クーデター編5
月明かりは明るいが、深夜の森は非常に暗い。
三人は名も知らない山で、石と木でゆかを作り、ジャクソンはたいまつを持って乾草に火をつける。
明るい黄色の炎が勢いよく燃え上がり、焦げた匂いが森全体に広がる。
三人は静かにステーファノ・アポローニ・アリートが火に飲み込まれるのを見ているだけ。
単純な悲しみでは表せない、それはやつれて疲れ果てた悲しみだ。
フランドは立ち上がり、怒って父親のアイルハルトの服を引っ張っている。
「もう満足だろう!じいさんが死んだのは全部お前のせいだ!お前の帝位とそのクソ理想のためにな!」
アイルハルトは息子の言葉にすぐにフランドの襟元を掴んだ。
「俺は国と民のためにやってるんだ、こせがれ!お前はいつ国のことを気にかけた?普段はふざけてばかりで俺を安心させないくせに、今さら何を言ってるんだ!それにお前はあのルーナ・レイバウェスとレイラ・フェリウェムが手を組んでオイスム教団と対抗し、俺たちの計画を邪魔してるからこうなったんだ!」
「記憶喪失か?さっきスカーは俺たちを殺そうとしたんだぞ!まさかお前は今でも間違ってないと思ってるのか!何が国と民のためだよ!お前は邪教と手を組んで政変を起こして祖父の位を奪おうとするんだろう、それが国と民のためだって言うのかよ!お前こそ反省しろ!」
「黙れ!お前こそこれがどれだけ大変だったか分かってないくせに!俺たち負けたんだ、分かるか?北方連合軍が負けたんだ!」
「え⁉何を言ってるんだ?」
二人は同時に相手の服を離し、アイルハルトは息をつきながら木にもたれてフランドに背を向けて遠くを見た。
「昨日知ったことだ、その時俺はまだ牢屋に入れられてなかった……くそクイリザル人は二週間前にサリック・カン国に侵攻したんだ、北方の十二万の連合軍を倒してサリックの半分の国土を飲み込んだぞ、俺たちが送った二万人のうち四千人しか帰ってこなかった……お前はクイリザルがどれだけ強いか分かってるか?相手は南部の領土で反乱を鎮圧してる最中なのにまだ十五万人の兵力を北方の連合軍に対抗するために引き抜いたんだぞ、もし精鋭の鎮圧部隊が全部北方に来たらどうなると思う?お前たちは分かってるのか?」
「「……」」
二人は静かにアイルハルトの話を聞いて、驚きと失望の表情を浮かべた。彼らは前回の北方戦争のように勝てると思っていたのだろうか。
「父は何度もクイリザル人の侵攻を防いだが、彼も年をとった。この国は新しい指導者が必要だ、でもあの老いぼれは帝位を全然俺に渡そうとしねえ」
フランドの口調は明らかに良くなって、落ち着いているようだ。
「じゃあなぜオイスム教と手を組んだんだ?直接政変を起こせばいいじゃないか」
「それからどうする?俺が上位になってもクイリザル人に負けるだけだろう。お前はクイリザルに行ったことがないから分からないだろうね、クイリザルはあまりにも強大で大きいな国なんだ。北方の四国の国力では全然抵抗できない。それに北方連合軍は一戦に勝てるかもしれないが、次は?だから俺はどんな勢力でも協力するしかなかったんだ、すべて北方の自由と未来を守るためにな。それにオイスム教団は戦闘用ロボットを作る技術と器材を分け与えてくれると言ったから協力した、でも結果は思わしくなかった……彼らはカリーナを選んで俺を見捨てた……」
「ごめん、ずっと知らなかった……」
炎は徐々に消えていった、明るい黄色の炎はもう周りを照らさず残ったのは白い月明かりだけだ。
-オランスド帝国に戻る-
洒落たスーツを着た白髪の老人がオランスド帝国の王都郊外に現れる。
彼が向かったのはオイスム教団がここに設置した本部。
オイスム教団の本部と言っても、外見はとても平凡な建物で、古い工場のようだ、しかも周りは広大な農地とぶどう園ばかり。
