第19話 ただの改造人間じゃない
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機械音が響いた。
無数の銀色の小型ロボットが宙を舞い、まるで群れをなす蜂のように滑らかに動き回る。
廃工場の薄暗い天井を背景に、その金属のボディが鈍い光を反射してきらめいていた。
阿賀野氷純。白い肌の少年のアバターは、ほかのプレイヤーとは一線を画していた。
普通の人間の形をしていない。いや、むしろ彼の体は、彼を構成する無数の小型ロボットの集合体そのものだった。
冬貴は鋭い視線を向けながら、じっくりとその動きを観察する。
(小型ロボット一つ一つに武器化系のアルカナや【擬態】がエンチャントされているか……それとも、あのロボット群の中に本体があり、それが小型ロボットを操ることで擬似的な身体を構築しているのか――)
どちらにせよ、厄介な敵には違いない。
冬貴はそっと手を伸ばし、宙を舞う小型ロボットの一つをつかむ。そして、強く握りしめた。
パキッ――。
あっさりと砕ける。
(意外と脆いな……だが、問題は数だ)
廃工場の内部には、視界の端から端まで小型ロボットが飛び交っていた。
目を凝らしてようやく見えるほどの微細な機械たちが、まるで生き物のように彼を取り囲んでいる。その数、数千、いや、それ以上か。
「これ、【ヒスミオン】っていうんだよ」
氷純が淡々と告げた。その声には、どこか愛着すら感じられる。
その瞬間――
「冬貴、後ろ!」
鋭い声が響く。燕泉凛だった。
反射的に振り返ると、そこには複数のガトリング砲が宙に浮かび、不気味にゆっくりと回転していた。冷たい金属の筒が光を反射しながら、今にも火を噴こうとしている。
「マズイな……」
言葉を発する間もなく、ガトリング砲が一斉に轟音を響かせ、無数の弾丸を吐き出した。鋭い閃光とともに、凄まじい勢いで弾幕が冬貴を襲いかかる。
「【バレットシールド】!」
冬貴が叫ぶと、透明な防御壁が瞬時に展開される。ガトリング弾が弾かれ、火花が舞い散る。廃工場の床に弾丸がめり込み、乾いた音を立てて弾けた。
「なかなかやるね」
氷純の声が届く。その声は、まるでゲームを楽しんでいるかのように軽やかだった。
だが、戦闘はまだ終わっていなかった。
「――と、いうとでも思った?」
その声に、冬貴の全身が緊張する。
「!?」
カチャッ。
不吉な音が冬貴の背後から響く。
「そっちにもか!」
振り向こうとした瞬間、遅かった。
ガトリング弾が至近距離から放たれ、背中を直撃する。防御の間に合わない一撃。衝撃が全身を駆け巡り、HPゲージが削られた。
「くそ……」
歯を食いしばる冬貴を、氷純はどこか楽しげに見つめていた。
「キミ、この状況、どう打開するつもりなの?」
まるで試すような口調。
「もう諦める? それとも……ボクをちまちま壊していく?」
氷純の挑発的な声が響いた次の瞬間、冬貴の背後から再びカチャリという金属音が鳴る。冬貴は反射的に振り向くが、既に遅かった。
「バレットシー……ぐはっ!」
(このままではまずい)
冬貴はダメージをくらいつつ、なんとか体勢を整える。
しかし――氷純はさらに別の死角にもロボットを配置していた。弾丸の雨が再び降り注ぎ、冬貴は紙一重で避ける。
だが、その間にも氷純は冷静なまま、冬貴の反応を見極めながら新たな攻撃を仕掛ける準備をしていた。
冬貴は目を細めながら、氷純の戦い方を改めて分析する。
(背後を狙う……それに、小型ロボット単体では攻撃を仕掛けてこない……つまり)
「リアライズ!【バックシールド】!」
冬貴が鋭く叫ぶと、瞬時に背後へと防御壁が生成される。透明なエネルギーがゆらめきながら形を成し、厚みを増しつつ、しっかりとした壁となって彼の背後を守るように展開された。
「……」
氷純の目がわずかに細められる。
「どうした? さっきみたいに、合体して攻撃してこないのか?」
「……君、性格悪いね」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
小さく肩をすくめる。
御代が不思議そうに首を傾げた。
「……どうして攻撃してこなくなったの?」
冬貴が冷静に答える。
「小型ロボット一つ一つは非常に脆い。そして、合体する直前、ロボットが1地点に集まる。その隙を防ぐため、氷純は死角で合体を試みていたんだ」
「なるほど……」
御代が納得したように頷く。
「つまり、合体の瞬間が最も無防備になるんだよ」
「……」
沈黙する氷純。
「どうする?」
「何でもかんでも対策しやがって。鬱陶しいね。こうなったら……」
鋼鉄の響きが廃工場の空間を満たす。
空気を切り裂くように、小型ロボット【ヒスミオン】の群れが収束し、一つの武器へと形成される。その動きはまるで意志を持つ生物のように滑らかで、無機質なはずの金属が脈動するかのようだった。
冬貴は即座に察知し、身構える。
(来た……!)
「ディスパージ!」
冬貴は【二酸化炭素空間】を削除する。そして――
「リアライズ!【インパクトバレット】!」
冬貴の手元の銃が淡く光る。トリガーを引いた瞬間、強烈な弾丸が放たれ、【ヒスミオン】の群れが集まっている場所へ向かって突き進む。
衝撃音と共に、弾丸がロボットを貫き、爆発が連鎖する。破片が四方に飛び散り、閃光が一瞬だけ工場内を照らした。
氷純がかすかに声を漏らす。「うっ……」
しかし、形成されようとしている武器は一つではない。
破壊されたロボットの残骸の影から、新たな群れが出現し、次々と武器を形作っていく。数が減るどころか、瞬く間に補填され、幾つもの刃が虚空に浮かび上がる。
冬貴は撃ち続ける。鋭い眼光がターゲットを正確に捉え、トリガーを引くたびに銃口から閃光がほとばしる。
狙いは狂わず、放たれた弾丸がロボットの核を確実に撃ち抜いていく。
「エイムいいね……」
「全部打ち抜いてやる」
だが――
「……多すぎんだろ」
幾つかの群れを破壊したところで、無数のレーザーブレードが宙に姿を現す。その数は、軽く数十本を超えており、鋭く光を放ちながら静かに標的を狙っていた。
「背後を取れないなら、数で攻めさせてもらうよ」
氷純の淡々とした声が響く。「いくよ」
次の瞬間、レーザーブレードが一斉に輝きを放ち、鋭い軌跡を描きながら冬貴へと襲いかかった。
(背後からくるガトリング攻撃は【バックシールド】で守れるから、【バレットシールド】はいらないか……)
「ディスパージ! そして、リアライズ! 【ブレードシールド】!」
剣による攻撃に特化した防御壁が展開される。だが、全ての攻撃を受け止めるには小さすぎた。
「――ぐっ!!」
一部のブレードがバリアを掻い潜り、冬貴の体をかすめる。ダメージが蓄積し、HPゲージがわずかに減少する。
「どうすれば……!」
「……どこ見てんの?」
「冬貴くん上!」
冬貴はハッとした。
目の前に展開されたブレードに意識を奪われていたが、気づけば頭上にも無数の【ヒスミオン】が配置され、武器化していた。
天井を抉る鋭い閃光――。
「――っ!?」
廃工場の古びた天井が、不気味な音を立てながら大きく軋み、ひび割れが徐々に広がっていく。
それは、崩落の前兆だった。
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