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「あんた誰?」
真っ黒なライダースーツみたいな服に身を包み、いろんな装備やポーションを身につけ、手には魔法道具もある。
「死んだら教えてやるよ」
相手は素早く動き回りながらナイフで私の顔を切りつけてくる。
かわしたけど彼女は手に持ったナイフと体術で攻撃し続ける。
そもそも私も近接戦闘を学んだことがあるしルーナほど強くはないけど一般人には十分だろう。
あれ?待てよ!なんか私は彼女の攻撃に押されて後ずさりしてしまう。
こいつはやはり簡単じゃないな。
短時間で私を倒せないと見るや相手はすばやく身をひるがえして屋根に飛び上がった、まるで本物のスパイやスタントマンのようだ。あんな姿は本当にかっこいいな。
でも彼女は一つ間違っている、それは私が魔導士だということ。
すぐに空間魔法で彼女のそばに転移して、今ここは屋根の上だ。
その女の子は驚いて私を見ていて、彼女の様子からするとかなりびっくりしたようだ。
あれ?彼女の手には何かポーションがあるようだ。
「嘘だろ!ここの兵士が空間魔法みたいの上級魔法を使えるなんて聞いたことがねえよ!しかも校正なしで!ん?」
彼女は足元の魔力の変化に気づき敏捷な動きで私の雷魔法の縄を見事にかわした、電弧を帯びた魔法の縄が次々と彼女を包囲するがそれでも彼女は軽やかに避け続けて、まるで赤外線の罠をかわすスパイみたいだ!
ああ、こんなかっこいい潜入をしたいな、スパイになるのはずっと子供の頃からの夢だったから。
「おいおいおい!これが鉄級水準の兵士が放つ魔法かよ?ありえないだろ⁉信じられない……」
逃げながら話せるなんてすごいね、でももう終わりだよ。
空間魔法で彼女を自分のそばに移動させ、魔法の縄でぎゅっと縛った。
「くそっ!油断した……」
彼女は屋上でグルグルともがいて解放されようとしたけど、全然ダメだ、それどころか私に電撃されてしまう。
「ああ!やめて!ごめんなさい!」
彼女が素直になったから手を止めた。
その後ハルカに姿を元に戻させると、彼女は驚いて私たちを見て何も言えなかった。
「いくつか聞きたいことがあるんだけど、あんた誰?この場所の番人みたいじゃないし、もしかしてスパイとか?」
「ふん、言わないよ!ああ!」
私は魔力を送り込むと、電流が彼女の体中を走り、彼女が白状するまでビリビリと音を立て続ける。
「もういい、言うから!技術的にはスパイだけど……あの二人の伯爵に会いに来たんだ……」
「誰に頼まれたの?何の用事?」
「ええと、あの二人の伯爵にある方からの手紙を届けるだけだよ。配達人みたいなもんさ」
「ある方って誰?」
「知らん……あああ!ちょっと!実は南のイム・カンから頼まれたんだ!他のことは本当に何も知らないよ……ここに来たばかりで捕まっちゃったんだ」
やっぱりアンナの父親も捕まってしまったのか。彼女の目を見ると嘘じゃなさそうだから、彼女を見逃した。
クイリザルでイム・カンは偉大な王の意味だということは知っていたけど、まさか私の父親と連絡を取るためにイム・カンが人を送ったなんて思わなかったよ。
グルサンの父親は、先祖代々のように勇猛で武勇に優れるので、大きな体格と威厳があって、広い領土を征服した君主だ。ほとんどの人はこの男に恐れを抱いているだろね。
でも私も同じ目的があるんだ、それは私の父親を探して、ここに捕らわれている仲間たちを救出することだ。
「ああ、心配しないで。私たちはここの魔導士じゃなくて、あんたと同じでここに潜入したスパイだけだ。それにあんたの任務を邪魔するつもりもないし」
「はああ!貴様ら!なんで早く言ってくれなかったんだ!無駄に戦闘して時間を無駄遣いしたし、しかも意味不明に電撃拷問されたし……まったく……」
「あはは……本当にごめんね。最初は敵だと思ったんだ。じゃあ協力しようか、私もあの二人の伯爵を探してるし」
「ちっ……強そうだから仕方なく連れてってやるぜ、でも言っておくけど、お前たちの命は保証しないからね、あたしはただ手紙を届けるだけだから。さあ、ついてきて」
そう言って彼女は一番上の建物に飛び乗り、下から私たちに手招きして彼女について行くように合図する。
そして魔法を使わないでというジェスチャーをした。
確かにこれ以上先に行くと魔力探知区域に入るから、白いアンテナがたくさんあるし、使ったら見つかっちゃうよね。
でも私たちは魔法を使わないとどうやってついて行けるんだろう……
