第24話 新たなアルカナ
キャラの名前の読み方
雪倉冬貴
燕泉凛
小針御代
櫛形耕平
阿賀野氷純
三条稲咲
静寂の中、稲咲の声が落ち着いた調子で響いた。
「では、私はどうすればいいのでしょう?」
しかし、その表情には微かな影が差していた。氷純の冷徹な評価を受け、自身の力不足を痛感しているのだろう。
そんな彼女に、泉凛が腕を組みながら言葉を投げた。
「まぁ……ただ」
少し言葉を選ぶように口ごもりながらも、意を決して続ける。
「この私ですら、たまには攻撃を外すけど……稲咲は一度も外さなかった。それって結構すごいことじゃない?」
冬貴も同意するように頷く。
「確かに。近距離、遠距離、どんな間合いにも適応できる。それに、【妖精】の敏捷性を活かしたヒットアンドアウェイも洗練されていますね」
それでも、氷純の指摘した「全国レベルには通用しない」という言葉がのしかかる。耕平が顎をさすりながら提案した。
「なんか新しいアルカナでも作ったらいいんじゃねぇか?」
その言葉に、冬貴の思考が動く。
「……確かに、それが最適解かもしれません」
彼は稲咲を見やり、静かに問いかけた。
「何か使えそうなアルカナ素材がないか、持っているものを見せてもらえますか?」
稲咲は「かしこまりましたわ」と優雅に頷き、ステータスウィンドウを開く。そこには彼女が今まで集めてきた無数の素材が並んでいた。
冬貴はそれをじっと見つめ、何度かスクロールしながら呟く。
「ふむ……」
隣で見ていた耕平が笑う。
「冬貴が考えるなら、間違いねぇよ」
御代も優しく微笑みながら続ける。
「冬貴くんはアルカナの考案が得意なんです」
冬貴は素材一覧を丁寧に確認していた。その中で、ふと手を止める。
「……これは?」
彼の目に留まったのは【魔樹の種核】。レアリティは最大値5に近い「4」。そして、その能力は「急成長する植物の種を出現させる」というものだった。
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【魔樹の種核】
▶ タイプ: 植物系
▶ レアリティ: ★★★★(4)
▶ 攻撃力: 380
▶ 消費MP: 15
▶ 発動時間: 1.5秒
▶ 効果:
特殊な種子を生成し、地面に植えた瞬間に爆発的に成長させる。ツタや根が瞬時に伸び、敵の動きを封じると同時に攻撃を加えることも可能。しかし、周囲の土壌の栄養を急速に吸収するため、発動には十分な栄養が必要となる。
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(これは……)
攻撃力が高い上に、消費MPも少ない。それに、敵を拘束する効果まである。
冬貴は【魔樹の種核】の性能を確認しながら、思わず唸った。攻撃と妨害を兼ね備えた、極めて優秀な素材だ。
「三条先輩……ここにある【魔樹の種核】っていうのは?」
「ああ、それは……ルフォレーヌ東方にあるダンジョンのボス【ヴァルディス・グロウス】から入手した素材ですわ」
冬貴はその名を聞いて、ふと記憶を辿った。
(……そうか、稲咲がボスを倒したことがあると言っていたのは、こいつのことだったのか)
【ヴァルディス・グロウス】――そこそこ強く、また、非常に攻略が厄介な植物系モンスター。その討伐には手間がかかり、プレイヤーが苦戦を強いられる存在だ。冬貴も以前、ネットでその情報を目にしたことがあった。
「これ、なぜ使わなかったんですか?」
冬貴の問いかけに、稲咲は静かに視線を落とした。そして、落ち着いた口調で答える。
「確かに強力なのですが……発芽には十分な栄養が必要なのです。普通の土では不十分で、環境が整っていなければ、ただの種ですわ」
「なるほど……」
冬貴は思考を巡らせる。
稲咲先輩はヒットアンドアウェイを得意とする。そして、この【魔樹の種核】は発芽条件が厳しい……。
だが――使い方次第では?
冬貴は、以前ネットで調べた情報を思い出す。植物系のボスモンスターの中には、プレイヤーに寄生するように種を植え付ける能力を持つものもいるという。
(肥沃な土壌……栄養のある土壌……それは、必ずしも大地である必要はないのでは……?)
彼の脳裏に、一つの閃きがよぎる。
「一度、街へ戻りましょう」
氷純が興味なさげにぼそっと呟く。
「どうしたの?」
「俺に考えがあります。もしかしたら、強力なアルカナを作れるかもしれない」
稲咲は小さく微笑み、「分かりましたわ」と頷いた。
●▲■
冬貴たちはアルカナ製造所へと向かった。この施設は街ごとに一つだけ存在し、素材を組み合わせて新たなアルカナを生み出せる場所だ。
ルフォレーヌの製造所は、木々に囲まれた神秘的な建物で、魔力の光が淡く揺れていた。室内には魔法陣が刻まれた台座があり、そこで素材を精製できる。
冬貴は稲咲に言う。
「【魔樹の種核】を中心に、【吸精蔦】【血染めの刃片】【迅速成長の苔】を補助素材として作成してください」
稲咲が頷き、素材を配置すると、魔法陣が光を放ち始める。粒子が収束し、新たなアルカナが形を成していく。やがて光が収まり、手のひらサイズのアルカナが残った。
「できましたわ……!」
御代が期待を込めて言う。
「これで強いアルカナが?」
冬貴は慎重に首を振った。
「……わからない。発動するかも未知数だ」
その言葉を聞いた氷純が、じっとアルカナを見つめ、静かに呟いた。
「……なるほどね」
彼の鋭い分析眼が、何かを見抜いたらしい。
数分後、新たなアルカナが誕生した。
「完成しましたわ」
●▲■
再び草原へと戻ると、【フェングロウル】が彼らを見つけ、唸り声を上げた。
稲咲は静かに剣を構え、戦闘態勢を取る。
「では、新しいアルカナの威力、確かめてみますわね」
彼女の声が広がると同時に、フェングロウルが低い唸りを上げ、猛然と突進してくる。その爪が稲咲を狙い、一瞬で間合いを詰める――。
「【ブライア・エンチャント】!」
鋭い斬撃と共に、剣が淡い緑の光を帯びた。その刃がフェングロウルの身体をかすめた瞬間――。
モンスターの傷口から、無数のツルが爆発的に飛び出した。
「うお……何これ!?」
泉凛が驚愕の声を上げる。
「やっぱり! 栄養のある土壌は必ずしも、土じゃなくてもよかったんだ」
冬貴が叫ぶ。
ツルはまるで生き物のようにうねりながら瞬く間に広がり、フェングロウルの全身を絡め取った。モンスターが暴れようとするが、ツルは締め付ける力を増していく。
抵抗すればするほど、その生命力を吸い取るかのように、モンスターの体力がみるみるうちに削られていった。
「【魔樹の種核】に加えて、種を出現させる素材と、エンチャント素材、さらに種の消滅を防ぐ素材を組み合わせましたの」
稲咲が静かに説明しながら、満足げに剣を構え直した。
やがて、モンスターは抵抗する力を失い、草原に沈んだ。
「おお……。すげぇ」
耕平が感嘆の声を漏らす。
全員が圧倒されていた。だが、冬貴の胸には別の感情が沸き上がっていた。
(やったぞ……!)
自分の戦略が、見事に成功した瞬間だった。
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