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18話 天才プレイヤー、阿賀野氷純②

キャラの名前の読み方

雪倉冬貴ゆきくらふゆき

燕泉凛つばめいずり

小針御代こばりみしろ

櫛形耕平くしがたこうへい

阿賀野氷純あがのひすみ

 空気を裂く凄まじい連射音。


 轟音と共に、氷純の左腕が瞬時にガトリング砲へと変形し、無数の弾丸が凄まじい勢いで冬貴に向かって唸りを上げた。


 鋼鉄をも貫く鉛の嵐が、視界を埋め尽くす。


 廃工場に甲高く乾いた銃声がこだまし、無機質な壁面に反響して、耳をつんざく轟きとなって降り注ぐ。


「速い……! しかも手数が多すぎる!」


 冬貴は跳躍し、転がり、ギリギリで弾丸の雨を躱していく。だが、銃撃は止む気配を見せない。


「さあ、どうする?」


 氷純はどこか楽しげに、余裕すら漂わせていた。


 しかし――


「リアライズ! 【バレットシールド】!」


 冬貴が叫ぶと同時に、彼の周囲に淡く揺らめく透明なフィールドが瞬時に展開され、銃弾の雨を遮る見えない壁が姿を現した。


 【バレットシールド】──銃弾専用の防御アルカナだ。


 激しく降り注ぐガトリング砲の弾幕――まるで豪雨のように襲いかかる銃弾の嵐を、透明な防御壁がことごとく無力化し、甲高い跳弾音とともに弾き返していく。


「えっ?」


 氷純がわずかに目を見開く。


「まさか、最初からボクの戦闘スタイルを把握してたわけ?」


「いや、違う」


 冬貴は口元をわずかに吊り上げる。


「これは……どこでも瞬時にアルカナを作成できる【コード・オーダー】の能力だ」


「……へえ、厄介だね。後出しジャンケンじゃんみたい」


 氷純は肩をすくめた。しかし、目は冷静だった。


「なら……後出しできないくらい速くて強い攻撃をすればいいよね?」


 その言葉を締めくくるや否や、氷純の両脚が唸りを上げて変形を始める。


 瞬く間に無骨なジェットブースターが露わになり、鈍い金属光沢を放ちながら噴射の準備を整えていった。


「そこも改造済みなのか……!」


 冬貴が唸る間もなく、


 ドゴォン!!


 凄まじい噴射音とともに、氷純が一瞬で距離を詰めた。左腕から伸びるエネルギーブレードが、鋭い閃光を放ちながら振り下ろされる。


「くっ……!」


 冬貴は剣で受け止めるが、刃同士が火花を散らし、わずかに肩がかすめる。


 しかし、その直後だった。


 右腕に備わっていたはずのブレードが、突如として左腕と同じガトリング砲へと変形する。


「そんなこともできるのか……!」


 冬貴が気づいた時には既に遅く、無数の銃口が至近距離でこちらを捉えていた。


 轟音とともに銃弾が吐き出され、火花が散る。冬貴は防御態勢を取る間もなく、まともに被弾した。衝撃が全身を駆け抜け、HPゲージが削られる。


「くっそ……」 


 転がりながら、冬貴は考える。


(どういう構造だ? ガトリングは左腕じゃなかったのか? どこでも変形できる……そんなこと、このゲームで可能なのか?)


