第15話 冬貴が全国大会を目指す理由
予定を変更して、2/26今日2本目の投稿をします。
キャラの名前の読み方
雪倉冬貴
燕泉凛
小針御代
櫛形耕平
春の夜風が静かに吹き抜ける中、冬貴たちは学校の門を抜けた。
「じゃ、私。家この辺だから」
「まじかよ……立地いいな」
冬貴が驚いた声を上げると、泉凛は得意げに頷いた。
「そうよ。学校のすぐ近くにある空き家を借りたの。便利でしょ?」
「……マジか。東京の人はやっぱ金持ちだな」
冬貴は内心、小さくため息をつく。住む世界の違いを感じずにはいられなかった。
「明日も部活やるんでしょ? サボったら許さないわよ」
「もちろんだ。じゃ。また明日な」
冬貴は家に向かって歩く泉凛に軽く手を振った。
それから耕平とも別れた後、最終的に冬貴と御代の二人だけが並んで歩く形になった。
冬貴の家は御代の家の隣だ。
●▲■
冬貴の父は専業の米農家で、春の繁忙期は朝から晩まで田んぼに出ている。そのため、冬貴が夕食を作るのが日常だった。
「こっち、もうできたよ」
御代が鍋を火から下ろし、冬貴に手渡す。
「助かる、いつも悪いな」
「別にいいよ。こういうの好きだし」
冬貴と御代は、しばしばこうして一緒に夕食を作ることがあった。
彼女はもともと石川県の金沢に住んでいたが、祖母の介護と父親の仕事のリモート化の影響で、この田舎町に引っ越してきた。
引っ越してきた当初は馴染めなかった彼女を冬貴が気にかけていたが、今では逆に御代が冬貴の家を気にかけて、こうして家事や料理を手伝いに来るようになっていた。
冬貴は父と二人暮らしをしており、父の仕事が忙しい時期には家事の負担が増えるため、御代に助けてもらえるのはとてもありがたかった。
「冬貴の家のご飯、お米が美味しいんだよね」
「うちの親父が作った米だからな」
軽口を叩きながら、料理を仕上げていると、玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー」
泥のついた作業着姿の父親が、玄関から現れた。
「お、御代ちゃんも来てたのか。ちょうどいいな。一緒に飯食ってけ」
「いいんですか?」
「もちろん。こんな美味そうな飯、息子と二人で食うのはもったいないしな」
「ありがとうございます。いただきます」
御代は少し笑いながら、冬貴と並んで席についた。
●▲■
「これ、御代ちゃんが作ったのか?」
味噌汁をすすりながら、父が感心したように言う。
「ああ。御代の味付けって、上品なんだよな」
冬貴の言葉に、御代は微笑む。
「ありがたいけど、手伝ってもらいすぎるのも悪い気がするな」
冬貴がそう言うと、御代は少し目を伏せ、小さく呟いた。
「……冬貴、昔のこと、忘れちゃったの?」
「え?」
「私、最初ここに来たとき、誰とも話せなくて……いじめられてた時、助けてくれたじゃない?」
「ああ……」
冬貴は思い出す。
転校してきたばかりで馴染めず、陰湿ないじめを受けていた御代。
冬貴は、理不尽ないじめに遭っている御代を見過ごすことができず、彼女を庇ったのだった。
「だから、今度は私が助ける番。嫌?」
御代が少し笑う。
「……嫌じゃないよ。ありがとう」
冬貴は照れくさそうに呟いた。
テレビから、突如としてゲーム番組の音声が響いた。
『今夜は、高校のアルカナフォージャー部特集!』
画面には、北信越ブロックの強豪・兼六学院の映像。
「最近話題だな兼六学院……」
「どんどん強くなってるらしいよね」
そのような会話をしていると、テレビに黒髪の美青年が映った。
「北陸の王子」の異名を持つ男、明峰尊。昨年はU19日本代表にも選ばれた凄腕プレイヤーだ。
『全国を制覇して、北信越の名を轟かせる』
力強く語る彼の瞳に、冬貴は息を呑む。
(全国に行くには、こいつにも勝たなきゃならないのか……)
「強そうな奴が出てきたな」
父がぽつりと呟く。
「……冬貴、お前もこういう強豪校に行けたらよかったのにな」
