第5話 【コード・オーダー】俺の能力
キャラの名前の読み方
雪倉冬貴
燕泉凛
雷鳴が轟き、空間そのものが震え上がる。
冬貴の視線の先――そこにそびえ立つのは、漆黒の鱗をまとった巨竜。【雷葬のヴェルキオス】。
その眼前には、黒髪を翻した少女――燕泉凛が、ただ一人で刃を構えていた。
次の瞬間――。
「グオオオオオオオ!!」
雷を孕んだブレスが、稲妻の奔流となって大地を焼き尽くす。空気が悲鳴を上げ、地面が砕け散る。
だが――。
泉凛の姿が、疾風のように霧散したかのように掻き消えた。
「……どこに!?」
冬貴が目を凝らす間に、閃光が疾る。
「【ブラッド・エクリプス】!!」
禍々しい紅黒のエフェクトが炸裂し、漆黒の剣が唸りを上げながらうねるように振り抜かれる。
泉凛の鋭い一撃が閃く。漆黒の刃がうなりを上げ、竜の硬質な鱗を正面から切り裂いた。甲高い音とともに、巨体が僅かにのけ反る。
(すごいアルカナだ……。ダメージはどれくらい入ったんだ?)
モンスターのHPゲージに視線を走らせた瞬間、冬貴の眉がピクリと動く
(……残り6割……? いや、待てよ……)
違和感が走る。
このアルカナの攻撃力では、圧倒的な手数で攻め続けなければ、HPの4割すら削ることはできない。ヴェルキオス級のボスは、そんな単純な削り合いで倒せる相手ではないだろう。
(さっきのダメージ量で、ここまで減ってるわけがない……なのに、もう6割しか残っていない……)
その時、冬貴の脳裏にあの感覚がフラッシュバックする。
――地面が崩れ、奈落へと落ちた瞬間。
「まさか……!」
冬貴は息を呑んだ。
(落下の衝撃で……あの時、ヴェルキオスも大きなダメージを負っていたのか!?)
もしそうなら――。
(……勝てるかもしれない……)
だが、確信と同時に不安がよぎる。
(しかし、この作戦は1人では不可能だ……)
拳を握る冬貴。
その刹那――。
「――グオオオオオオオ!!!」
巨竜の咆哮が洞窟全体を揺るがした。空気が震え、耳鳴りがする。
鉄塊のごとき巨大な爪が、目にも留まらぬ速さで泉凛に振り下ろされる。
「くっ……!」
泉凛は反射的に身を捻り、紙一重でかわす――はずだった。
しかし、爪の先端が腹部を掠める。
「ぐぅっ!」
鋭い衝撃が全身を貫いた。泉凛の体は無防備に宙を舞い、弧を描いて地面を転がる。
砂塵を巻き上げながら数メートル引きずられ、ようやく止まった時には、荒く息を吐き出し、膝をついていた。
すぐにアイテムウィンドウを開く――が、ポーションの残量表示は「0」。
「……ウソでしょ……」
小さく漏れた声が、震えていた。
「もう……ポーションないじゃない……っ!」
巨竜が大地を揺るがせながら迫る。
圧倒的な質量と威圧感が空気を支配し、洞窟全体に重圧が満ちる。
黄金に輝く双眸が鋭く細められ、まるで逃がさぬとばかりに泉凛を捉えた。
「くっ……!」
体が動かない。雷の痺れが、思うような行動を阻害する。
――その時だった。
「こっちだ、モンスター!」
鋭い銃声が響き、竜の注意が逸れる。
「……アンタ、まだいたの!?」
驚く泉凛に、冬貴は淡々と応じる。
「ああ」
「死ぬわよ!?」
「それはどうだろうな」
「グオオオオオオッ!!」
再び竜が咆哮し、口内に青白い閃光が収束していく。空気がビリビリと震え、周囲の温度が一気に上昇したかのような錯覚に陥る。
次の瞬間、眩い雷撃が奔り、灼熱の閃光とともに強烈なブレスが放たれた。
しかし――
「【コード・オーダー】リアライズ――」
冬貴がそう言うと、白銀の魔法陣が輝きを放ちながら出現し、冬貴の周囲を複数の色彩が旋回する。それらが軌道を描きながら回転し、やがて冬貴の手元で収束し、一つの形を成した。
「【雷盾】!!」
冬貴が叫ぶと、彼の周囲に淡い黄色の半透明な盾が瞬時に展開される。
冬貴は盾を構え、強烈な衝撃に耐える。稲妻が奔り、全身に痺れるような感覚が走る。
揺れる盾に手を添えながらも、なんとか踏みとどまるが、雷のエネルギーが激しく押し寄せ、足元の地面が焦げ付き、ひび割れていく。
「雷属性専用に効果を絞ってるはずなのに……完全には抑えきれないか……!」
だが――
バチィッ!!
