している場所だろうか。

 場は騒然とし、足を崩して座っていた男たちまでもが立ち上がって部屋から出ていく。文を殺そうとしていた中年女性は畳の上に斧を置き、険しい表情で現場を見た者の話を聞いている。


 そして、不意に顔を上げて何者かに問いかけた。


「どうなさいますか、お爺様」


 中年女性の視線の方向を追うと、部屋の奥、御簾で隔たれた向こうに〝何か〟がいるのが見えた。


 その影は人の形をしていない。

 かといっておそらく動物でもない、異様な形をした影だった。




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