第二話 DV夫を殺してください。
喫茶店のドアを開けると、頭上からカランコロン、と鈴の音が降ってきた。それと同時に、
「一名様ですかー?」
若い女の店員が出迎える。
「いや、あとでもう一人来るんだ。
奥のテーブルでいいかな?」
「どうぞ!お進み下さーい」
ハキハキとした元気な声で案内されると、1番奥のテーブル席に腰掛けた。
司は、左手の腕時計に目をやった。
時計は14:58分を示し、秒針は走り続ける。
どんな奴が来るのだろうか、と考えを巡らせていると、あの鈴の音が店に響いた。
見ると、女が入ってきて店中を見回していた。
『あいつだな』
司が手を上げて合図を送ると、その女はテコテコ早足で迫ってきて、対面に座った。
その女はかなり痩せていて、木の枝のような腕をしていた。髪は痛んでいて肌も荒れている。実年齢よりかなり老けて見えるだろう。
「あの、上神さん、ですよね」
「そうだ」
司はぶっきらぼうに答えた。
日本では、「お客様あっての商売」「お客様は神様だ」という考え方が根付いているが、司に関しては、基本的に客のことを下に見ている。
「人を殺して欲しいんです」などと言ってくるやつなんて、大抵はろくでもないやつだからだ。
「で、仕事ってなんだ?
そもそも、俺の電話番号なんて誰から聞いた?」
「えーと、とある人から、お聞きしました。私を助けてくれる人がいるって。」
全く答えになっていない返答に内心イラつきながら、司は続ける。
「だから、その『とある人』ってのは?」
「それは、絶対に言わない約束で教えてもらったんです!だから言えません。本当にごめんなさい。
とにかく、お仕事をお願いしたいんです!」
このままでは埒が開かないと察した司はため息をつくと、
「わかった…聞くよ。
でもその前に注文だ。コーヒーを飲ませてくれ。」
そう言うと司は、机の上の呼び鈴を押した。
すぐに店員が駆け付けた。
「ホットコーヒー、ブラックで。
あんたは?」
「同じやつでお願いします…」
「ホットコーヒーのブラックが2点ですね」と復唱すると、店員は去っていった。
司は仕事の話に移る。
「で、仕事って?」
女は言いにくそうに答える。
「えっと、夫を、殺して欲しいんです。」
司の予想通り。この手の依頼は後を絶たないが、司はより詳細に事情を聞くことにした。
「どうして?」
「実は、DVを受けていて…
今も服で隠していますけど、体中にあざがあるんです。
私、もう耐えられなくて…」
「警察には相談したのか?」
「何回か相談しました。でも警察に行ったら殺すと脅されているんです。」
「親は?」
「親には相談できません。両親は高齢出産で私を産みました。母は認知症で、父はその介護で手一杯。これ以上の苦労をかけさせるわけにはいかないんです。」
「もう、私が死ぬか、あいつが死ぬかの二つに一つなんです!」
女は、体に見合わない声で、必死に訴えかけた。その声は確かに怯えており、怒りに満ちたものだった。
注文したコーヒーがテーブルに置かれる。
司はコーヒーを一口飲むと、言った。
「そうだなぁ、まだやりようがあるんじゃないか?
DVの被害者を守るための施設があるんだ、知ってるか?居場所を隠してくれるし、ご飯も、ベットもある。申請すればそこで匿ってもらえるかもしれない。
そうだ、知り合いに1人、刑事がいるんだ。
よければ紹介しようか?」
司の返答は女の予想に反して、冷たいものだった。
女にとっては、司が最後の希望だった。
だが、必死に手繰り寄せた糸は想像よりもずっと細く、今にも切れてしまいそうだ。
女は焦り、まくし立てた。
「そんな悠長なことは言って居られないんです!
