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第25話 戦場に咲く狂気の花【ブライア・エンチャント】

キャラの名前の読み方

雪倉冬貴ゆきくらふゆき

燕泉凛つばめいずり

小針御代こばりみしろ

櫛形耕平くしがたこうへい

阿賀野氷純あがのひすみ

三条稲咲さんじょういなさ

 突如、低く響く地鳴りが大地を揺らした。足元に微かな振動が伝わり、次の瞬間、周囲の木々がざわめくように揺れ始める。


 それは、強力なモンスターが姿を現す前触れだった。


「……あれ? 低確率なんじゃなかった?」


 御代が眉をひそめる。


「その低確率を引いたんだろうな……」


 冬貴が苦笑しながら答えた。


「……」


  稲咲は剣の柄に手をかけながら、額に冷や汗をにじませていた。


 やがて、それは姿を現した。


 【フェングロウル】の群れを統べる長個体。通常種よりもはるかに巨大で、異形とも言える姿を持つ存在――【フェングロウル・ロード】。


 その体高は三メートルを超え、黒々とした毛並みが風に揺れる。鋭く光る牙と爪が、ただの獣とは一線を画す脅威を放っていた。


「……ちょっとデカいな……!」


 耕平が息をのむ。目の前の怪物の圧倒的な威圧感に、一瞬、全員が動きを止めた。


「戦いがいがありそうなモンスターじゃない!」


 泉凛が即座に武器を構え、一歩踏み出す。しかし、それを制するように、稲咲がそっと手を挙げた。


「ここは、私に任せていただけませんか?」


 泉凛が眉をひそめる。


「アンタに倒せるの?」


 稲咲は一瞬、目を伏せた後、静かに答える。


「……わかりません。ですが――」


 一拍の間。


 そして、力強く言い放った。


「この敵を超えられないなら、全国なんて幻ですわ!」


 その言葉に、泉凛は一瞬驚いたように目を見開く。しかし、次の瞬間、不敵な笑みを浮かべ、肩をすくめると武器を下ろした。


「……ふん。今回だけよ」


「ありがとうございます」


 稲咲は優雅に一礼すると、軽やかに跳躍した。ふわりと舞い上がるその姿は、まるで一陣の風に乗る妖精のようだった。


 【フェングロウル・ロード】が唸りを上げ、巨大な腕を振り下ろす。大気が揺れ、周囲に衝撃波が走った。


「【飛翔】!」


 稲咲の背から淡い光の羽が広がる。その瞬間、彼女の身体はふわりと浮き上がり、一気に高度を稼ぐ。巨腕が振り下ろされ、地面が抉れるも、彼女の姿はすでにそこにはなかった。


 眼下のモンスターを見下ろし、彼女は静かに剣を構える。


「【ブライア・エンチャント】!」


 刃に宿る緑の魔力が脈動し、一閃。鋭い斬撃が【フェングロウル・ロード】の腕を裂いた。


 すると、傷口からツルが勢いよく伸び、獲物を絡め取ろうとする――が。


「……効きませんわね」


 稲咲は軽く首を傾げた。ツルはモンスターの腕に絡みついたものの、その分厚い毛皮と強靭な筋肉に阻まれ、まともに食い込まない。


 「ならば、何度でも!」


 稲咲は剣を構え、鋭く息を吐いた。


 【フェングロウル・ロード】が咆哮とともに爪を振り上げる。その巨大な爪が彼女を狙い、音を裂く勢いで振り下ろされた。


「当たりませんわ!」


 瞬間、稲咲は【ブロッサム・チャーム】を発動。甘い香りが広がり、モンスターの動きがわずかに鈍る。その一瞬の隙を見逃さず、稲咲は軽やかに後方へ跳び、爪の軌道を回避した。


 空中で身体を翻し、剣に魔力を宿す。


 だが、脳裏にはあの光景がよぎる。


 ――両親の沈んだ表情。


 町の縮小が決まり、転勤の話が現実味を帯びてきたとき、母も父もいつものように微笑んでいた。しかし、その瞳の奥には諦めにも似た悲しみが滲んでいた。


 「こいつごとき! ……勝てないと、話にならないのですわ!」


 稲咲の瞳が鋭く光る。


「【ブライア・エンチャント】!」


 緑の輝きが刃を包み込む。稲咲は止まらない。舞うように剣を振るい、次々と斬撃を繰り出した。


 一閃、また一閃。


 斬られるたびに【フェングロウル・ロード】の体には浅い傷が刻まれ、その傷口から無数のツルが生え広がっていく。


 まるで大樹が根を張るように、モンスターの身体を覆い始めていた。


「すごいことになってきたね……」


 御代がぽつりと呟く。


「いや、これもう植物園じゃん……」


 泉凛が若干引いた様子で言う。


「今までで、一番楽しいですわ!」


 稲咲の瞳が輝き、狂気にも似た楽しげな笑みが浮かぶ。


 数分後、戦場は異様な光景へと変わっていた。


 【フェングロウル・ロード】の巨体は完全にツルと花に覆われ、もはや動くことすらできない。緑に覆われたその姿は、まるで生きたまま苗床にされたかのようだった。


「……えっぐいな」


 耕平が呆然と呟く。


「ちょっと、これ……ホラー映画か何か?」


 泉凛が目を細め、口元に笑みを浮かべる。


「やりましたわ……これで!」


 稲咲は満面の笑みを浮かべ、剣を軽く振り払う。


「……すごいです」


 冬貴は微かに冷や汗をかきながら応じた。


(まさかここまでのアルカナになるとは……)


 戦いの終わりを確認しながら、稲咲はゆっくりと冬貴に向き直る。


「これで、私も戦力になれますか?」


 冬貴は一瞬考え、冷静な声で答えた。


「……まだ分かりません。でも、さっきよりはずっといい。これからもっと改良していきましょう」


「もちろんですわ!」


 稲咲は誇らしげに胸を張る。


 そして、改めて冬貴の前に立ち、優雅に微笑んだ。


「それでは改めて……三条稲咲。ふつつかものですが、これからよろしくお願いいたしますわ!」


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