第10話 新入生、燕泉凛
キャラの名前の読み方
雪倉冬貴
燕泉凛
新年度の学校集会を終え、冬貴たちは教室へと戻ってきた。
ほどなくして始まったホームルーム。
担任の教師が教壇に立ち、いつもより少しだけ声を弾ませる。
「この町では珍しく、転校生が来ました」
ざわっと教室内が少しだけざわつく。
この田舎町で転校生など、滅多にない。
「というわけで、東京から来ました。転校生の燕泉凛よ。よろしくお願いするわ」
教壇に立った少女は、堂々と胸を張りながら自己紹介を終えた。黒色の長髪を揺らし、涼やかな瞳には自信が満ちている。
ここは新潟県立深越高校2年1組。1組とは言っても、校内の生徒数は80人にも満たず、2年生はこのクラスしかない。
そんな小さな学校に、突如として現れた東京出身の転校生――それだけで、教室は一気にざわめきに包まれた。
ホームルームが終わると、泉凛の席に人溜まりができていた。
「東京のどこから来たの?」
「港区よ」
「えっ、ガチのお嬢様じゃん……!」
「髪、めっちゃ綺麗! なんのシャンプー使ってるの?」
「ナチュラルオイルブレンドってやつ!」
「え、高いやつじゃん……!」
そんな中、クラスメイトの一人が突然声を上げた。
「泉凛ちゃん、アルカナフォージャーで全国大会出てたよな? 俺見てたぜ!」
「え、マジ!?」「やっば、ガチ勢じゃん!」
その一言で、教室の空気が一変した。
「しかも東京の強豪、鋼月学園にいたんだぜ。ほら、八王子スカイレイダーズの田町選手とかいるとこだよ!」
「えっ、田町選手!? 私その人知ってるよ!」
「田町選手って、日本代表にも選ばれた有名なプレイヤーだよな? テレビとかでもよく見るし、確か化粧品ブランドのアンバサダーとかもやってたな……」
「先輩が田町選手の髪型真似してたよ! すごくかわいいよね」
「他にも、立川選手とか大崎選手とか……泉凛ちゃんがいた学校は有名選手をいっぱい輩出してるところなんだぜ」
「そんなすごい学校から来たんだ……」
教室は次第にざわめきを超え、興奮に近い騒ぎになっていく。
「でも、なんでこんな田舎に?」
誰かが素朴な疑問を口にすると、泉凛は一瞬だけ迷うように視線を落とした。しかし、すぐに顔を上げてはっきりと言う。
「前の学校でスタメンを外されて……夜も眠れなくなって……アルカナフォージャーそのものも、嫌いになりかけてた。でも――」
彼女は一呼吸置く。
「冬貴となら、また全国を目指せるって思ったから!」
一瞬、静寂。
だが次の瞬間、「ヒューヒュー!」という冷やかし混じりの歓声が飛ぶ。
「冬貴……東京に彼女いたんかよ!?」「リア充爆発しろ!」
「違うわよ! そういうんじゃないってば!」
泉凛がムキになって否定するが、周囲の盛り上がりは止まらない。
そんな中、冷静な声がポツリと漏れる。
「でもさ、ウチってアルフォー部、弱いでしょ?」
「弱いっていうか、そもそも部員いなさすぎて、活動してるのかも怪しいっていうか……」
否定しづらい現実。教室に微妙な空気が流れる。
泉凛はムッと眉をひそめ、ぐっと拳を握った。
「――絶対に全国行くから! 見ときなさい!」
彼女は強気に言い放つ。そして、ふんと鼻を鳴らし、視線を向けた。
教室の隅に座る雪倉冬貴――その姿を、まっすぐに見据えていた。
「なんで私の席に来ないの?」
そう言いながら、泉凛は迷いなく歩み寄る。その先には、冬貴の他に二人の男女が立っていた。
「いろいろ聞きたいことはあるけど、お前の席、人だかりができてたからな」
「まあ、確かに」
冬貴が肩をすくめる。泉凛は、彼の隣にいる二人を見て、興味深そうに首を傾げた。
「この二人は冬貴の友達?」
「友達であり、アルカナフォージャー部の仲間だよ」
その言葉に、長身でガタイの良い金髪の男子が、白い歯を見せて笑う。
「俺は櫛形耕平。冬貴から名前は聞いてるぜ、燕泉凛。すごいプレイヤーらしいな」
「ふん。まあね!」
泉凛が得意げに胸を張る。続いて、控えめな水色髪のふわふわのミディアムヘアの少女が優しく微笑んだ。