このままだと私、本当に殺されちゃう…
昨日だって、何度も殴られて、もう限界で、あなただけが頼りなんです…」
女の目には涙が溢れ、背中を丸めてグズグズと泣き始めてしまった。
泣き声が聞こえたのか、周りの客の視線が2人が座るテーブルに向けられた。
「おい、泣かないでくれよ。
あんまり目立ちたくないんだよ。」
慰めながら、司は女のことを考える。
確かに、一眼見た時から、女は異様な雰囲気を纏っていた。
人間にはそれぞれ、生まれ持っての「オーラ」がある。オーラは生命力の表れであり、生命力が高まれば燃え盛る炎のように暖かく、大きくなるが、生命力がなくなるにつれて、灰色っぽく、萎んでいく。
この女のオーラは、消え掛かっていた。
本来、人間を覆うように存在しているはずのオーラだが、この女のそれは、毛虫の棘のように短く、頼りなかった。
「もしあなたが断るなら、私は子供と一緒に死にます。」
司は面食らった。
「子供がいるのか?」
「はい、産んだのは16の時です。
私は堕ろそうと思ったんです。育てられないし、でも相手とその親に出産を強要されたんです。『子供に罪はない』って。そもそも妊娠したのも、相手が無理やり襲ってきて、付き合っていたとはいえ、あんまりじゃないですか。」
泣き続けている女の告白に、司は揺らいだ。
小学校を卒業してすぐに、閉鎖的な空間で歪んな教育を受けさせられた司にとって、少年時代には大きな憧れがあった。
だから司は、子供には弱い
しかも聞き捨てならない、「無理やり襲われた」という言葉。
司は静かに決心した。
「わかった、この仕事受け付けよう。」
司の承諾に、女は一瞬あっけに取られた。
「ほ、本当ですか?!」
「本当だから、あんまり大きな声を出すな。
あと、これはあくまでも仮受付だ。これから俺が実際に調査をして、裏付けをとる。だから、もうしばらくの間は我慢してもらわなければならない。」
「それは、どれくらいの時間ですか?」
「はっきりはわからないが、早くて2週間、かかって1ヶ月。その段階で、生かすか殺すかは俺が決断する。」
「1ヶ月…
わかりました。あなたが助けてくれるなら、耐えてみます。」
女の声に力強さが戻った気がした。
「じゃあ俺は準備に取り掛かるから、あんたはいつも通りに生活してくれ。」
そう言うと司は、財布から3,000円を取り出すと、机に置き、女の方に滑らせた。
戸惑う女を横目に店を出ると、車に乗り込み仕事場に戻った。
〜〜
司はアパートに戻ると、いつもの椅子に腰掛け、独り言にしては大きな声で呼びかけた。
「おーい、出てこい」
司の頭上の空気が、石を落とした水面のように波紋を広げたかと思うと、それは姿を現した。
【全部聴いてたぜ。仕事だろ?】
司の顔の目の前に、そいつが逆立ちの形で宙に浮きながら、満面の笑みで喋りかけた。
こいつは、司に与えられた式神、名前は「猫童」と言う。普段は「おい」や「お前」と呼ぶことにしている。
それに関しては、本人も大して気にしていないようだ。
その容姿は、身長1m50cm程度で、おかっぱ頭の男の子。古びた着物を着ていて、一目見ると人間の男の子である。
その頭に、猫のような大きな耳がついていることを除けば。
一見可愛らしいが、その姿に見合わないほどの野太い声と、豪胆な性格をしており、司からすれば、可愛げのかけらもない。
しかし、その見た目とは裏腹に強力な妖力を宿しており、その実力はかなりのものだ。
まあ、流行りの「ギャップ萌え」とでも言っておこう。
猫童は久しぶりの仕事に歓喜した。
【久しぶりの現世だな。やっぱり、『あっち』に比べて空気がうまいな。景色もいい。】
猫童は、相変わらず出てきて早々やかましい。
ちなみに『あっち』とは隠世のことで、猫童は普段、そっちにいる。
【ようし、何すればいいんだ?
