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第23話 生徒会長の実力

キャラの名前の読み方

雪倉冬貴ゆきくらふゆき

燕泉凛つばめいずり

小針御代こばりみしろ

櫛形耕平くしがたこうへい

阿賀野氷純あがのひすみ

三条稲咲さんじょういなさ

 ルフォレーヌの首都、幻想的な噴水広場。


 静かに水が流れる広場の一角で、冬貴たちは三条稲咲のステータス画面を覗き込んでいた。


「なるほど……」冬貴が腕を組む。

「うーん……」耕平が難しい顔をする。

「えっと……」御代が言葉を選んでいる。


「めちゃくちゃ普通じゃない! こんなので戦えるの!?」泉凛が直球を投げた。


 稲咲のステータスは全体的に平均的で、突出した強みがないため、競技レベルのプレイヤーと対峙した際に、決定打に欠ける印象を受ける。


 所持しているアルカナは、【ルフォレーヌ】の【妖精】プレイヤーがゲームにある程度慣れた頃に、手頃なダンジョンのモンスター素材で作りがちなものばかり。


 装備も中級者の【妖精】プレイヤーがよく使っている一般的なものが揃っていた。


 まさしく、楽しみながらプレイするエンジョイ勢の典型的なビルド。競技の舞台で戦うには、決め手となる要素が不足している――そう、冬貴は判断した。


「やはり、そうですわよね……。昨日から試合動画を拝見しましたが、普段見かけるプレイヤーとはまるで別次元で……正直、驚きましたわ。アルカナの構成も装備も、私がこれまで見てきたものとはまったく違っていて……」


 稲咲はわずかに眉を寄せ、戸惑いを滲ませる。


「ま、戦い方次第でなんとかなるだろ!」耕平が笑いながら肩をすくめた。


 冬貴は少し考え、「とりあえず、一度、どんな感じに戦うのか見てみたいですね」と提案した。


「いいですわよ。では、どこで?」


「この近くに、人型モンスターが出るエリアがあります」


 冬貴たちは実戦テストのために街を後にした。


 ルフォレーヌの首都の門を抜けると、そこには広大な草原が広がっていた。風が優しく吹き抜け、緑の草が波のように揺れる。


 遠くには低い丘が連なり、澄み切った空気が心地よい。まるで現実世界とは違う、幻想的な静けさがそこにはあった。


「あまり強くないモンスターしか出ないの?」


 御代が尋ねる。


「ごく低確率でちょっと強いモンスターが出るけど、基本的には弱いのしか出現しない」


 冬貴が答えたその時、遠くから低く唸る音が響いた。


 視線を向けると、一匹の獣人型モンスター【フェングロウル】が、地を蹴ってこちらに迫ってきていた。


 狼のような姿を持つそれは、灰色の毛並みを風になびかせ、鋭い牙を剥き出しにしている。二足で立ち上がり、鋭い爪を構える姿は、ただの野生動物とは異なる威圧感を放っていた。


