救出作戦1
「もしもし、誰かいる?ベアベルだぞ。返事しろ」
7号ベアベルはロランドたちが持ち帰った転送門を変な機械に繋げた後、オイスム教団本部と連絡しようと試みるが。
『……』
向こうは返事がないようだが、しばらく時間をかけて調整した後、やっと雑音が聞こえるようになる。
『誰?……どう……知って……へんじ……』
「聞こえねえよ、もう一度言ってくれ」
どういうわけか、声が急にはっきりと聞こえるようになった。多分相手も何か調整したのだろう。
『お前は誰だ?どうしてこの回線を知ってる?』
「だってお前は大馬鹿だからさ、マカーリオ。僕だ、7号ベアベル」
『えええ⁉ベアベルか!お前まだ生きてたのか……あはは、お前死んだと思ってたよ……良かった、無事で……』
「フォスタンイーンで死にかけたのは誰かのおかげだよね。それにレイラ・フェリウェムは予定場所にいるのか?組織から離れて久しいんだ……」
『あいつは確かに捕まえたぞ、でもお前は今どこ?』
「早くこっちの転送門に繋いでくれ、座標とかはもう送ったはず」
『まさか……もう知ってるのか⁉あのミサイル……』
「ミサイルに当たっても怒ってないよ、本当だ」
『嘘つき!お前はいつも怒るとそう言って!』
「切るぞ」
ベアベルの隣の機械がその時に開かれ、魔力で構成された不気味な転送門が発する光が彼女が暗い場所にいることを示す。
会話を切って素直に手を上げて彼女の背後にはフランドたちがいるから。
「おい、もういいだろ?」
「余計なことを言わず助かったよ、7号さん。あなたの協力のおかげで俺の計画が進められますよ」
「お礼を言えというのか」
魔法器具製作の得意な先生たちは転送門の内部を解析したが、転送門は二つ必要で繋がらないといけないので、相手の転送門がオエリたちが没収した転送門に繋がる必要がある。
そしてみんなは邪教の拠点に突入する準備がすでにできていた。
―二時間前―
王都の港の倉庫の中で、フォスタンイーンのみんなはここを一時的な拠点としている。赦免されたとしても、カリーナが本当に許してくれるとは信じていないからだ。
この倉庫は王都の女神教会の主教がわざわざみんなのために提供してくれたといって彼は命をかけてカリーナに密告しないと誓った。
「フェリクス、ここは僕とルーナに任せてくれ」
「ディラン、何を言ってるんだ、君はまだ指名手配されてるだろう」
「ルーナと僕は両方とも指名手配犯だよ。君は僕の一番の友達だから、危険に巻き込みたくない……」
二人の顔はとても真剣で厳しい。フランドがルーナたちに頼んだ任務はグルサンの助力を求めるだけだったのに。
二人のオーラはあまりにも強烈で、誰も一言も言えない。
それを見てルーナは見ていられなくなったらしく、二人の肩を叩いてきた。
「二人とも何をやってるの……ディラン、君は残ってくれるかな。君の父親は君が必要だよ。今はとても弱ってるから、誰かが世話をしなきゃ、わかった?」
「ルーナ!僕!はあ……わかった……」
フェリクスはディランと抱き合ってからルーナと一緒に倉庫を出て、ディランは二人の姿が完全に消えるまで見ていた。
その後フェリクスの馬車はクイリザル大使館の門に着いた。でも大使館のもう一台の馬車が中から出てきてルーナたちとすれ違った。
それはグルサンの馬車には見えなかったから、フェリクスとルーナは気にしない。
「ディランとどうしたの?みんながスカエリヤ大使館に避難してから、君たちの関係がちょっと微妙だと思うんだけど」
「ああ、別に、彼ずっと優しい。ずっと彼の優しさに頼りたくないだけ」
「そうなの……」
ルーナは無事に脱出したと言っても、混乱やトラブルを起こさないとは限らないし。
仕方なくフェリクスのメガネメイドに変装して、わざわざポニーテールにした。
事前に言っておいたのに、大使館の警備に止められた。
「俺はグルサン姫の友達のフェリクスだけど、入れてもらえるかな?」
「ああ、あなたがフェリクス・ウルド・フォスコーロさんですね。問題ないですよ、どうぞお入りください」
大使館の警備は気軽に二人を入れてくれた。グルサンの命令を受けているようだった。
中に入ってからフェリクスはグルサンの部屋の前で紳士的にドアをノックしたが返事がなかった。
そして部屋の中は暗い。
「グルサン姫?おられますか?聞こえたら返事をしてください」
「ん?待て!まさか!」
ルーナはためらわずに飛び込んできた。現場はきちんとしていて侵入された形跡はなかった。
ただ窓の方に立っている人はグルサンじゃなくカリーナの専属執事――コルネル・サンタヤーナ。
「お前はグルサンに何をした!」
ルーナは使い魔を呼び出して剣に変えて、警戒しながらフェリクスを守り、後退させる。
「お前たちが来ると思っていたよ。聖女はともかく南方から送られてきたネズミも来るとは……」
コルネルはルーナの隣のワードローブに一目を向けた後、手に持った短剣でルーナに襲いかかった。二人は激しい接近戦を繰り広げる。
コルネルは短剣を使っているが全く劣らなかった。拳や蹴りは力と速さを見せつけた。例え狭い空間でも非常に敏捷で厄介だ。
フェリクスは戦闘が得意なルーナが押されているとは思わなかった。でも今は何も手伝えず相手の突然の攻撃に備えなければならないからだ。
しばらくの攻防の後、コルネルはルーナの横断を後方宙返りでかわして窓の方に素早く飛んでいった。まるで体操選手のように美しい動き。
「ここで戦い続けたらカリーナに迷惑をかけるだろう。おい!聖女!次は必ず殺すから、今回は挨拶代わりにしといてやる」
言い終わるとコルネルは窓から逃げ出し、風のように速かった。
「ルーナ、大丈夫か……ごめん、何も役に立てなくて……」
「大丈夫だけど、グルサンがいない!どこに行ったんだ?」
「くそ!連れ去られたのか?」
「ああ!あの馬車だ!」
二人は一緒に窓に駆け寄ってあの馬車はもう道路の中にいた。恐らく目的地は王宮かも!
「くそ!一歩遅かった。でも、彼が言った南方のネズミってお前のことだろうね」
「え⁉」
ワードローブの近くから女の子の声がした。仮面をつけた人が二人の横に現れて逃げようとしているようだ。
ルーナは彼女に飛びかかって捕まえようとするが、相手は必死に抵抗して敏捷な動きでかわした。
まあ、でも最終的にルーナは関節技でしっかりと彼女を制圧して地面に押さえつけて動けなくした。
「誰?ここに何をしに来たんだ?グルサンは?」
「痛い!手が!軽くしてよ!だって女の子なんだから!」
「ごめんね、私も女の子だけど、早く答えろ」
「あああ!死ぬほど痛い!どんな怪力なのよ!なんであたしはこんなに不運なの!いてぇ!何でも言うから……」
「まず、名前は何だ」
「モグラ!モグラって言います!」
ルーナは力を緩めた。そして駆けつけたフェリクスが彼女の仮面をはずした。
やっぱりロランドが言っていた故郷の「旧友」。
でも彼女の身には手紙があるようだ。