弓兵の視線を避けながら騎士をかわして、やっと監獄の奥まで辿り着いた。外の建物が監獄だと思っていたけど、間違えそうになったよ。
監獄の中に入ると一人の見張りがいたけど、彼女がさっきの薬水を投げつけてすぐに眠らせてしまった。
あとは身体からほこりを払ってから彼女は私たちを見る。
「ん〜、お前ら魔導士なのになかなかやるね、ここが目的地だよ。でも中は厳重警備だからあたしも入り難しい。その時は頼むよ〜」
でも私とハルカはもう疲れたし、やっぱり体力が問題だよね。魔導士だから……
彼女はすぐに錠前をこじ開けて裏口を開けてくれて、やっと監獄に入れた。
中に入ると囚人たちの苦しそうなうめき声や叫び声が聞こえてくる。
尿の匂いや言いようのない臭いが充満しているけど、私は慣れていた。おそらく下水道で行ったことがあるかも。
でも意外だったのは中の警備が少ないことだ、数人しかいなかったから、潜入は成功したよ。
彼女の案内で貴族政治犯のエリアに来た。ここはとてもきれいで清潔で、臭いもしない。
あの子は番号を見てすぐに一つの牢屋の前に立っていて、彼女はドアをノックしてみた。
「フェリウェム伯爵とイヴィリヤ伯爵ですか?」
「そうだけど、君は誰だ?俺たちを助け出してくれるのか?」
イヴィリヤ伯爵の声だ、それにお父様のいびきも聞こえる。
「とりあえずイム・カンからの手紙を受け取ってください」
彼女はまたドアの鍵をこじ開けて、私たちが入れるようにする。
でも私の目には牢屋の中はとても美しく整えられていて、さすが貴族専用牢屋だなと思う。
「さあ、手紙は届けたから、あとは二人の伯爵さんの返事を待つだけだよ」
イヴィリヤ伯爵は封筒を開いて手紙を読んだが、驚いて何も言えなかった。
「ふん、まさかイム・カンが俺たちに北方で彼の犬になるように望んでいるとはな……残念だけど断る。どうあっても北方を裏切ることはできない」
そう言ってイヴィリヤ伯爵は手紙を彼女に返した。
お父様は誰か来たことに気づいたらしく、すぐに眠りから覚めて立ち上がった。
「ん?ああ!レイラじゃないか!俺のかわいい娘よ!夢でも見てるのか?ん?二人?」
「お父様、隣は私の使い魔なんです……」
「そうか……」
お父様は私に飛びついて、私たちは抱き合った。
「ずっと心配してたよ、お前が魔女だなんて絶対嘘だ……俺の娘が魔女なんてありえないよね?」
「お父様、ごめんなさい、本当です。私は魔女の印を持つ少女なんです……」
お父様は私の肩をつかんで見つめたが、目に光がなくなってしまった。
「そうか……そうなのか……」
そう言ってまた私を強く抱きしめて、私の体温を感じさせてくれた。お父様は本当にやせた。
「いや、人の再会を邪魔するのは気が引けるけど……フェリウェム伯爵さん、あなたの返事は?」
彼女は封筒をお父様に渡す。
「つまらん……イム・カンは我が国を飲み込んだあとも、俺らみたいな地元貴族を支えて北方を統治する手助けをしてあげる。商人育ちの俺でもこんなことは断る」
「そうですか、残念ですね。じゃああたしの仕事も終わりました。あとは自分で頑張ってくださいね〜」
彼女は手紙を取り戻してすぐに廊下に消えてしまった。名前も聞けなかったけど、彼女も言わないだろうな。
その時イヴィリヤ伯爵が小声で私たちに話しかけた。
「でも今からどうやって脱出するんだ?妻もこの近くにいるはずだから、探してくれると助かるよ」
「ああ、そうだね。俺たちは昔からの友達だからね。レイラ、今回は頼むぞ」
「でも、お父様、フォスタンイーンの生徒たちがどこに捕らえられているか知ってますか?」
「うん……考えてみると、フォスタンイーンの制服を着た若者たちを見たことがある。間違いなければb区だったと思う。でもここはa区だぞ」
お父様は私の肩を叩いて、向かいの牢屋を見せてくれて、好奇心でお父様が指した牢屋に行ってみたら、中にいたのは知り合いだった!驚きすぎて声が大きくなってしまう。
「黄金弓さん!」
「あはは、静かに、また会えて嬉しいよ。無事で良かったね、フェリウェム様」
黄金弓は顔を出して私たちを見る。
魔法でそっと鉄のドアの鍵を壊して、黄金弓の手に対魔力手錠がかけられているのに気づいた。だから逃げられなかったんだ。
その時急ぎ足の音が聞こえてきて、あの女がまた戻ってきた。でも彼女の顔は恐怖と不安でいっぱいだけど。
ん?どうしたんだろう? そして監獄全体に警報が鳴り響いた。
やばい!見つかっちゃったんだ!




