救出作戦5
「どこだよここは?どこもかしこも根っこで歩きにくいし、虫も多いし」
多層構造の迷宮、迷宮の通路には大量の根っこが侵入している。そのせいでロランドは歩きながら文句を言っている。
「ロランドさん、なんでついてきたんですか?入るときも魔物に食べられそうになっちゃて」
「何でもない、ただここの風景を見たかっただけだ」
「食われる危険を冒してまで?」
オエリは苦笑しながら前を探っている。一般人でも危険を感じられて不吉な気配がする。
オエリはたいまつを持って前方の影に気づく。
「待ってください!ロランドさん、前に何かいるみたいだから、気をつけてね」
「オエリちゃん!あたしの命はお前に預けたぞ!死ぬとしても一緒だよ」
「そんな重いこと言わないでよ…まだ生きたいんですから…」
「え?誰かのために?」
「なんでもありません」
「すごくかわいいね、青春だね。ふふ~わかってるよ、黒髪の小娘だろ~」
「もうあなたと話したくありませんよ…」
ロランドのからかいで緊張の空気がなくなったが、状況は楽にならない。
影はだんだん迷宮の壊れた壁や隙間から出てきて、魔物たちが武器と盾を持っている。その後、魔物たちは集まって二人に向かって突進する。
「ひざまずいたら許してくれるかな?」
「ありえない!とにかく逃げようロランドさん」
二人の後ろも武装した魔物たちにふさがれて、戦うしかない。オエリは変身したが、彼だけでは封鎖を突破できない。そこでロランドは詠唱を始めてオエリに加護を与える。
武装魔物たちは盾を持って前に出る、オエリは水魔法で泡を呼び出して目の前の魔物を包んだ、すぐに手でロランドを掴んで二人で迷宮の通路から逃げ出し、根っこに沿って逃げる。
もちろん、後ろの魔物たちは二人を放すわけがなく、追いかけてくる。
根っこの上だから、オエリは火魔法で後ろに追いついてくる魔物を攻撃したが、魔物たちは火魔法を受けてもかすり傷にしかならない。
前にも魔物たちが囲んでいた、オエリは別の根っこに飛んで一時的に難を逃れる。
でも逃げるのは最善の策ではないし、ロランドは遠くの火の光と煙に気づいてオエリに声をかける。
「見て!あっちに行ってみよう!ルーナのやつが残したのかもしれない」
「分かりました!」
でも飛べる昆虫魔物が飛んでくる、奴らの体型は犬よりもずっと大きい!上を見るとオエリは昆虫魔物の巣に入ってしまったことに気づいた。
次々に飛び出してくる昆虫魔物たちに二人は包囲されていた、そのとき火の竜が飛んできてオエリとロランドを包んで二人の周りを回って竜巻を作り、昆虫魔物たちを焼き残らずにする。
「これは?」
「オエリちゃん!助かったよ!」
「うん…そんなに近づかないで」
このとき、見覚えのある姿がオエリとロランドのそばに立っている。
「おい!二人とも大丈夫か」
ジャクソンは残った昆虫魔物を斬り殺して二人を守り、もう一人の飛び乗ってきた金髪の小僧も様子を見に来る。
「いや、ビールガールならまだしも、神官様まで来るとはな…」
「ビールガールではありません!」
「まあまあ、とりあえずここから出ようぜ、ここは安全じゃないからな。ほら、見てみろ」
昆虫魔物が消滅したせいで武装魔物たちが再び前に出てきて四人を包囲しようとする。
ジャクソンは先に水魔法で前の魔物を押し流して、残った魔物たちも水に濡れる。
そのときジャクソンはフランドに目配せしてフランドは雷魔法で残った魔物たちを感電させた、武装魔物は鉄の鎧を着ていて全身も濡れているから、雷魔法の威力は大きくなっちゃて、やつらは次々に根っこから落ちて真っ暗な下に落ちていく。
「今はとにかく撤退しよう、あとであの煙のところに行く方法を考えよう」
フランドは手を振って三人に離れるように合図し、そうして無事に脱出した。
四人は根っこに沿って地面に出て、迷宮の内部に入るのはやめることにした。