病殺か?事故か? 俺が直接やってやろうか?】
「いや、まずはあの女に取り憑いて、普段の生活状況とか、会話の内容を俺の頭に遅れ。」
【おいまじか!?また俺を盗聴器扱いするのか?!】
「まあ、そんなところだ」
【いい加減、そんなめんどくさいことやめて、サクッとやっちまおうぜ?】
「いやだめだ。実地調査は必要なことだ。
いいから俺に従え。あの女の霊気は覚えてるだろ?」
猫童は、腑に落ちない不機嫌な態度を全力で押し出して、
【はいはいわかったよ、やっぱお前は変なやつだな!】
と言い放つと、空中の波紋の中に消えていった。
司の仕事は最終段階に移行した。
この調査により司が納得すれば、依頼人の言う通りの方法で、対象を殺害するのだ。
司も仕事用のお高いカメラを持ち出して車のエンジンをかけると、けたたましく走り出した。
〜〜
【今、旦那様は仕事に出かけてるらしい。お客さんは掃除機かけてるよ】
住宅街の一角、駐車した車の中で、司は猫童からの報告に耳を傾ける。
車の中から、カメラで写真を撮る。
依頼人の生活環境を把握するのは、大切な仕事だ。
司はカメラを依頼人、長嶋裕美の自宅に向ける。
カーテンの隙間からは、確かに掃除機をかける長嶋の姿が窺える。どうやら専業主婦のようだ。
次は気になっていた、依頼人の子供について調査することにした。
「依頼人は今いくつだ」
【30ってとこだな】
16歳で出産して現在30歳ならば、子供は中学生か。
「よし、一度戻ってこい。子供の方を調べる。」
【あいよー。
まったく、式神使いの荒いご主人様だこと】
猫童は毒づきながらも大人しく従った。
依頼人の住宅を見るに、そこまで稼ぎがいいわけではないらしい。私立に通わせていないとなると、ここの住宅街ならば、通っているのは西中学校だろう。
司はギアを入れるとアクセルを踏み込んだ。
5分ほど走ると、公立西中学校前までついた。
「よし、探してきてくれ」
【あいあいさー】
やる気があるんだかないんだか、気の抜けた返事をして、猫童は学校の壁をすり抜けて行った。
「慎重にな、隠れながらだ。」
現世にいる間の猫童は、霊感のある人間からは姿が見える。
特に子供は、大人よりも霊感が強いことが多いので、騒ぎを起こされないよう釘を刺した。
オーラや霊気の形は遺伝する。
それは指紋のように万人不同で生涯不変である。
猫童ほどの探知能力を持ってすれば、親族の当たりをつけることくらい容易い。
【うむ、感じるぞ、感じるぞ】
猫童の独り言が頭の中で響く。
文句を言いながらも、相棒が楽しそうに仕事をしてくれているようで何よりだ。
【あっ見つけたぞ。2年2組だ。
胸にも長嶋って書いてあるから間違いねえ
しかも結構かわいいぞ、お前も見るか?】
女だったのか、司はてっきり男だと思い込んでいた。
「見せてくれ」
【もちろんだぜ、すけべ野郎】
そういうと、司は猫童と視界を共有した。
すると、確かに美人な女子生徒がちょこんと椅子に座って授業を受ける風景が見えた。
母親同様、かなりオーラが萎んでいる。
やはり、両親の関係というのは、子供にとって大きな影響を与えるのだ。それが中学生という多感な時期なら尚更だ。
「よし、もういいぞ。
今日は一旦戻って、旦那が帰ってくる頃合いで、もう一度依頼人に憑け。」
【おいおい、まだ聞いてないなぁ。
『娘を見つけてくれてありがとう』ってな】
司は、大きなため息をつくと、タバコを咥えた。
「はいはい、お前がいてくれて助かるよ」
【まあ、いいだろう】
そういうと、猫童は司の元へ飛んできた。
司は煙を生意気な猫耳に吹きかけながら、車を自宅まで走らせた。
【おい臭え!モラルのない喫煙者はぶっ殺すぞ!】
〜〜
その日の午後7時、猫童を依頼人宅へ派遣し、司は仕事場で今日撮った写真をまとめていた。
【おい、旦那様のおかえりだぞ】
司は手を止め、猫童に指示を出す。
「会話が聞こえるようにしておいてくれ」
