第26話 練習試合の相手が決まる
キャラの名前の読み方
雪倉冬貴
燕泉凛
小針御代
櫛形耕平
阿賀野氷純
三条稲咲
深越高校アルカナフォージャー部は、今まさに存続の危機にあった。
顧問の加茂敏子は、焦燥感に駆られながら練習試合の相手を探していた。
近日中に試合を行い、勝利を収めなければ、部は廃部になってしまう。だが、この地域でアルカナフォージャー部を持つ学校は極めて少なく、対戦相手を見つけるのは簡単ではなかった。
現に、北信越ブロック全体でも予選参加校はわずか30校ほど。地域全体で競技人口が限られているのだから、当然、対戦相手を探すのも難航する。
加茂は、近隣の学校に勤める知り合いや、学生時代の友人たちに片っ端から連絡を取っていた。しかし、どこからも良い返事はない。
「他のツテも探してみる」と言われたものの、待っている余裕はなかった。
来月からは全国大会の予選が始まる。その前には中間テストがあり、部活どころではなくなる。実質、練習試合ができるのは今しかない。
遅くとも明日中には相手を見つけなければならなかった。
時間がない。焦りだけが募る。
そんな時、一通のメッセージが届いた。
――長津田由良。
加茂の目が、一瞬すぼまる。
(……ゆらちゃん、か)
大学時代の知り合い。かつて同じサークルにいた仲間で、一見社交的で明るく振る舞うが、心の奥底では他人を見下しがちな性格だった。正直、苦手だった。
嫌な予感がしつつも、メッセージを開く。
『としちゃんが顧問してるアルフォー部が廃部しそうになってて、練習試合の相手を探してるって聞いたよ! うちの学校にアルフォー部あるけど、どうかな?』
加茂は、一瞬指を止めた。
会いたくはない。
だが、背に腹は代えられない。練習試合の機会を逃せば、部員たちにとっても大きな損失になる。ここは割り切って頼むしかない。
そういえば、彼女はどこの学校にいるんだ?
気になり、スクロールすると、最後に記載された学校名が目に入った。
『朱雀学園』
……朱雀学園!?
加茂の背筋に、冷たいものが走る。
アルカナフォージャーにはあまり詳しくない彼女だが、顧問として最低限、全国の強豪校は把握している。
朱雀学園――激戦区・神奈川ブロックにおいて、毎年ベスト8に食い込む常連校。
その実力は、本物だ。
加茂は、震える指で再びスマホに視線を戻した。
――でも、もう時間がない……。
●▲■
稲咲が正式に入部してから、冬貴たちはしばらくの間、それぞれのアルカナや戦法を教え合っていた。
「皆さん、本当にすごいですわ。さすが、試合に向けてアルカナをしっかりと作成しているだけありますわね」
感嘆するように稲咲が言うと、泉凛がふふんと得意げに笑う。
「でしょ? まあ、私がすごいのは当然だけどね!」
泉凛が胸を張ると、他のメンバーも思わず笑い、自然と会話が弾んでいった。
その最中――
冬貴の耳にメッセージ着信時の音楽が鳴る。
「……」
指をスライドさせ、メッセージを確認する。送信者は顧問の加茂先生だった。
「どうしたの?」
隣で様子を見ていた御代が、小さく尋ねる。
冬貴は一呼吸置き、画面を皆に見せた。
「練習試合の相手が決まった。先生が戻ってこいって」
一瞬、場の空気が張り詰める。
「へぇ、ようやくね」
泉凛が腕を組みながら、何気なさを装って言う。しかし、その指先はほんのわずかに震えていた。
「それじゃ、戻るか」
耕平が伸びをしながら言うが、彼の笑顔もどこか硬い。
「相手、強いんでしょうか……」
御代が不安そうに呟きながら、自分の端末を握る手に力を込める。
「どんなチームなのか、気になりますわね」
稲咲はいつも通りの優雅な微笑みを浮かべていたが、その手は膝の上でぎゅっと組まれていた。
ゲームの光景が消え、視界が現実に戻る。部室の天井が目に入り、アミュスフィアを外すと、加茂先生がすでに待っていた。
