第14話 試しに戦ってみよう
キャラの名前の読み方
雪倉冬貴
燕泉凛
小針御代
櫛形耕平
「おいおい、燕。レベル高すぎだろ、それに装備もめっちゃいいやつだな」
耕平が驚いたように呟く。
「やっぱり全国大会レベルのプレイヤーは違うね」
御代も感心したように微笑んだ。
泉凛は得意げに鼻を鳴らし、「まあね」と肩をすくめる。
「まあ、試合ではレベルが統一されるから、レベルはあんま関係ないけどな」
冬貴が冷静にそう付け加えると、泉凛はむっとして腕を組んだ。
「レベル高いほうが、普段のプレイでは強いんだし、いいでしょ!」
冬貴が軽く笑って頷いた。
「だな。素材集めの時とかは、頼らせてくれ」
その言葉に、泉凛は一瞬驚いたように目を瞬かせる。しかし、すぐにそっぽを向いて腕を組んだ。
「ふ、フン……その時は……ま、まあ、手伝ってあげなくもないわよ!」
口調こそ強気だったが、どこか嬉しそうな表情を冬貴は見逃さなかった。
御代がにこりと微笑んで言った。
「泉凛ちゃん、【暗黒騎士】なんだ。かっこいいね」
「お、いいじゃん!」
耕平がノリよく乗っかる。
「泉凛に似合ってんじゃね? ……泉凛の性格に」
その言葉に、泉凛は一瞬ぱっと表情を緩ませる。しかし、すぐにムッとした顔で腕を組む。
「……どういうことよ、それ!」
強がってツッコむものの、耳のあたりが少し赤くなっているのを冬貴は見逃さなかった。
暗黒騎士は【修羅戦域】を故郷に持つプレイヤーが選択できる職業である。
その特徴は、魔獣系モンスターからドロップする、自らのHPを消費することで、様々な効果を発動できる自己犠牲型のアルカナ素材を剣に宿すことができる点にある。
攻めに転じれば凄まじい破壊力を誇るが、その分、消耗やリスクも大きい、まさに命を賭した戦いを信条とする職業だ。
冬貴はそのやりとりを眺めつつ、口を開いた。
「泉凛も来たことだし――まずはお互いの戦い方を見せ合おう。俺たちも泉凛に自分たちの動きを知ってもらいたいしな」
冬貴が提案し、一同は【緋雨市】のとあるフィールドへとテレポートした。
そこは住宅街を模したフィールド。しかし、壁や道路は至るところで崩れ、切れた電線が虚しく垂れ下がっている。もはや、人が住んでいた痕跡すら風化しつつあった。
かつて、この街ではある組織が違法な人体実験を行い、無理やり人間を異能力者へと変えようとした。
しかし、その試みは失敗し、生み出された存在たちが暴走。住民たちは逃げ惑い、やがて街は無人の廃墟と化した——そんな背景が設定されたフィールドだった。
泉凛は剣を抜き、警戒を強める。
その瞬間、モンスター【歪人】が現れた。一般の人々だった者たちが、肉体強化の異能力付与実験に失敗し、異形へと変貌した存在だ。
【歪人】には人間としての思考回路は存在せず、本能のままに動く物体へと襲いかかる。
荒れ果てた街に、獣のような咆哮が響き渡る。
冬貴たちを視界に捉えた【歪人】が、血走った瞳をぎらつかせ、地面を揺らしながら襲いかかってきた。
「よっしゃ、行くぜ!」
耕平が雄叫びを上げ、アルカナを発動する。
「【獣化】!」
彼の身体が膨れ上がり、筋骨隆々とした巨大な虎の獣人へと変貌する。毛並みが逆立ち、鋭い眼光が敵を射抜く。
そのまま猛然とモンスターに突進し、強靭な腕でガシッと胴を絡め取った――。
「いくぜえええええええ!」
唸るような雄叫びとともに、【歪人】が宙を舞う。
「ジャーマンスープレックス!!」
鈍い衝撃音が響き渡り、異形の巨体が荒れ果てた地面に叩きつけられた。
歪んだ筋組織が激しく痙攣し、裂けた皮膚から異様な黒い液体が滴る。
次の瞬間、けたたましい断末魔とともに、その身は霧散し、虚無へと溶けていった。
「よっしゃああああ!」
「す、すごい……プロレスの技?」
泉凛は目を見開き、思わず息を呑む。
「ああ。俺はプロレス部だからな!」
耕平は誇らしげに笑い、堂々と胸を張る。彼の戦闘スタイルは、兼部しているプロレス部で鍛えた技と【獣化】状態を融合させた独自のものだった。
泉凛は呆れたようにため息をつく。
「……なんでこの生徒数でプロレス部なんかあんのよ……」
ポツリとこぼしたその言葉に、耕平は「俺がプロレスを同級生に普及させたんだよ! ……まぁこっちも廃部寸前なんだけどな」と笑うのだった。
【獣化】した体は、現実の体とは大きく異なるため、操作が難しいと言われている。
だが――。
(相変わらず天才だな……)
冬貴は息を呑む。耕平の獣人化した体捌きは滑らかで、無駄がない。巨大な四肢を自在に操り、まるで元からその姿だったかのように馴染んでいる。
普段のノリの良さからは想像できない巧みな動きに、冬貴は密かに感嘆していた。
