留守番してたら「もしもし、わたし、メリーさん」って聞こえてきた
ある日、僕が家にひとりでいると、突然、室内に音が響いた。
「もしもし……わたし、メリーさん」
僕はびくっと驚いてとびあがった。
雑音みたいな音がまざっていたけれど、今のはAIとかではなく人間の声だった。
でも、室内には僕の他には誰もいない。
電話の呼び出し音も鳴っていない。
気のせいだよな?
気のせいに違いない。
僕は自分の心をしずめようとした。
しばらくして、やっぱり気のせいだったんだと僕の心が納得しかけた頃、また声が響いた。
「もしもし、わたし、メリーさん。今、駅前のゴミ捨て場の前にいるの。……すぐ行くからね」
まちがいない。今度ははっきりと聞こえた。
あの声は、メリーさんと名乗っていた。
メリーさん……。まさか、メリーさんなのか……?
僕は落ち着きなく家の中を歩きまわった。
どうしたらいいかわからない。
数分後。ふたたび声が聞こえた。
「わたし、メリーさん。今、角のコンビニのところにいるの」
メリーさんは、迷うことなく着実に家に近づいてきているみたいだ。
家まであと100メートルもないだろう。
もうじき、メリーさんがやってくる……。
そして、再び室内に声が響いた。
「わたし、メリーさん。今、家の前にいるの」
知っていた。
僕は家の前から気配を感じていた。
でも、僕は室内に座ったまま、じっとしていた。
静かにドアが開く音、そして、背後にそーっと近づいてくる気配がする。
僕はあえてふりかえらずに目をつぶったままじっとしていた。
そして、背後から、メリーさんの声が聞こえた。
「今、あなたの後ろにいるの」
バッと襲いかかってくる気配を感じて、僕は華麗にとびのき、振り返ると一気にメリーさんにむかってとびついた。
「キャー!」
僕の突進をうけたメリーさんの歓声が響く。
「ヒツジちゃん! 今日も白くてふわふわもこもこ、かわいいー!」
僕はメリーさんの顔をなめまくった。
僕は、メリーさんと同居しているペットの犬。名前はヒツジ。
「ヒツジちゃん、どうだった? ペット用カメラ、今日はじめて使ってみたの。ちゃんとわたしの声聞こえた?」
聞こえた。聞こえた。声だけするんだもん、びっくりしたよ。
僕はメリーさんを存分になめまわしてから、ご飯をもらった。
End