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第1話 鋼月学園 vs 學楽高校



「ついに開幕です!『全国高等学校アルカナフォージャー全国大会』! 東東京代表・鋼月学園こうげつがくえん高校と、大阪府代表・學楽がくらく高校の熱戦が今始まります!」


 実況の声が響き渡る。VR空間に作られた摩天楼のフィールドには、夜の都市を彷彿とさせる高層ビル群がそびえ立ち、ネオンの光が戦場を照らしていた。


 VRMMO観戦専用の施設である東京VRスタジアムには、3万人を超える観客が詰めかけていた。


 その中には、プロチームのスカウトたちの姿もあり、将来有望な選手を見極めようと熱心に試合を見つめている。


 加えて、テレビやインターネットを通じて試合を視聴する人々を含めれば、その観戦者数は数十万人にも及ぶだろう。


 というのも、鋼月学園が前年の全国大会における王者であるからに他ならない。


 観客席には、選手を目指す子どもや、これから鋼月学園に当たるかもしれない選手も詰めかけて、鋼月学園に注目している。


 熱気に包まれた会場は、試合の開始を今か今かと待ちわびる人々の期待と興奮で満ちていた。


 試合の勝利条件は「90分の制限時間内に敵チームを全滅させる」か、「制限時間終了時に生存人数が多い方が勝利」となる。


 鋼月学園の6人は、一つのビルの屋上にスポーンした。統一された軍服風のユニフォームが闘志を示す。背中にはそれぞれの背番号が刻まれていた。


「今日は全国の初戦だ! 絶対に勝つぞ!」


 部長の男が気合を入れる。だが、その掛け声の直後、一人の少女がフンと鼻を鳴らした。


「早く試合始まらないかしら?」


 燕泉凛つばめいずり――チーム唯一の1年生。背中の「14」が揺れる。彼女は剣の柄を握りしめ、すでに試合開始の合図を待つことすら面倒そうにしていた。


「泉凛、今日も言っとくけど、単独行動は厳禁だからね。アンタのせいで何回ピンチになったか覚えてる?」


 猫耳の先輩が、甲高い声で釘を刺す。彼女の異質な外見は、ビル群の無機質な風景の中でひと際目立っていた。


 泉凛はムッとした表情で眉をひそめると、即座に反論する。


「私のおかげで勝てた試合だってあるじゃない!」


 強気に言い放ちながらも、その視線はすでに仲間ではなく、遠く敵陣を捉えていた。


 ――まるで、勝利のためなら誰の声も届かないと言わんばかりに。


「3…2…1…Start!」


 試合開始。


 カウントがゼロになった瞬間、泉凛は何の迷いもなくビルの端へと駆け出した。


「ちょっ、おい! お前どこ行くんだ!?」


「好きにやらせてもらうから!」


「あぁもう! 今日もこの子は……!」


 彼女にとって、誰かに合わせるという時間すら無駄だった。勝利は己の力でつかむもの。


 そう教えられてきた。そして、それ以外の戦い方を知らない。


(仲間の協力なんて、必要ない! 私は私の力で勝つ。それが、一番確実なんだから)


