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第9話 別れと再会

キャラの名前の読み方

雪倉冬貴ゆきくらふゆき

燕泉凛つばめいずり

「……またさ、機会があったら一緒に戦おうぜ」


 何気なく言ったつもりだった。


 だが、泉凛は一瞬、目を丸くしてこちらを見た。


「べ、別に……アンタと組む必要なんて……」


 そう言いかけてから、言葉を濁す。


 「……ま、まぁ……考えておいてあげるわよ」


 頬を少し染めながらそう言う彼女に、冬貴は笑った。


「……ああ。でも、部活がないときだけどな」


 その時だった。


 泉凛が、ふと思い出したように振り返った。


「そういえば、ずっと気になってたんだけど」


「なんだ?」


「アンタ、どこの誰?」


「どういう意味だ?」


 問い返す冬貴に、泉凛は銀髪を指先で弄びながら、じれったそうに言う。


「私は昔から全国の強豪と戦ってきたけど、アンタなんて見たことがない。アンタ、どこ高校の何者よ?」


 一瞬、夜風が吹き抜けた。


 冬貴は短く息をつき、静かに告げる。


「俺は深越ふかごえ高校の雪倉冬貴だ」


「……は?」


 泉凛の顔が、見る間に険しくなる。


 知らない名前だった。それに、高校名も聞いたことがない。


「深越高校……? そんな学校、聞いたことないわよ?」


 その声には、明らかな疑念が滲んでいた。


「そりゃ、そうだろうな」


 冬貴は皮肉めいた笑みを浮かべる。


「ド田舎の、全校生徒80人以下の高校だからな」


「えっ……マジで?」


「マジだ」


「部員は俺含めて三人しかいないから、全国大会の予選に出場すらできない」


「じゃあ……中学は?」


「中学も地元の所に通ってたけど、そもそもアルカナフォージャー部がなかった」


 泉凛は驚きのあまり、思わず語気を強めて叫んだ。


「そんなに強いのに、なんでそんな学校に通ってんのよ!? もっといい学校に行けばよかったじゃない!」


 その言葉に、冬貴は目を細め、静かに呟く。


「……」


「何よ?」


 泉凛が問い詰めるように顔を寄せると、冬貴はゆっくりと口を開いた。


「……誰もが恵まれてるわけじゃないんだよ」


 その一言が、泉凛の勢いを止めた。


 冬貴がなぜやや不機嫌になったのかは分からない。だが、その微妙な表情の変化から、彼の琴線に触れてしまったことだけは、泉凛にもはっきりと伝わった。


「……あっそ。悪いこと聞いたわね」


 泉凛はバツの悪そうに視線を逸らし、冬貴はふっと笑う。


「まぁ……全国に行くのを諦めてるわけじゃないんだけどな」


 泉凛が驚いたようにこちらを見つめる。


「確かに、設備もないし、強豪みたいに有名でもない。でも、仲間と一緒に、全国に行きたい。改めて今日、そう思ったよ」


 冬貴は拳を握りしめ、まっすぐ泉凛を見据えた。


「今日、一緒に戦って、確信した。俺も……君みたいに強くなって、あの舞台に立つんだって」


 泉凛は少し目を見開き、そしてそっぽを向く。


「……ふん、勝手にすれば?」


 けれど、その横顔はどこか柔らかく見えた。

冬貴はその様子に微笑みながら、静かに付け加える。


「また一緒に戦おう」


「……仕方ないわね。じゃあね。冬貴」


 泉凛は腕を組み、ふんっとそっぽを向く。


 彼女の言葉に、冬貴は苦笑しながらログアウトボタンを押した。


●▲■


 冬貴と泉凛の共闘から1か月。季節は春へと移り変わり、暦の上では新学期の始まり。


 だが、ここ、新潟県南越後(みなみえちご)深越(ふかごえ)町はまだ冬の気配を色濃く残していた。灰色の空に、ちらほらと名残雪が舞う。


 家の戸を引くと、ギシギシと軋む音がする。木枠が古びていて、もう何年も修繕されていないことが伺えた。


 「……寒いな」


 呟くと、白い息がふわりと広がる。


 唯一の家族である父親はもう仕事に出ていて、朝食の跡がそのままの食卓が寂しく残っていた。


 いつものように、誰もいない家に向かって「行ってきます」と一声だけかけ、玄関を後にする。返事は当然ない。


 そんな日常を繰り返しながら、冬貴は田んぼ道を歩く。


(……あいつとの共闘、面白かったな)


 思い出すのは、一か月前のあの戦い。


 突っ走ってばかりの無鉄砲な少女。だが、その剣筋には確かな実力があった。泉凛――その名を思い浮かべたときだった。


 学校近くまで差しかかったところで、前方から強い風が吹きつける。


 冬貴の目の前を歩いていた女子のマフラーがふわりと宙を舞った。


 無意識に手を伸ばし、それをキャッチする。柔らかな手触りと、かすかに花のような香りがした。


「はい、これ」


 そう言いながら差し出した瞬間、その女子が振り向いた。


「あ、ありがと……あれ?」


 その声と話し方――間違いなく、知っている。


 黒髪が風になびき、白い肌が朝の光を反射していた。整った顔立ちはどこか勝ち気で、瞳には挑戦的な輝きが宿っている。


「は?」


 思わず間抜けな声が出た。


 少女――燕泉凛はニヤリと笑う。


「久しぶりね、雪倉冬貴」


 彼女は当然のようにそう言った。


「……どういうことだ?」


 ようやく口を開いた冬貴に、泉凛は腕を組んで得意げに笑う。


「ん? 見ての通りよ。今日からあんたと同じ高校に転入したの」


「……え?」


「ねえ、冬貴。私と一緒に、全国制覇しない?」

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