4・もうひとつの居場所
カフェおいてけぼりに着いた俺は、店長に事情を話し、りんごが入った段ボールを開けて見せた。
「わあ!美味しそう!!いいんですか?こんなにたくさん頂いて。」
「はい。自分だけじゃ食べきれないので、むしろもらって頂けるとありがたいです。」
「ご近所さんとか、職場の人にはあげないの?」
「一回配ったことはあるんですけど、そう何回も配るのも色々面倒で…。」
「そうなんだ!じゃあ遠慮なく頂くわ。ありがとうございます。当分デザートはりんごになりそうね!」
店長が笑いながら言った。
「あの、りんごでおかず、作れますよ?」
「え?」
俺の趣味は料理だ。
以前も実家からりんごが大量に送られてきたことがあったので、りんごを使った料理をネットで探し、
色んなりんご料理を作ってみたことがあった。
その中でもお気に入りなのは「肉巻きりんごの照り焼き」と「マヨネーズでりんごとベーコンのマフィン」だ。
作り方をぜひ教えて欲しいとのことだったので、その2品を作ってみせた。
「わっこれ美味しい!」
りんごの肉巻きを食べた店長が叫んだ。
香りに釣られて若い男性店員(律というらしい)もやってきたので食べてもらうと、うんうん頷いている。
「りんごがシャリシャリしていて歯応えがあるし、この甘酸っぱさがお肉とよく合ってる。りんごでこんな美味しい料理が作れるんですね」
試食した2人から絶賛の言葉を頂戴すると、俺は照れながらもすごく嬉しかった。
これが高揚感ってやつか?
思い返してみると、母親以外で誰かに自分の料理を褒めてもらったことは初めてだった。
誰でも食堂のメニューに加わることになり、俺はボランティアとして調理を任されることになった。
◇ ◇ ◇
「なんだこれ?!」
肉巻きりんごの照り焼きを初めて提供した客の第一声がこれだった。
しまった。俺のお気に入りだが、変わり種は良くなかったか?
「うまい!これ、みほさんが考えたの?」
「ふふん。私じゃないよ」
みほは得意げに言った。
客が俺の方に顔を向けた。
「にいちゃんか!めちゃくちゃうまいよ、これ!!」
身体が硬直する。
今、褒められたのか?
ごくりと喉の奥に溜まった唾を飲み込んだ。
「てことだから、また来てくれる?」
みほはにかっと笑っている。
俺は考えるよりも早く口を開いていた。
「もちろん!また作りますね。」