「私は小針御代。冬貴くんのお友達だよね? 引っ越してきたばかりで分からないことがあれば、何でも聞いてね」
「ふぅん……けっこうかわいいじゃない」
「えっ、そ、そんな……!」
思わぬ反応に、御代は顔を真っ赤にしてうつむく。
和やかな空気が流れる中、泉凛はふと冬貴の顔を見た。
だが――なぜか彼は、少し沈んだような表情をしている。
「……ちょっと、アンタさ」
「ん?」
「なんでそんな暗そうな顔してんのよ。この私がこの学校に転校してきたのに」
唐突な問いかけに、冬貴は一瞬言葉に詰まった。
「いや、そんなこと……」
「隠しても無駄よ。どう見ても、嬉しそうじゃないじゃない」
鋭い指摘に、冬貴は観念したように息をついた。
「来てくれたのは、正直すごく嬉しいよ。驚いたし、信じられないくらいだ」
「じゃあ、なんで?」
「でも……本当に君がここに来て良かったのかなって」
「……どういうこと?」
「俺たち、部員が少なくて大会にも出れてないんだぞ。そんな状態のチームに、全国レベルの君が入って……それでいいのかって思っているんだ」
一瞬、沈黙が落ちる。
しかし、泉凛は迷いなく顔を上げ、まっすぐ冬貴を見つめた。
「問題ないわ!」
その瞳は決意に満ちている。
「冬貴がいるから、この学校こそ私が一番輝けるに違いないわ! だから、他の強豪校じゃなく、この学校に来たのよ!」
力強い言葉だった。
「そして、あと二人どこかから探してきて、全国大会に行く!」
泉凛の堂々たる発言に、御代と耕平は顔を見合わせる。二人とも、入部してくれること自体は嬉しいのだが――。
冬貴がため息混じりに口を開く。
「部員を探すのが簡単なら、俺たちも苦労してないんだよなぁ……」
「え?」
泉凛がきょとんとする。
「今まで俺たち以外、この部に入りたいって行ってくれた人は1人もいなかったし……」
冬貴はさらに付け足す。
「新1年生に向けた高校説明会でも、俺たち、頑張って勧誘したんだけど、誰も入ってくれなかった」
「なんで!? 大人気ゲームのアルカナフォージャーよ!」
泉凛が納得いかない様子で声を上げる。
しかし、冬貴は少し困ったように首を振った。
「それは、ゲームとしての人気であって、競技としての人気じゃないんだよ。この学校にも、アルカナフォージャーを遊んでるやつはそれなりにいる。でも、大会に出たいって思ってるのは……俺たちだけなんだ」
泉凛は驚いた顔をする。
「そんな……」
「俺たちも最初は、もっと仲間を増やして、みんなで強くなろうって思ってた。けど、勧誘しても、『そこまで本気じゃないから』って断られて……」
「へえ……」
泉凛は腕を組んで考え込む。
冬貴が少し自嘲気味に笑う。
「だから、俺たちはたった3人でも、とにかく練習してきたんだ。部活っていうより、ほとんど趣味の集まりみたいだったけど……」
耕平と御代もうなずく。
「でも、やっぱり人数が足りなくて、大会には出られなくてさ」
「……そっか」
泉凛は静かに呟いた。
その瞳には、少しだけ寂しさと、そして――決意の光が宿っていた。
「じゃあ、決まりね!」
「え?」
「私、今日から新しいアルカナフォージャー部の一員だから! よろしく!」
泉凛がニッと笑って右手を突き出す。
「私についてこれるかしら?」
その挑戦的な態度に、耕平がニヤリと笑い、御代も微笑む。
「おう! よろしくな!」
「わ、私も! よろしくお願いします!」
冬貴は、確かに泉凛が入ってきたことに対して、不安や、「こんな場所に来させてしまった」という後ろめたさを感じていた。
だが――。
泉凛は、自分と一緒に戦いたいと言って、この学校に来てくれたんだ。
その思いに応えたい。
絶対に、その覚悟と行動を無駄にはしたくない。
冬貴はそう強く心に刻んだ。
「ああ。よろしく」
冬貴も、その手をしっかりと握り返した。
「一緒に全国を目指そう」
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※この作品では現実でも銀髪や金髪、青髪など様々な髪色の人が登場しますが、あくまで創作物的表現であり、この世界では普通です。