【あいよ】
司は目を閉じて耳を澄ませる。
「お帰りなさい、今日は早かったのね」
依頼人の声だが、これに対する返答は聞こえない。
【あー、冷めきってらぁ】
そのあとは、足跡やドアを開ける音など、生活音が続くだけだったが、突如として、怒号が響いた。
「おいビール!早く持ってこいよ!疲れてんだよこっちはよぉ!」
「あ、ごめんなさい。すぐに」
そういうと依頼人はドタバタと足音を立てて冷蔵庫に向かい、ビールを取り出して旦那の元へ持っていく。
「チッ、で、楓は何してんだ?」
「自分の部屋で勉強をしています。」
「そうか、お前みたいなバカ女にならないように、しっかり勉強していい大学行かせろ。」
【なんか起こりそうだ、視界も送っとくぜ】
猫童がそういうと、司の目の前には、長嶋家のリビングが映し出された。
椅子に座ってビールを煽る夫。
夫に対して料理を提供する妻。
その様子を見るに、妻は夫に対して完全に服従している。
「家族団欒」などとは程遠い、冷え切った、殺伐とした、見ているだけで胸が締め付けられる空間だった。
「まずい」
夫は一言だけ言うと、食器を払い除けた。
味噌汁が入った茶碗がテーブルから落ちて、水たまりを作る。
「いつまで経っても、上手くなんねえな!
ぼーっとしてねえで早く掃除しろや!」
「わかったから!そんなに大声出さないで!」
これには妻も声を荒げた。
「あ?なに反抗してんだテメェ。
誰のおかげで飯食ってんだ?
誰の家に住んでんだ?
自分の立場分かってんのか?」
そう言いながら立ち上がった夫は、妻の髪を鷲掴みにすると壁に叩きつけた。
「いや!やめて!ごめんなさい!ごめんなさい!私が悪かったから!許して!」
司は、胃を鷲掴みにされたように、苦しかった。
【どうする?今やるか?】
「待て、子供部屋、楓ちゃんの様子を見せてくれ」
指示を受けた猫童は子供部屋に向かうと、壁をすり抜けて中の様子を映し出した。
そこには、ベットの上で耳を塞ぎ、小刻みに震える少女の姿があった。
その目には涙が溢れ、鼻水を流していた。
『中学2年生の女の子が経験していいことじゃない。』
司は感じ取ると、猫童に戻ってくるように指示を出した。
【なんであの時やらなかった?あの光景を見て、胸が痛まなかったのかい?人間のくせに】
帰ってきて早々、猫童は苛立ちをぶつけてきた。
当初は司の仕事のやり方に批判的だった猫童も、最近はすっかり順応し、人間味を帯びてきたように感じる。
「痛んださ。とてもね。
でも俺の決まりだ。1週間観察する。」
【そうかい、仰せのままに!】
そう吐き捨てると、猫童は波紋と共に消えていった。
取り残された静寂の中、司は考える。
夫婦とは何か。
司は恋愛なんてしたことがないから、人を好きになり、好かれるという気持ちが理解できない。
しかし、結婚するということは、お互いに好き合って、一生を添い遂げる覚悟をしたのではないか。
ではなぜ、こんな夫婦が生まれてしまうのか。
仕事から帰れば、羽毛布団のような柔らかさで包み込み、暖かな手料理を食べて、水風船に小さい穴を開けた時のように、少しずつストレスを排出していく。
司にとって家族とは、そう言うモノであって欲しかった。
長嶋家のあれは、水風船をそこらじゅうに叩きつけ、人も、物も、水浸しだった。
何より、罪のない一人娘である楓ちゃんまで怯えている。
確かなことは、司には、彼女らを守る力があることだ。
〜〜
翌日は、猫童に旦那の仕事風景を監視させた。
どうやら一般企業の営業職のようで、朝から社用車に乗り、あっちこっちへ車を走らせていた。
司はそれに追従して写真を撮ったり、猫童からの伝令に耳を傾けた。
昼休み、定食屋に入る夫の写真を撮ろうとしたその時、コンコンッと車の窓が叩かれた。
顔を向けると、坂崎だった。
『一度戻れ』
「あぁ、刑事さんどうされましたか?」
司は動揺を隠して話しかける。