 このフィールドでは一般的なモンスターだが、素早い動きと知性を感じさせる判断力を持ち、油断すれば手痛い反撃を受ける相手だった。


「試しに、あいつと戦ってみてください」


 稲咲は微笑むと、「承知しましたわ」と優雅に剣を抜いた。


『ガルルルルル!』


 モンスターが鋭い爪を振り上げ、猛然と斬りかかってくる。しかし、稲咲は鋭い視線で敵の軌道を見極め、寸分の狂いもなく剣で爪を弾く。


 甲高い金属音が響いた。


「お……」


 冬貴が小さく息を呑む。稲咲は余裕すら感じさせる動きで、次の攻撃に備えていた。


「【ブロッサム・チャーム】!」


 彼女が詠唱すると、瞬時に甘い香りが周囲に広がる。その匂いを吸い込んだ【フェングロウル】の動きが鈍り、爪を振り抜く速度がわずかに落ちた。


「動きが少し遅くなったみたい……!」


 御代が驚いたように声を上げる。


「いきますわよ!【ローゼン・ストーム】!」


 続けざまに放たれたスキルが発動する。彼女の剣を中心に、舞い散る花弁が突風に乗り、一瞬で鋭利な刃へと変貌する。


 無数の花びらの刃が舞い、【フェングロウル】の毛皮を切り裂いた。


『ガルルルル!?』


うめき声とともに、モンスターはその場に崩れ落ち、しばらくの間痙攣していたが、やがて静かに霧散し、消えていった。


「かっこいいです!」


 御代は感心したように微笑みながら頷いた。


「反射速度がいいですね。それに、動きの精度も高いですし、判断も的確です」


 冬貴は冷静に分析しながら、戦闘の流れを見極めていた。


「うーん、まぁ悪くはないけど」


 腕を組みながら泉凛が口を開く。


「でも、これくらいなら、大会の地区予選の一回戦レベルね。別に強くはないわ」


 少し肩をすくめながら、淡々と現実を突きつける。


「……そう、ですわね」


 稲咲の微笑みが、ほんのわずかに曇る。だが、すぐに気を取り直すように顔を上げた。


「ですが、まだやってみないと分かりませんわ」


 自分に言い聞かせるように、稲咲は前を向いた。


「まだまだ試してみませんとね」


 そう言う稲咲の声には、ほんの少しだけ不安が混じっていた。


 稲咲は、さらに迫りくる敵を冷静に見据え、一体ずつ確実に仕留めていく。


 しかし――


(……泉凛の言う通りかもしれない。これだけで他校のプレイヤーに通用するのか?)


 冬貴が思考を巡らせていると、街の方から氷純がとぼとぼと歩いてくるのが見えた。


「あいつ……」


 冬貴はぼそっと言う。


 まだ眠気が抜けきっていないのか、彼は小さくあくびを噛み殺しながら、ゆっくりとこちらへ向かってくる。


「おはよう……遅れてごめん」


「やっと来たか。連絡したんだぞ?」


「……さっき起きた」


 冬貴が呆れたように息をつき、耕平が苦笑する。


「もう夕方だぞ! 何してたんだよ」


「……ちょっと、良さそうな素材の構成をネットで調べてたら……気づいたら朝になってた」


 氷純は眠そうに目をこすりながらぼそっと言う。


「マイペースだな……まあ、それなら仕方ないか」


 冬貴が半ば呆れつつも納得すると、泉凛が腕を組んで頷く。


「こいつが冬貴が話してた新入部員か? すげぇ強いって聞いたけど、なんかイメージと違うな?」


  耕平が氷純を見ながらそう言うと、氷純は「……よろしく」と小さく挨拶した。


 その控えめな態度に、稲咲が微笑みながら言う。


「ふふ、可愛らしいお嬢さんですね」


「……男」


 氷純がムッとした表情で即答する。


「あら! それは失礼しましたわ」


 稲咲が軽く手を口元に当てながら、驚いた様子で笑う。


「ところで、この人が新入り?」


 氷純が静かに尋ねる。


「そうだ」


 冬貴が短く答えると、氷純はじっと稲咲を見つめ、一言。


「さっきちらっと見たけど……どこにでもいそうなプレイヤーだね」


 淡々としたその言葉に、場の空気がわずかに固まった。


 稲咲の表情がわずかに曇る。しかし、すぐに気を取り直し、まっすぐ氷純を見据えた。


「そうですか……ですが、私はこの高校の存続のために、このゲームで全国大会に出たいのです」


 凛とした声には決意がこもっていた。しかし、氷純はその言葉にも特に感情を動かされることなく、淡々と返す。


「事情は分からないけど……このゲームをプレイしてるだけで強くなれるって思うのは甘い」


 その冷静すぎる一言に、微かな緊張が場を支配した。


「強豪校なら、間違いなくプロの指導者がついてる……彼らの指導のもとで最先端のトレーニングを積んでるよ。生半可な実力じゃ、1ダメージすら入れられない」


 氷純が淡々と説明した。


「でしょ?」


「……まぁ、確かに。あいつらは本当に強いわ。ちょっとやそっとの実力じゃ歯が立たないのは事実ね」


 泉凛は歯噛みしながら言葉を絞り出した。全国の強豪と戦った経験がある彼女だからこそ、その実力差を痛感しているのだろう。


「……1ダメージもってのは、言い過ぎたと思うが……確かに、彼らは最適化されたトレーニングを積んでいる。ちょっとやそっとの努力では太刀打ちできない」


 冬貴もまた、それを認めざるを得なかった。

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