 氷純は距離を取り、フフッと薄く笑う。


 冬貴は息を整えつつ、頭の中で整理する。


(構造は分からない……だが、今見えているものに対処するしかない。ガトリング、エネルギーブレード、ジェットブースター──)


 冷静に分析を始める。


(ガトリングは長時間使ってこない……おそらくオーバーヒートの制限。なら【バレットシールド】で凌げば隙が生まれる。ジェットブースターは炎を使っている。なら、酸素を奪えば不発にできる。エネルギーブレードは強力だが、当たらなければいい──よし、まずは)


「何ブツブツ言ってんの?」


 氷純が訝しげに目を細める。


「――リアライズ!」


 冬貴が鋭く叫び、地面に手を当てる。だが――何も起きない。


「……?」


 氷純が一瞬警戒するも、特に異変は感じられない。そのまま肩をすくめるように笑う。


「はったりかな?」


 氷純は油断なく構えを取り直し、攻撃体勢に入る。


 氷純が再びブースターを噴かせ、足元から炎を噴き上げて飛び上がろうとする。


 しかし――。


 地面に仕掛けられていたアルカナが起動し、微かな気流が揺れる。


「……え?」


 わずかに浮いたその瞬間、火がすっと掻き消える。推進力を失った氷純の身体は、無防備なままバランスを崩した。


「あれ?」


 体勢を立て直す間もなく、地面に倒れ込む。

異常事態に戸惑いながらも、氷純は足元を見つめた。


「なんで……?」


 【二酸化炭素空間カーボンダイオキサイド・フィールド】――二酸化炭素を発生させ、局所的に無酸素状態を作り出すトラップ型アルカナ。酸素を必要とする燃焼系ブースターは、その場で完全に封じられる。


「二酸化炭素で、君のジェットブースターを封じた」


「そういうこと……」


 氷純が小さく呟いたときには、冬貴はすでに動き出していた。


「――リアライズ! 【ラピッド・バースト】!」


 新たなアルカナが展開される。【ラピッドバースト】――瞬間的に速度を跳ね上げる加速系アルカナ。爆発的な踏み込みとともに、冬貴は一気に距離を詰めた。


「っ――速っ……!」


 氷純が驚愕する間もなく、冬貴は刃を構え、懐に飛び込む。攻防が切り替わる刹那。勝負の流れが、冬貴に傾き始めていた。


 剣を氷純の肩へ振り下ろす。


「取った……!」


 刹那――


 氷純の肩部装甲が音を立てて裂けるように開き、内部に隠されていた細かな機械パーツが露わになる。関節部分が異様に可動し、冬貴の振り下ろした刃を寸前でかわした。


 斬撃は空を切り、鋭い風切り音だけが響く。


「はっ……!?」


 冬貴が息を呑む。


「どういうことよ!?」


 泉凛も驚愕する。


 氷純は口元を歪ませる。


「そろそろ本性を出してもいいかな」


 すると、氷純の身体が細かい粒子状に分解されるように霧散し、淡い靄となって宙に溶け込む。


「消えた……?」


 御代が小さく叫ぶ。


 冬貴が周囲を警戒する。しかし――


 ガガガガガガ!!


「がはっ……!?」


 突然、背後から唸りを上げるガトリング砲が虚空から出現し、襲い掛かる。重く鋭い銃弾が容赦なく叩きつけられ、冬貴の身体は衝撃で吹き飛ばされた。


 間髪入れず、同じく虚空から出現した、エネルギーブレードが追撃として振り下ろされる。


 焼き切るような閃光が視界を裂き、冬貴は反射的に身を捻った。紙一重で刃を避け、熱風だけが頬をかすめる。


「まさか……」


 冬貴は目を凝らし、息を殺す。そして、ふと手を伸ばした。


「これか!?」


 掴んだものを確認する。


 わずか1センチにも満たない、米粒ほどの超小型ロボットだった。銀色に輝くボディが微かに光を反射しながら、空中で漂っている。


「やっぱり……」


 泉凛が問う。


「何が分かったの!?」


「氷純……あいつは、ただの改造人間じゃない。俺たちが見ていた“本体”なんて最初から存在しなかったんだ」


「え?」


 御代が息を呑む。


 冬貴は手の中の極小ロボットを握りしめる。


「あいつは……小型ロボットの集合体だったんだ」


 静寂が広がる。


 そして、どこからか響く。


「フフフ……」


 氷純の笑い声が、不気味に、楽しげに、闇に溶け込んでいった。

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