 そのまま、彼女は高層ビルの屋上から飛び降り、敵陣へ一直線に突撃する。


 仲間たちが布陣を固めるのを無視し、真っ先に戦場へ飛び込んでいった。


 1年生にしてスタメンという異例の起用も、彼女の桁外れの実力ゆえだった。


 東東京予選では、一試合で敵3人を単独で討ち取ったこともある。彼女には、自分こそがチーム最強だという揺るぎない自負があった。


●▲■


 試合開始から数十分が経過し、戦況は依然として膠着していた。


 學楽高校はすでに2人を撃破。一方、鋼月学園はまだ1人しか倒せていない。撃破されたプレイヤーの数がじわじわと響き始め、鋼月学園の側に焦りの色が見え始める。


 両チームとも、慎重に立ち回りつつも、決定的な一撃を狙って動いていた。


「敵、三時方向のビル屋上。スナイパー確認」


「後衛の援護を優先。無駄な接敵は避けるぞ」


「くっそ、動けねえな……どうする……」


 鋼月学園のメンバーは、敵の狙撃範囲を警戒しながら慎重に進軍していた。だが、そのとき――。


「【レクイエム・オーバードライブ】!」


 突如、ビルの影から飛び出した影が、疾風のごとく駆け抜けた。


 燕泉凛だった。


「泉凛!」


 仲間の叫び声が響く。しかし、それに応じる間もなく――。


「こいつ……!」


 學楽高校のメンバーの一人が驚愕しながらも、素早く反撃の構えを取る。短剣を翻し、泉凛の懐へと飛び込もうとするが――。


 剣が閃き、刃が敵の胴を切り裂く。


「遅いのよ!」


 泉凛の刀が疾風のごとく閃いた。


 敵の刃が触れるよりも速く、泉凛の斬撃が胴を切り裂く。衝撃とともに鮮烈なエフェクトが弾け、學楽高校のプレイヤーはわずかに呻きながら膝をつく。


「くっ……!」


 次の瞬間――彼のHPはゼロになり、光の粒となった。


「ふふっ、そんなのじゃ話にならないわね」

 

 泉凛は勝利を確信した笑みを浮かべながら、次の標的を探すように視線を走らせた。


 すると、すぐに別の敵影を捉えた。


 ビルの影に隠れるようにして、學楽高校のもう一人のメンバーが様子をうかがっている。焦りが見え隠れするその動きから、奇襲を警戒していると判断する。


「いた!」


 泉凛は一瞬で距離を詰めるべく、足に力を込めた。逃がさない――次の獲物を狩るため、まっすぐ踏み込もうとしたその時だった。


 彼女は得意げに剣を振り払った。だが、その瞬間――。


 背筋に悪寒が走る。


(……何かが、おかしい)


 直感が警鐘を鳴らした。だが、遅かった。


 倒したと思っていた敵の体が霧状に四散する。


偽物フェイク……じゃあ本物はどこに!?)


 泉凛が周囲を見渡したその時――


「今だ、囲め!」


 影が動く。


 學楽高校は最初から彼女が単独行動をすることを知っていた。


 彼女が「獲物を狩った」と思った瞬間こそが、相手にとっての最大の好機だった。


「しまっ……!」


 次の瞬間、四方から襲いかかる攻撃。


「後ろだ、燕!」


 仲間の警告が響いたが、もはや手遅れ。

 

 鋭い一撃が背中に直撃し、HPが瞬時にゼロへ。


 視界が赤く染まり、彼女の体はスローモーションで地面へと沈んでいく。


「泉凛が……負けた!?」


「あいつ……どうしてくれんだよ!」


 通信越しに仲間の動揺が伝わる。


 戦況は一気に傾いた。


 ●▲■


 燕泉凛を失った鋼月学園は、守勢に回らざるを得なかった。


 数的不利は覆せず、學楽高校はじわじわと包囲網を狭めていく。


「くそっ……どうすれば……」


「無理だ、人数差がきつい!」


「何とかして勝つんだ……!」


 ――しかし、状況は変わらなかった。


「試合終了――!」


 ブォォォン!


 試合フィールド全体に、重厚なエンドサウンドが響き渡る。


 時間切れとなった瞬間、スコアは決定した。


「勝者、學楽高校!」


 前年王者・鋼月学園、まさかの一回戦敗退。


 会場全体が静寂に包まれた。


 観客席には、呆然とした表情の者もいれば、落胆する鋼月学園の関係者の姿もあった。


 試合参加者の待機室。ゲーム専用のベッドに横たわる泉凛は、悔しさを滲ませながら震える拳を強く握りしめていた。


「……なんでよ」


 震える唇から漏れる小さな声。


 彼女の目には、敗北の現実が映っていた。


(私が……負けた?)


 これまで、自分の実力だけで戦い抜いてきた。


 誰にも頼らず、誰にも縛られず、ただ自分が強ければそれでよかった。


 ――だが。


 今、この瞬間、彼女の前に立ちはだかったのは、「個の強さ」では超えられない、絶対的な「チームの力」だった。


 それは、彼女にとって大きな意味を持つ「敗北」だった。

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※この世界は2000年頃から既にVRMMOが存在していたパラレルワールドです。そのため、そこまで遠い未来ではないです。

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