「……親父?」
「もし家にもう少し金があれば……強豪校に行かせてやたかもしれない。この町に産んでしまって、すまないな」
確かに、冬貴は中学時代、ゲームでそれなりの戦果を挙げていた。そこそこの強豪校から推薦の声がかかっていたこともあった。
だが、この町からでは通学は難しく、かといって奨学金免除を受けるほどの実力があったわけでもない。結果として、その道を断念せざるを得なかった。
その時だった。
「今の学校でできます!」
不意に、御代の声が響いた。
「冬貴くんはすごいんです。いつも私たちのことを支えてくれて……」
突然の発言に、冬貴も父も思わず目を丸くした。
「それに、強豪校のプレイヤーが冬貴くんを目当てに引っ越してきてくれて……私も、もっともっと頑張ります!だから……」
御代は言葉を詰まらせたが、意を決したように声を上げた。
「だから、冬貴くんが頑張ってきたこと……信じてほしいんです!」
まっすぐに父を見つめる御代の目は、真剣そのものだった。
その言葉を聞いて、冬貴は胸の奥が温かくなるのを感じた。
確かに、諦めかけたことも多い。
それでも――。
「全然、後悔してないよ」
冬貴は静かに、けれど力強く言った。
「この街も、この高校も……俺は大切に思ってるから」
父は一瞬驚いた表情を浮かべた後、ふっと笑みをこぼした。
「御代ちゃん、冬貴……余計なことを言って悪かった」
そう言いながら、どこか安心したような表情で続ける。
「冬貴、お前が選んだ道、応援するぞ」
冬貴は、少しだけ胸を張って続ける。
「俺、ここに生まれたこと、誇りに思ってるよ。だから――結果で証明する」
父は黙って頷き、ふっと目尻を下げた。
「……そうか。なら、親父も頑張るか! もっと美味い米を作って、お前らにたくさん食わせてやるよ」
「ああ。楽しみにしてる」
「にしても、最近のVRは進歩してるなぁ。俺が子供の頃のグラフィックと比べ物にならんぞ」
「VRの技術がどんどん進歩してますよね」
その後も会話を楽しみつつ夕食を続けた。
●▲■
夕食を終え、御代を送り出した後、冬貴は仏壇の前に立った。そこには、一枚の写真。優しい笑顔を浮かべた母の姿が映っていた。
母は冬貴が小学生の頃に、若くして病気で死んでしまった。
母はかつてVRMMOでそれなりに強いプレイヤーだった。しかし、田舎に住んでいたせいで、強豪校に進むことができなかった。
それでも、母はこの町を愛していた。だからこそ、この町でも戦えることを証明しようと、深越高校でアルカナフォージャー部を設立した。
けれど、全国の強豪校には敵わず、大きな戦績を残せないまま卒業していった。
「それでも、この町で過ごせたことに後悔はない」
そう笑っていた母は、冬貴をよく町の景色のいい場所に連れ出してくれた。
風が心地よい丘の上、田んぼが金色に輝く夕暮れ。冬貴がこの町を好きになったのは、母が見せてくれたこの景色のせいだったのかもしれない。
時折母はこうも呟いていた。
「もし強豪校に行けていたら、全国で戦えていたのかな……」
それは決して後悔の言葉ではなかった。だけど、冬貴の心には深く残った。
「この町も、この高校も好きだ。でも、それが理由で全国に行けないのなら、それは町のせいなのか?」
もしそうなら、母がこの町に残ったことを否定することになる。そんなことは絶対に許せない。だから――。
「ここで生まれたことを誇りに思ってる。だから、俺が証明する」
この高校でも全国に行けることを。
この町にいても、全国で戦えることを。
母がこの町を選んだことが、間違いではなかったと示すために――。
そして、部活を存続させるためにも――。
「……絶対に、勝つ」
冬貴は静かに拳を握りしめた。
「さて、今日の分の勉強と、強豪校の研究をするか」
冬貴は自室へと向かった。
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