第16話 うちの学校に強いやつがいるらしい?
キャラの名前の読み方
雪倉冬貴
燕泉凛
小針御代
櫛形耕平
翌朝。
冬貴は耕平、御代と並んで登校していた。
春の朝はまだ肌寒く、田んぼ道に吹く風が刺すように頬をかすめる。だが、そんな冷たさよりも、三人を焦燥感が締め付けていた。
「今日こそ、絶対に部員を見つけないとマジで終わるぞ……」
耕平が険しい表情で言う。普段の陽気さは消え、肩に力が入っている。
「でも……本当に見つかるかな……?」
御代も不安そうに声を落とす。生徒数80人足らずの学校で、アルカナフォージャー部に入るような人材を二人も見つける――無理難題に近い。
「それでも……やるしかない」
冬貴は前を見据えたまま、唇を引き結ぶ。焦りが胸を満たしていた。
練習試合まで時間はない。ここで部員を集められなければ、廃部は現実となる。
失敗は許されない。
――その瞬間。
「校門前で何やってるのかな?」
「あの人って、アルカナフォージャーのために転校してきた人じゃない?」
ざわ……ざわ……
校門をくぐると、異様なざわめきが聞こえた。生徒たちが何かを取り囲み、ざわついている。
「なんだ……?」
三人は不思議に思いながら、その中心へと向かった。そして、目に飛び込んできたのは――
「アルカナフォージャー部、部員募集中! 全国行くぞ!!」
そう叫びながら、校舎の入り口で大きな旗を掲げる泉凛の姿だった。
「……えぇ……?」
冬貴は思わず額を押さえた。
彼女の手には、「アルカナフォージャー部 部員募集中!!全国行くぞ!!」と手作り感満載の旗が握られ、その足元には大量のビラが積まれていた。
「……おい、何やってんだ?」
冬貴がため息混じりに尋ねる。
「見て分からないの? 部員集めよ!」
泉凛は満面の笑みを浮かべ、堂々と胸を張った。
「いや、その気持ちは分かるけど……ちょっと目立ちすぎじゃないか?」
「そういうこと言ってるから、部員が集まらないのよ!」
ズバッと断言され、冬貴は言い返せなかった。確かに、彼自身がこれまで消極的だったのも事実だ。
しかし、その時――
ヒソヒソ……
生徒たちの囁き声が耳に入る。
「アルフォー (アルカナフォージャーの略)って、普通に楽しむのがいいんだよな……」
「あんな本気でやるとか、めんどくさそう……」
「試合なんて強い人ばっかりが相手だろうし、どうせ惨めに負けるだけでしょ……」
冬貴は無意識に拳を握りしめた。
(やっぱり、そういう意識なんだな……)
全国大会を目指すということは、それだけの覚悟と努力が求められる。しかし、この学校の生徒たちは、そんなものを求めていなかった。
「……」
御代も渋い顔をしていた。
「冬貴、やっぱり私たちじゃ無理なのかも……」
その言葉に、何か言い返そうとしたその時――
「こらこら〜。こんな場所での勧誘はおやめなさいな?」
上品な声が響いた。
「やっべぇ、生徒会長だ」
耕平がボソッと呟く。
振り返ると、そこには優雅な微笑みを浮かべた生徒会長が立っていた。
「校門前での大々的な勧誘は、他の生徒の迷惑になりますわ。ルールは守ってくださいね?」
「ぐぬぬ……」
泉凛は悔しそうに唇を噛みしめたが、仕方なく旗を下ろした。
「ほら、生徒会長が言ってるんだから、撤収しろ」
冬貴も促す。
「ちぇっ……仕方ないわね」
渋々ながらも、泉凛はビラを片付け始めた。
その後、生徒たちのざわめきは徐々に落ち着いていった。しかし、そんな中――
「えっ、本当に? うちの学校にアルフォーが強い人がいるの?」
そんな声が聞こえた。振り返ると女子2人が話していた。
「うん。ウチらと同じ1年に、めちゃくちゃ強い人がいるんだって」
「へぇ。誰それ?」
「阿賀野氷純くん」
「ちょっといいか? 本当にそんな奴がいるのか?」
冬貴は1年生の女子生徒に確認する。女子生徒はやや怪訝そうな表情をしたが、親切にもその生徒について説明してくれた。
「はい、間違いないですよ。阿賀野氷純くん。小学校の頃からアルカナフォージャーのPvPモードで、高い戦績を残してるって話を聞いたことがあります……」
「マジかよ……」
耕平が目を丸くする。
