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第3話 まさかの出会い

キャラの名前の読み方

雪倉冬貴ゆきくらふゆき

燕泉凛つばめいずり

 冬貴が降り立ったのは【修羅戦域しゅらせんいき】。


 ここはアルカナフォージャーに存在する五つのフィールドのうちの1つで、『武の極致を求める者たちが集う修羅の戦場』をコンセプトにしている。


 このフィールドは、西洋騎士道が息づく【西方領せいほうりょう】と、戦国の武士文化が根付く【東方領とうほうりょう】、二つの勢力が対峙する世界観を持つ。


 武器と力が全てを決するこの世界。ここを故郷に選んだプレイヤーは、アルカナを宿した唯一無二の武器を作成することができる。


 冬貴は【西方領】にいた。


 目の前に広がるのは、まるで中世ヨーロッパの城下町。石畳が整然と敷かれ、重厚なレンガ造りの建物が立ち並んでいる。


 「何度来てもすごいな……」


 冬貴は感嘆の声を漏らしながら、城下町を抜け、森へと足を向ける。


 目指すは、奥深くに広がる洞窟ダンジョン。


●▲■


 ダンジョンは街の喧騒とはまったく異なり、人の声も足音もない。響くのはモンスターの咆哮と、重く沈む打楽器が織りなす、不気味なBGMだけだ。


 アルカナフォージャーのフィールドは広大で、無数のダンジョンが点在している。そのため、ダンジョンに潜っている際に、他のプレイヤーと一切遭遇しないことも珍しくはない。


 ダンジョンは、横に細長い空間が幾重にも連なる構造をしている。壁や天井は岩でできているが、モンスターやプレイヤーの攻撃が当たると、脆く崩れやすい。


 下の階層へ行くほど空間が広がる設計になっており、冬貴が現在いるのは中央よりやや下の階層。そのため、横幅は50メートル以上の広さがある。


 時折、地面が低く唸るように震えた。


 このダンジョンでは、無数のモンスターが生息しており、多種多様なアルカナ素材を手に入れることができる。


 目の前に、鋭い爪を持つ異形の獣が現れた。


 半透明の黒い影を纏い、実体と虚像を行き来するように揺らめく。その姿はまるで死神のようであり、細長い四肢の先には鋭利な刃のような爪が伸びている。


「見つけたぞ。【ファントム・リーパー】」


 冬貴は低く呟き、武器を構えた。


 右手の剣を素早く振るい、一閃。鋭い刃が【ファントム・リーパー】の黒い身体を裂き、血のようなエフェクトが舞う。


 しかし、敵は即座に跳び退き、距離を取る。冬貴は逃さず左手の銃を構え、即座にトリガーを引いた。弾丸が獣の肩を貫き、衝撃で動きが鈍る。


「――終わりだ」


 冬貴は一気に踏み込み、剣を振り下ろす。鋭い切っ先が闇を裂き、【ファントム・リーパー】は断末魔の叫びを上げて崩れ落ちた。


 『【ファントム・リーパー】の討伐報酬、アルカナ素材【影喰いの牙】を入手しました』


 システム通知が視界に浮かぶ。素材の説明には、『闇属性の攻撃力を高める効果を持つ』と記されていた。


 「よし、ゲットした。……さて、進むか」


 手に入れた素材を確認し、ダンジョン遠くへ進もうとした、その瞬間——。


 ゴゴゴゴゴゴ……ッ!


 地面が不気味に唸りを上げる。


 「なんだ?」


 冬貴が声を上げた瞬間、足元の地面が突然砕け散った。


 鈍い轟音とともに、土砂と瓦礫が崩れ落ちる。


 視界が激しく揺らぎ、身体が虚空へと投げ出される。


「なにっ!?」


 掴むものなど何もない。ただ落ちる。暗闇が口を開け、冬貴を呑み込もうとしていた。


 冬貴は必死に体勢を整えようとするが、重力には抗えない。


 轟音とともに、彼は奈落の底へと吸い込まれていった——。


 落下の衝撃と土砂に埋もれる感覚の中で、冬貴は咄嗟にアルカナを発動させた。


(……っ、頼む!)


 身体を包む淡い光が、地面激突寸前にふわりと重力を緩める。ドン、と鈍い音を立てながらも、致命傷は避けられた。


 荒い息を整え、崩れ落ちた瓦礫を押しのけながら、冬貴は這うようにして立ち上がる。


 視界に広がるのは、荒れ果てた広間。古びた石柱が不規則に並び、床にはかすれた紋様が刻まれている。


「……ここは……?」


 冬貴が呟いた瞬間、肌を刺すような冷気が全身を包む。空間に満ちる不穏な静けさが、ただの地下ではないと本能に訴えかけてくる。


 そのとき——。


 ズシン……。


 地を揺るがす低い振動と共に、暗闇から異形の影が現れた。


 「……っ!? あれは——」


 視線を上げた先にそびえ立つ、巨躯のドラゴン。


 黒き鱗は闇に溶け込むように鈍く輝き、黄金の双眸が獲物を見据えている。口元から漏れる紫電が、この存在が“災厄”であることを告げていた。


 その名は【雷葬のヴェルキオス】。


 この地の最下層ににある宝物庫への扉を守護する門番として存在している、このダンジョンのエリアボスだ。


 強豪校やプロチームですら、パーティーを組んで攻略に挑むほどの怪物が、今まさに目の前で翼を広げていた。


「……【雷葬のヴェルキオス】!? まさか……そんな場所まで落とされたのか……!」


 冬貴の喉が引きつる。視界いっぱいに広がる黒き竜の威容。その存在感に膝が震えた。


 「クソ……どうすれば……どうすればいいんだ……っ!」


 呼吸が荒くなる。手汗が滲む。頭は真っ白になり、冷静な思考ができない。


 「……!?」


 全身を貫く恐怖に、思わず後ずさる。


 竜がわずかに首を動かしただけで、心臓が跳ね上がる。


(逃げないと……でも、どうやって?)


 目の前の“ゲームオーバー”に、冬貴は完全に取り乱していた。


 しかし、次の瞬間、もっと驚くべき光景が目に飛び込んできた。


 ドラゴンの前に、たった一人で立ち塞がる少女——。


 「……っ!?」


 黒髪をなびかせた少女が、静かに佇んでいた。


 透き通るような白い肌に、整った顔立ち。華奢な体つきは儚げな雰囲気をまとっている。


 しかし、その手に握られているのは、漆黒に染まった剣。


 刃は鈍い光を放ち、まるで禍々しい力を内に秘めているかのようだ。


 少女の美しさとは対照的に、その武器は異質な存在感を放ち、周囲の空気を張り詰めさせていた。


「……鋼月学園の……燕泉凛!?」


 冬貴はその名前を呟いた。


 ついさっき、動画で見たばかりのあの孤高の剣士——燕泉凛が、目の前に立っている。現実感が追いつかないまま、冬貴は息をのんだ。

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※【アルカナフォージャー】では、犯罪や迷惑行為を防ぐため、プレイヤーは実名および素顔でプレイすることが義務づけられています。

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