3・健史とまっかなりんご
「宅配便でーす」
荷物を受け取ると「うぉっ!」と声を出しそうになる程の重さが両手にのしかかった。
送り主が実家であることを確認すると嫌な予感がしてきた。
「だからいいって言ってるのに。」
やっぱりだ。
5キロの段ボールを開けると、たわわんと憎らしくもひかり輝いているりんごが大量に入っていた。
34歳。独身。
俺、野本健史は7帖のアパートで一人暮らしをしている、どこにでもいるしがないサラリーマンだ。
家と職場を往復ばかりしている毎日。結婚して疎遠になった友人たち。
休日になると、なんか面白いことないかなと呟くことが多くなった。
YouTubeを一日中見たり、一人焼肉や一人サウナで気持ちは満たされる。
だけどどれも一時的なもので、ずっと何か物足りなさを感じていた。
夢中になれるものが、ない。
俺は、このまま歳をとって死ぬのか?
とんとん拍子のはずなのに。人生って案外つまらない。
それが34になった現時点での俺の人生観。
我ながら哀れなものだ。
前は実家からみかんが大量に届いた。一人じゃ食べきれないから、もう仕送りは大丈夫だと話したのに。
母に電話し、感謝は述べつつも、みかんの時と同じ抗議をする。
食べきれなかったらミキサーでジュースにしちゃえばいいからと言われたが、そもそもミキサーを持っていない。
そういえばこの前散歩をしているときに、近所のカフェがやっているだれでも食堂の張り紙が貼ってあるのを思い出した。
確かボランティアや寄付を募集しているって書いてあったはずだ。
りんごはナマモノだから譲るなら早いほうがいいよな。
俺はいくつか自分用にりんごを取り出すと、段ボールにガムテープを貼って封をし、
寄付として持っていくことにした。