「ここは迷宮の内部よりも視界がいいな、俺とジャクソンは迷宮の中で襲われて出てきたんだ、ここは広々してて視界に有利だし」
「フランド、他の人に会ったか?」
「いや、戦闘力もないお前がこんなところに来るなんて…超珍しい」
「風景を見るとかのは悪いことか?」
「そうだね、あとは熱心に迎えてくれる住民もな」
フランドとロランドは顔を見合わせて笑ってしまたが、四人の目的地は一つだけだ。
「お前らの冗談はここまでにしろ、行くぞ」
ジャクソンは剣で前に新しい道を切り開きながら周りに警戒する、三人は後ろで仮作りのたいまつを持つ。
煙にだんだん近づいてくる、真っ暗な根っこの間に火の光が見える。でも周りの魔物たちはもう近くに集まっていた。
キャンプの周りは赤い光でいっぱいで、すると魔物たちは飛びかかってくる! 数が多すぎて、フランドは三人に撤退するように示す。
「早く逃げろ、数が多すぎる」
「おい!フランド、あのキャンプはどうするんだ他の人がいるかもしれないぞ」
「ジャクソン、今の状況では無理だろ!」
ジャクソンとフランドがいてもこれだけの魔物には敵わないし、フランドは使い魔を呼び出して鎧を着せてオエリたち二人を守る。
ジャクソンは使い魔を呼び出して一筋の道を切り開く。
結局四人は根っこに囲まれた沼地に追い込まれた。ここは根っこが密集していて隠れるのに適する。
地下からネズミなどの生き物が出てきて、驚いているようだ。この子はここでは珍しい生き物だが魔物たちには敵とは見なされていないらしい。
オエリとロランドは邪魔にならないように大きな根っこの中に隠れた、隙間は人間が入るのにちょうどいいし、魔物はしばらく攻め込めないはずだ。
そのとき水中から巨大な蛇が飛び出して必死に防御するジャクソンを飲み込んでしまって、これで使い魔のデュークも消えてしまった!
これを見たフランドは無我夢中でジャクソンを助け出そうとするが、魔物の数が多すぎて上にいる強力な魔物に気づかない。
「上!上に気をつけて!」
オエリが大声で警告するがもう遅い。
大蛇みたいの魔物がフランドに魔眼を使って動けなくした。フランドは全く動けなくなって大蛇魔物に一気に飲み込まれてしまった!
周りの弱小魔物たちは残った二人に攻撃を向けてきた、やつらは必死に根っこを叩いてオエリとロランドを追い出そうとする。
オエリは土魔法で壁を作って穴をふさいで、魔物たちの攻撃は防げたが出ることもできない…
「そんな…全部食われてしまいました…」
「…」
ロランドは悲しみよりも無力感にため息をついて薬箱を置いて光魔法で中を照らす。
「ここ結構広いね、空気もしばらくは持つだろう」
「もうどうでもいいよ…」
隣のオエリは絶望して座り込んで魔物たちの叩く音を聞いているだけ、そのとき彼はロランドがうつぶせになって何かを書いているのに気づく。
「こんなときに何をしてるんだよ」
「ん?もちろん遺書だけど」
「本当に冷静過ぎるんですよ…」
「これが女神が与えてくれた運命なのかもしれないな、できることは素直に受け入れるだけ。ただ酸欠で死ぬのかあの魔物たちのお腹の中で死ぬのかの違いだけど、あいつらは消化器官はないけど生き物を魔力に分解できるんだぞ、不思議なことだろう」
「確かに不思議。でも…本当はお嬢様に言いたいことがたくさんあったのに、もう無理なんだよね。せっかくの想いもちゃんと伝えられなかった…」
ロランドはオエリを見てペンを置いて彼のそばに行って慰める。
「あたしも同じだよ、想いをちゃんと伝えられなかっただけじゃなくて、あの人のために何もできなくてずっと後悔してたよ。こんな危険なところに来たのも、もう一度会えるかもしれないと期待してたんだ。結果は…まあ、ここで死ぬことになるんだね、自分でも女神様がくれた運命は不公平だと思うよ…」
「ロランドさん…」
「まだ言ってなかったけど、実はあたしイビリヤス帝国教会の一員だった、でもその後教会に反対する革命軍になったのも彼女のせいなんだ…」




