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第2話 異世界人は半端ない

本日2話目です。

 昨日俺は8歳になった。8歳といっても生まれてすぐに1歳なので、現代日本的には,満7歳だ。

 8歳になると名前が付けられる。

 付いた名はバーデン。

 バーデン・ノート・ワックラーが俺のフルネームだ。『バーデン』が個人名で『ノート』が国名、『ワックラー』は家名になる。

 事前に教えられた知識によると、国名を名乗れるのは王族だけらしい。なので、俺は『ノート国王家、ワックラー家のバーデン』ということになる。

 ちなみに、ワックラー家の男子は名前の最後に『デン』をつける伝統があって、父は『ハイデン』、長兄が『ヨールデン』、次兄が『ボーデン』だったりする。


 それはともかく、生活のあらゆるところで魔法が使われている中世ヨーロッパ風異世界に転生した元日本人の俺にとって、風呂が無い生活なんてありえない。

 そりゃあ手をかざすだけできれいになるんだから、体を洗う文化が生まれる余地なんて無いのは理解できる。理解はできるが納得はできない。

 やっぱり日本人としては、一日の終わりにはたっぷりとお湯をはった湯船に身を沈めて「あ゙あ゙ぁ~」と至福の声を漏らしたい。




「風呂に入りたい」


 使用人の子たちに朝の身だしなみを整えてもらっている時にそう言うと、普段ゆったりと構えていて何事にも動じなさそうなジーンが大きく眼を見開いて驚いている。


「バーデン様、今何と?」

「風呂に入りたいと言った。たっぷりのお湯の中に入りたいんだ」


 風呂という言葉の意味も含めて答えると、ジーンは「ああ」と感嘆の息を漏らした。


「何ということでしょう。バーデン様がご自分から望みを仰るとは。今まで言われるがままされるがままでいらしたあのバーデン様が」


 使用人の二人もびっくりした顔で固まっている。

 まあ、ぼんやり王子と呼ばれていたくらいだから、このリアクションも仕方がないと受け入れておく。


「やはり名前をお授かりになって、王子としての自覚をお持ちになられたのですね」

「……そんなところだ」


 本当は前世の記憶を思い出したからなんだが。


「よろしゅうございます。湯の中にお入りになりたいとのこと、私めには想像もつかぬ仕儀でございますが、このジーン・ノービ、全身全霊をもってバーデン様のご要望にお応えする所存でございます」

「ありがとう、ジーン。できたら午後の鍛錬の後に入りたいから、それまでに準備できるかな」

「おまかせください」


 そう言いつつ、右手を胸に添えてお辞儀をするジーンがとても頼もしく見えた。

 これなら、案外簡単に願望が叶いそうだ。




 家族揃っての朝食が終われば、午前は一般知識や王族としての教養の座学、昼食を挟んでの午後からは実技の訓練だ。

 実技には基礎的な体作りを始め武器を使った鍛錬があり、その時は当然のように『魔法』が使われる。つまり、戦う時は魔法と意識しなくても身体強化をし、矢の代わりに火や水を飛ばす。剣や槍や盾も無い。全てが魔法、魔力を使う。ただし、一般生活ではナイフとかの道具を使うこともある。どちらを使うかの基準は効率といったところか。


 そんなこんなで鍛錬を終えた俺をジーンが待っていた。


「バーデン様、朝のご要望の準備が整っております」

「うん。どこに行けばいい?」

「その前に着替えませんと」

「え? このままでよくないか?」


 風呂に入るんだし。


「いいえ。汗で汚れたままの服で城内を歩くことはなりません」


 頑ななジーンに連れられて訓練場の隅の更衣室兼倉庫になっている建屋に入り、例の魔法的なやつで汗を取ってもらって普段着へと着替えさせられた。

 ちなみに、それをしてくれたのはあの使用人の少女たちではない。俺よりいくつか年上の2人の従者だ。いずれ俺が成人したら側近となるはずの少年たちで、日中のこまごまとした世話は彼らの担当だ。


 そんな彼らを引き連れてジーンの案内で訓練場から本城に向かう。


 王城は王都の端にある3つの小高い丘を利用して建てられている。

 一番高い丘に王族の住居や国の政務を行なう施設がある本城が建ち、橋のかかった小さい谷を挟んだ2番目に高い丘にあるのは来客用の建物や家来の詰め所がある二の城、そこから一段下がったグランドのようになっているところが訓練場で、使用人たちの宿舎や倉庫なんかがある3番目の丘はその先だ。

 丘がある地名にちなんで、3つまとめてコーマル城と呼ばれている。


 俺たちがたどり着いた先は本城の1階の厨房だった。

 初めて入る厨房では、火のついた竈の上に乗せられた大きな鍋が盛大に湯気を上げていた。


「城で一番大きな鍋を用意させました」


 ジーンの言葉に厨房の隅に控える料理人たちがうんうんとうなずいている。


「ささ、熱いうちにどうぞ」


 庭師が使っていそうな脚立が鍋の傍に立てられて、それに上るようにジーンが急かす。


「いや、待った待った待った。おかしい、おかしいから!」

「はて。 たっぷりのお湯に入りたいと申されたはずでは?」

「そうだけど! でも熱湯はおかしいだろ! 僕は蛸じゃないんだぞ!」


 盛大にクレームをつけたい。

 ジト目を向けると、ジーンはそれをスルーして、


「蛸にはできませんが、私たちなら体に水を纏わせることができますので、多少は大丈夫かと存じます」


 と、手から出した水をそのまま手に留めてスッと煮立った湯の中に入れた。えええっ~!


「ちょっ、ジーン!」


 焦って呼びかけると、ジーンは何事も無かったかのようにお湯から抜いた手をパッと一振りして、その手に纏っていた水を消した。


「だ、大丈夫?」


 近寄ってまじまじと彼の手を確認すると、全く火傷しているようには見えなかった。よかった。

 ほっとしているところへ料理人たちが寄ってきて、口々に喋りかけてきた。


「大丈夫ですよ、殿下」

「まぁ俺たちもあれぐらいは楽勝だな」

「料理人ならできて当然よね」


 マジかよ。異世界の料理人、ハンパないな。


「でも、さすがに全身は無理だろう?」

「ああ。俺でも全身入れたら間違いなく茹蛸だ」

「三の御子様は小さい頃から変わってらしたからねぇ」


 他の料理人たちからもこそこそと声が漏れ聞こえる。


「でも、なんか印象が違ったよな」

「そうそう。もっとぼんく……ぼんや……ぼ、凡庸な王子様っていうか」

「まあ、あたしはこっちの殿下の方が好きだけどね」

「ボーデン殿下のやんちゃに比べればマシかもな」

「いやいや、熱湯に入ろうなんて、あのやんちゃ王子様でもしねぇだろ」

「やっぱり下にいくほどアレねぇ」


 アレって何だよ。

 ていうか、さんざん言ってくれてるけど、不敬とか大丈夫?


今回のキャラの名前に使った方言


じんのび : のんびり

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