「いやー、たまたま通りかかりましてね。そうしたら上神さんがいるから、思わず声をかけてしまいました。迷惑でしたか?」
迷惑に決まっているだろう。デリカシーってものがないのか、コイツには。
「いえ、まあ仕事中なので、手短にすませていただけると」
「あぁ、たしか、『フリーランスの何でも屋』でしたか、今日はどんな仕事を請け負ったのです?」
「実は、バードウォッチングが趣味のおじいさんがいましてね。その人が腰を悪くしたそうなので、代わりに鳥の写真を撮っているんです。
ほら、よく撮れているでしょう?」
そういうと司はカメラの写真を見せる、確かにそこには、様々な鳥の写真が写されていた。
「ほう、こんな街中でも、よく取れるもんですな。
おや、もうこんな時間だ。いきなり声をかけてすみませんでした。」
そういうと坂崎はスーツのポケットに手を突っ込んで歩いて行った。
【これは疲れるから嫌いなんだが】
猫童から苦情が入る。
今のは、心霊写真の応用で、カメラの内部に干渉して見せたいものを相手に見せるというかなりの高等技術である。
何はともあれ、あの刑事の動向には気をつけた方が良さそうだ。
気を取り直して1人と1匹は、長嶋家の監視を続けた。
〜〜
1週間が経った頃、司は急遽決断を下した。
『依頼人の旦那を呪殺する。』
それは昨夜、楓ちゃんが自殺を図ろうとしたからだ。
カーテンレールにコードを吊るして、首を括ろうとした。
猫童に命じてコードを切断した為未遂に終わったが、事は一刻を争うと、司は決心せざるを得なかった。
その日、依頼人を例の喫茶店へ呼び出した。
「この仕事、受けます。
意味はわかりますね?」
そう言うと、依頼人は涙をこぼした。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
振り絞るように声を発する依頼人に、司は現実的な話をする。
「料金は、死に方によって変わる。
より苦しみや痛みが伴う死に方なら、その分高額になる。」
「やはり、死因を操作するのは難しいんですか?」
「いや、そう言う訳じゃない。
クソ野郎とは言え1人の命を奪うんだ。
それなりの覚悟を持ってもらわないといけないからな。」
「600万で、どこまで行けますか?」
依頼人から提示された金額は、想像よりもずっと高額だった。
「痛めつけたいのかい?」
「もちろんです。1週間見ていたんですよね?
それならわかるはずです。何度も痛めつけて殺したいです。」
依頼人の真剣な眼差しに、司は折れた。
「わかりました。
では、事故死。何度も引かれてもらいましょう。
全身の骨が折れ、筋肉が裂け、内臓が潰れます。
どうですか?」
「それでお願いします。
あと、私の目の前で殺してください。」
司は、依頼人の笑顔を初めてみた。
「では、決行は明日の7:30分。
全額後払いで、メモを渡すので2日後に、その場所に現金を置いておいてください。
その後は絶対に、もう、私とは関わらない。
それが実行の約束です。
守れますね?」
「約束します。」
契約が完了すると、2人は別れた。
一服する司は猫童を呼び出す。
「聞いてたな?」
【もちろん】
【全部任せな】
〜〜
翌日、計画は滞りなく実行された。
出勤のため家を出た夫は、まず自転車に跳ねられて車道に転げ落ちた。
そこを通勤ラッシュの自動車に何度も踏み潰され、その場で死亡した。
依頼人はその様子を窓から見届けると、学校へ行こうとしていた楓ちゃんを呼び止めて抱きしめた。
「もう大丈夫だよ」
と。
2日後、約束の600万円を取りに行くと、約束通りの場所に置いてあった。
司が現金を直接受け取らない理由、それは、人が死んで喜ぶ人間の顔を見たくないからだ。
だから、依頼を終えると、2度と会うこともない。
司はタバコを咥えると火をつける。
一仕事終えた後の一服にしては、不味かった。
この物語はフィクションです