しかし――。
「まだ終わってないわよ」
泉凛が低く呟く。
瓦礫の向こうから、さらに多数の【歪人】が出現した。
「ちょっと! 多くない!?」
剣を構えた泉凛だったが、そのとき――。
「泉凛ちゃん、ちょっと待って!」
御代が慌てて手を掲げる。その表情には緊張感がにじんでいた。
「【夢紬ぎの祝福】!」
淡い光の粒子が泉凛の体を包み込む。温かな輝きが、泉凛の剣を伝って強く脈打った。
「三秒以内に攻撃して!」
その言葉に、泉凛の目が鋭く光る。
「任せなさい!」
迷いなく地を蹴り、剣を振り抜く。
「【ブラッド・エクリプス】!!」
紅の斬撃が奔る。力強い一閃が、前方に迫るモンスター群を薙ぎ払った。衝撃音とともに爆発が連鎖し、視界が閃光に染まる。
一瞬でモンスターの群れが消滅した。
「なに、これ……!?」
泉凛が驚愕する。
「こんなに威力を上げるアルカナ、見たことない!」
御代は静かに微笑んだ。
「効果範囲を絞ることで、威力を大幅に上げるアルカナなの。今回は3秒以内の攻撃に限定したから、その分効果を上昇できたの」
「……すごい」
泉凛は圧倒されたように呟く。
しかし、驚いていたのは彼女だけではなかった。むしろ、他のメンバーのほうが衝撃を受けていた。
「うん……強化はしたけど、まさか一撃で倒しちゃうなんて……」
御代が信じられないといった様子で苦笑しながら言う。
御代が苦笑しながら言う。
「だな。ここまでとは……」
耕平も驚いた様子でうなずいた。
泉凛は、モンスターの群が完全に消滅したことを確認した後、ふっと息をつき、口元に小さな笑みを浮かべる。
そして、軽く肩をすくめながら言った。
「……冬貴、アンタさ、この学校のことを田舎の弱小校とか言ってたけど……あんたたち、意外とやるじゃん」
「……そうなのか?」
「ええ。まだ粗削りだけど、東東京の予選くらいなら、そこそこ戦えるんじゃない?」
泉凛が自信ありげに言う。
「……」
冬貴は一瞬、嬉しそうに口元が緩んだが、すぐに軽く首を振った。
「いや……まだまだだ。全国に行くには、もっと強くならないと」
冬貴がそう言うと、御代が「そうね……」と静かに頷き、耕平も「だな」と真剣な表情で同意した。
すると、泉凛が腕を組み、口元に薄く笑みを浮かべながら言った。
「そうでないと、全国なんて夢のまた夢よ。もっともっと強くならなきゃね!」
その時だった。
ピロン――。
通知の音声が流れた。
『【歪人】の討伐報酬、【異業の核】を入手しました』
3人の視界に、ゲームシステムの通知が浮かび上がる。
「おっ、アルカナ素材か!」
「ほんとだね」
耕平がログを確認する。
入手した素材の説明を読むと、特定のアルカナに必要な素材だった。
『物理耐性を上昇させるアルカナ素材。防御力を一定時間強化し、物理ダメージを軽減するアルカナなどの作成に使用可能』
「冬貴もこいつ倒して、素材もらっといたほうがいいんじゃない?」
泉凛がそう提案すると、冬貴は淡々と首を横に振る。
「いや、もう持ってる」
「は? もう持ってるって……いつの間に?」
「全フィールドの小・中型モンスターのアルカナ素材は、ほぼ全部集めてる」
「……は?」
一瞬、泉凛は冗談だと思った。しかし――。
「マジだぞ。俺らも付き合わされたからな」
耕平が肩をすくめる。
「そうなの……冬貴くん、素材集めになるとすごいから……」
御代も少し困ったように笑う。
しかし、泉凛は笑えなかった。
「……本気で言ってる……?」
改めて冬貴を見る。彼は表情一つ変えず、当然だと言わんばかりに前を向いていた。
それがどれほど異常なことか、泉凛にもすぐに分かった。
普通のプレイヤーなら、必要な素材を集めるだけで精一杯だ。それを、網羅するなど――。
驚きと、わずかな戦慄が背筋を這う。
「……やっば」
泉凛は思わず本音を漏らした。
呆れではなく――これは、恐れだ。
「じゃあ、今日はここまでにしよう」
冬貴の提案で、全員がゲームをログアウトし、部室で軽くミーティングを行った。
「明日は部員探し。方法は各自考えてきてくれ」
冬貴がそう告げると、一瞬、静寂が訪れる。
しかし――。
「……俺たち、意外とやれるかもしれないな」
冬貴がポツリと呟く。
「ふん、当然でしょ。あとはメンバーさえ揃えば――」
泉凛が得意げに腕を組む。
「明日は絶対、仲間をゲットしてやるぜ!」
耕平が拳を握り締め、笑う。
「……頑張ります!」
御代も力強く頷いた。
それぞれが前を向き、決意を新たにする。
絶対に部員を集める――その強い思いを胸に、部室を後にした。
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