鋭い音とともに、雷の一筋が盾を貫通した。
「くそっ!」
貫通した雷撃が冬貴の肩をかすめ、同時に、強烈な衝撃が体を押し飛ばした。
冬貴の身体は数メートルほど後方へ弾き飛ばされる。衝撃で息が詰まり、視界が一瞬揺らいだ。
「うわっ……!」
しかし、盾が衝撃を大幅に軽減したおかげで、吹き飛ばされながらも体勢を崩さず、なんとか地面に着地する。
やがて、轟音と閃光が収まり、雷のブレスが止んだ。
硝煙のような焦げ臭い匂いが立ちこめる。
「何とか持ちこたえたな……」
冬貴が膝をついている泉凛に、ポーションを投げて渡す。泉凛はそれを飲み干し、傷が癒えるのを感じながら、立ち上がった。
「……アンタ、本当にたまたま落ちてきたワケ?」
「ああ」
「それなのに、ちゃんとこのモンスター用のアルカナ、用意してんじゃない!」
「……違う」
冬貴は静かに言った。
「これは俺のアルカナ【コード・オーダー】の能力だ」
「……は?」
泉凛の目が丸くなる。
冬貴が言う。
「君も知ってると思うが、アルカナは本来なら、事前に作成して、戦いに臨まないといけない。作れる場所がアルカナ製造所に限られているからな」
「それが何よ?」
泉凛が眉をひそめる。
「俺は、いつでもどこでも、所持している素材を組み合わせてアルカナを作り出せる」
「――な、何それ……! チートじゃない……」
言いかけた泉凛の表情がわずかに曇る。すぐに、この能力の難しさに気づいたのだ。
確かに強力だが、便利とは言い難い。
所持しているアルカナ素材の効果を正確に把握 し、戦闘中に最適な組み合わせを瞬時に判断しなければならない。
ただの知識では無理だ。冷静さと経験が不可欠な力。
「そんな能力……よくアタマ爆発しないわね」
「……まあな」
冬貴が肩をすくめた。
「あれ……?」
泉凛が眉をひそめ、冬貴をじっと見つめる。何か引っかかったような表情だった。
「てかアンタ……他人である私にアルカナを公開してよかったわけ?」
冬貴の顔が一瞬、険しくなる。
本来、アルカナは仲間以外の他人に明かすべきものではない。試合などの対人戦において、勝敗を左右する切り札だからだ。
(……でも、今はそんなこと言ってる場合じゃない)
冬貴は【雷葬のヴェルギオス】を睨んだ。雷を纏い、異様な速さと範囲攻撃を持つ強敵。単独で勝てる相手ではない。
拳を握りしめ、冬貴は低く呟く。
「共闘するなら、それが必要だからな」
「は?」
泉凛が怪訝そうに眉をひそめる。
(……出口が完全に塞がってるな。戦闘中だからテレポートも不可。つまり――)
「ここから脱出するには、アイツを倒すしかない」
冬貴が静かに言い放つと、泉凛は鼻を鳴らした。
「そんなの、最初から分かってるわよ!」
「だから、頼む! 俺と協力してくれないか?」
「……は?」
「デスペナルティで金と経験値を落とすのは避けたいんだ。それに、お前もアイツの素材が欲しいんじゃないのか?」
「……」
泉凛の足が止まる。
一瞬、迷いがよぎったかのように見えた。だが、次の瞬間――
「いやよ! 私だけで倒すんだから!」
その迷いを振り払うように叫び、泉凛は単身で巨竜に向かって突っ込んでいった。
「おい、待て!」
冬貴の制止の声が響くが、泉凛は振り返ることなく突き進んでいく。
●▲■
泉凛は走りながら、全国大会後の出来事を思い出していた。
――スタメン落ち。部内での孤立。失った居場所。
『……燕、お前がいなければ、勝てたかもな』
『お前のせいで、俺たちは全国で恥をかいたんだ』
今でもチームメイトからの言葉が脳裏をよぎる。
あの試合以来、彼女はチームを離れ、一人で強力なアルカナの素材集めに明け暮れてきた。
古今東西の強力なボスと戦った。だが、天才プレイヤーと言われた彼女も、所詮それは対人戦の話だ。
もともと、パーティーでの戦闘を前提に作られたモンスターにかなうわけがない。それでも、一人で戦い続けていた。
少しでも強くなるために、強くなって、自分の戦い方が間違っていないと証明するために。
「私の力を証明する!」
彼女の足は止まらない。
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【雪倉冬貴】Lv.41 深越高校2年生
◆ 故郷 ◆
【緋雨市】
→職業【異能力者】
◆ ステータス ◆
HP : 3150/3150
MP : 5940/5940
ATK : 3764(攻撃力)
DEF : 3456(防御力)
SPD : 4790(素早さ)
◆ アルカナ ◆
【コード・オーダー】Lv32
◆ 装備 ◆
・武器
【コード・エンフォーサー】(剣)
アルカナを発動した直後の攻撃力が+15%上昇 (10秒間)
【レゾナンス・ストライカー】(銃)
アルカナ発動中に攻撃を当てると、アルカナの効果が10%強化される (持続10秒)
・防具
【エイジス・ヴェール】(上装備)
アルカナの発動回数が多いほど、次に発動するアルカナの効果が段階的に強化(最大+25%)
【エーテル・サーキット】(下装備)
MP回復量を50%増加。 (1秒ごとにMPが1.5回復するようになる)
【フェンリル・グリーヴ】(靴装備)
回避率 & 移動速度25%上昇。
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