「そんなやつ、学校で聞いたことがないぞ?」
少女たちは少し言いにくそうに口ごもる。
「……彼、小学校の途中から引きこもってるんです。ずっと家から出てこないって……」
その言葉に、冬貴は驚いた。
「会ってみる価値がありそうね!」
泉凛が勢いよく拳を握る。
●▲■
放課後。
冬貴、泉凛、御代の三人は、阿賀野氷純の家の前に立っていた。耕平はプロレス部の活動でこれなかった。
「ここか……」
目の前にそびえるのは、この町でもひときわ目立つ阿賀野家の屋敷。広大な敷地を持つ旧家で、代々山林を管理してきた名家でもある。静かな佇まいの中にも、歴史と格式を感じさせる趣があった。
「阿賀野って言えば、やっぱりここだよな」
田舎では、誰がどこに住んでいるのか、自然と知れ渡るものだ。
「阿賀野家って……確かに、引きこもりの子がいるって噂は聞いたことがあっけど……」
御代が驚いたように言う。
「ああ。まさか、アルカナフォージャーがめちゃくちゃ強いやつとは……」
「そんなことより、その人に早く会うわよ!」
そう言いながら、泉凛は迷うことなくインターホンを押した。
しばらくして、扉が開く。
「どちら様でしょうか?」
現れたのは、屋敷の管理をしている家政婦だった。
「こんにちは、僕たち深越高校の生徒です。阿賀野氷純くんにお話があって……」
冬貴が事情を説明すると、家政婦は一瞬困ったような顔をしたが、やがてため息をついて頷いた。
「ご家族の皆様はお仕事で外出されております。どうぞ、氷純様のお部屋までご案内いたします」
冬貴たちは氷純の部屋の前まで案内された。
「氷純さま、学校の方が来られましたよ」
家政婦がノックをする。
しかし、返事はない。
「開けてみるか……失礼します」
冬貴がそっとドアを開けると――。
部屋の壁には、『アルカナフォージャー』のポスターや、ドローンをはじめとする多種多様な小型ロボットのビジュアルがぎっしりと貼られていた。
その片隅にはシンプルなベッドが置かれ、その上にはロボットのぬいぐるみが所狭しと並んでいる。
そのベッドの中央、一人の少年が静かに横たわっていた。
彼は目元にアミュスフィアを装着し、静かに息を整えながら、仮想の戦場へと意識を飛ばしていた。
小柄な体、透き通るような白い肌、そして肩まで伸びたネイビー色の髪。
一瞬、冬貴は「少女なのか?」と勘違いしそうになるほどの中性的な容姿だった。
「ねえ、無理やりヘッドセット外しちゃえば?」
泉凛が言うが、御代が慌てて止める。
「ダメだってば、そんなことしたら怪我させるかもしれないよ……」
「落ち着け二人とも……」
冬貴は氷純の姿をじっと見つめる。
すると、ふと、机の上に開いたノートが目に入った。
「これは……?」
冬貴はノートに手を伸ばす――
手に取って開くと、そこには細かく書き込まれたアルカナ素材の組み合わせがびっしりと並んでいた。
『〜の鱗〇〇個、〜に〜を合わせて……』
読み進めるうちに、冬貴は思わず息を呑む。
「字が汚いな……」
乱雑に書かれた文字は一見すると単なるメモのようだが、内容は驚くほど緻密だった。
通常では使われないような特殊な素材も登場し、それらを組み合わせることで何らかの新しい力を生み出そうとしている。
"普通のプレイヤーが思いつく発想じゃない"
これまで冬貴が見てきたアルカナの組み合わせとは方向性が違った。ただ単純に攻撃力を上げたり、防御を強化したりするのではなく、何かを「組み立てる」ような、そんな意図が感じられる。
「何が書いてるのかな?」
泉凛がノートを覗き込み、首を傾げる。
「アルカナ素材の組み合わせだな……俺と違う故郷のプレイヤーのだから、詳しくは分からないが……かなり、凄いぞ……」
単純な素材の強化ではなく、何かを形作るための理論がノートには詰め込まれている。だが、それが具体的に何を意味するのか、現時点でははっきりと分からない。
ただ確かなのは、このノートの持ち主が、並のプレイヤーではないということ。
"このプレイヤーは……強いぞ"
冬貴の直感が、そう告げていた。
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