「君たちがゲームしていたから入れなかったよ」
苦笑する先生に、耕平が軽口を叩く。
「先生もやればいいじゃないっすか」
「いやいや、私はそういうのは……よくわからないわ」
軽く笑った後、先生は真剣な表情で言った。
「それで練習試合の相手というのは……」
「相手は――神奈川県、朱雀学園」
沈黙。全員の視線が先生へと集中する。
「試合日は4月17日。今から8日後よ」
「……神奈川県で毎年ベスト8以内に入ってる学校ですよね」
冬貴が記憶をたどりながら言う。
「え、それ強くない……?」
御代が顔を青ざめさせる。
「なんでそんな強豪が……!?」
耕平は頭を抱える。
冬貴は、練習試合の対戦相手を加茂先生が探すと話した際、ある程度の予想を立てていた。
自分たちのように試合経験がない高校と試合をしてくれるのは、創設間もない新設の部か、あるいは長年活動していても成果を上げられず、弱小と見なされる学校だろう。
そう思っていた。
しかし、結果はまるで予想の逆だった。
全国でも有数の激戦区の予選において、毎年上位に食い込むその学校が、なぜか自分たちの対戦相手として名乗りを上げた。
冬貴は眉をひそめる。
(なぜそんな学校が……俺たちの練習試合に応じたんだ?)
冬貴の頭に疑問が渦巻く中、加茂先生が申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんね……私の知り合いで、アルカナフォージャー部がある学校に勤務している人がほとんどいなくて……唯一、見つかったのがここだったの……」
「そんな……」
御代が小さく息を呑む。耕平も顔をしかめ、稲咲は静かに目を伏せた。
沈黙が場を支配する中――
ただ一人、泉凛だけがフフンと笑い、堂々と腕を組んだ。
「強い敵と戦えるなんて最高じゃん! やってやろうじゃない!」
その言葉に、沈んでいた空気が、じわりと動き始めた。
「もう……本当に泉凛ちゃんは……」
御代は苦笑しながらも、少しだけ肩の力を抜いた。
「でも、こういう時にそう言えるのはすごいよね。私も、どうせやるなら少しでも食らいついていくつもり」
「ま、ビビってもしょうがねぇか! 相手が強いのは確かだが、そっちの方が燃えるってもんだろ?」
耕平が腕を組み、唇の端を引き上げる。
稲咲は静かに目を閉じ、深く息を吸った。そして、毅然とした声で続ける。
「戦うことが決まった以上、私たちにできるのは最善を尽くすことですわ。誇りを持って、堂々と挑みましょう」
「……やるか」
氷純は小さく呟くと、いつも通りの無気力な態度で背を伸ばした。
冬貴は、仲間たちの言葉を静かに噛み締める。
「……そうだな」
声に出してみると、不思議と気持ちが固まった。
「……やるしかないな。勝てる可能性があるなら、それに賭けるだけだ!」
不安が消えたわけではない。それでも――。このメンバーでなら、きっと何かを掴める。
ふと、冬貴は泉凛に目を向けた。
泉凛はついさっき挑戦的な言葉を吐いてみせたが、その拳がかすかに震えていた。
「燕……君、本当は、緊張してるんじゃないのか?」
「はぁ?」
泉凛はムッとした表情で冬貴を睨みつける。
「アンタには関係ないでしょ! てか不安がってなんかないわよ!」
その言葉は強がりにしか聞こえなかった。
(こいつまさか……自分がチームプレイに慣れていないから、しくじるんじゃないかって不安になってるのか?)
冬貴は、泉凛の様子を気に留めつつも、今はそれ以上追及しないことにした。
自分たちが背負っているものを思い返し、冬貴はそっと拳を握った。
それぞれの想いが、熱となって胸の奥に灯っていた。彼らは、その灯火を頼りに、静かに歩き出した。
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