近くには高い塔があり、上に巨大な紋章があって、これはアゴスト家の領地だと示す。それは4年前に買収されたと言われている。
金色の麦畑が風に揺れ、ぶどう園では労働者たちが忙しく動いている。だって、もうすぐワイン造りの良い時期だ。
彼は紳士的にドアをノックしたが返事はなかった。
しかし、ドアを開けると拍手が鳴り響く。
「「「お越しいただきありがとうございます!部長!」」」
ドアを開けると皆から歓迎され、祝祭の紙吹雪も飛んでくる。
でも白髪の老人は微笑んだだけだ。
彼は両手を挙げて皆に仕事に戻るように合図する。
「皆さん、本当に感謝します、お疲れ様です。今は忙しいでしょうから、仕事に戻ってくださいね」
彼を出迎えたのは天使のような灰髪の少女ロサナだ。
「おめでとうございます、スタチュート。教団本部では二回の選挙を経て、お前が北方支部の部長に選ばれたと聞いたよ。他の人だったら耐えられないから、お前なら安心できる」
「いや、六年前に一度滞在した場所がこんなに変わっているとは思わなかったね……ああ、時が経つのも早いね。あっという間に六年か」
「部長のおっしゃる通りですね」
「からかわないでくださいよ。どうせ長く付き合ってる同僚ですから、部長と呼ばなくても、1号とかスタチュートとかでいい」
「わかりましたわかりました」
その後スタチュートとロサナは一緒に見学し、彼女はオイスム教団本部が最近拡張した場所を紹介している。彼ら二人は農業機械が積まれた倉庫の前に立つ。
近くには農作業をしている人たちもたくさんいるし、彼らはオイスム教の信者だ。
「エンジリヤのおかげで、ここの農作物は彼女が改良してくれた、刈取機も彼女が作ったよ、オイスム教団の収入もそれでずいぶん増えた。ぶどう酒は売れるし、軍需品とかより安全で隠れやすいし」
「え?君たちは本部に報告する収支データをごまかしてた?」
「ふふ、そうなんですよ、スタチュート。それに私たちは他の教団に奉仕する義務なんてないでしょう」
「そうね……でもあまりやり過ぎないよ、あの方はだませないからさ」
そして彼らは魔法の結界を開き、石畳の地面から扉が現れた、下に降りるとエンジリヤとロサナの地下研究所に着いた。
ここには機器がいっぱいで、様々な標本もあるし、あちこちに電線や書類が散らばっている。
近くには動物の死体が緑色の液体に浸かっていて、不死騎士が中を巡回す。
真ん中には円卓が置かれ、どうやらここは会議をする場所らしい、会議室の近くには色々な通路もある。
「エンジリヤは第六魔女の装置を解析するのに忙しくて、お前を迎えることができないぞ」
「そうか。でも、ここの機器は少し貧弱じゃないか?魔力結晶の強化装置さえ古過ぎた……本部からいくつかの機器を持ってくるよ」
「おお、頼りになるね!その時頼むぞ」
その時ロサナはついでに本部のことを彼と話し始める。
「ところで、本部は攻撃されたそうだけど、侵入者は撃退されたか?」
「勝ったよ、周辺の女神教国家はいつも私たちに戦争を仕掛けたがっているから、今では戦争費用だけでかなりの割合を占め、これでは教団本部の財政が苦しくなって、私たち研究者に回される予算も少ないしな、でも、これも仕方がないことだ」
「大変ね」
その後ロサナはスタチュートを地下研究所の隅に案内する。
「ところで、スタチュート、本部では魔女候補の研究をしていたそうだけど、このプロジェクトはお前が担当すると聞いたよ、六年前と比べて進捗はどう?」
「ああ、これは最高機密だが、君なら安心して話せる、だって、君は背中を見せられる数少ない人の一人だからな」
スタチュートは魔法のカバーを使って二人の会話を外へ遮断した。
「正直に言ってあまり順調ではないな、だって君も知ってるでしょう、強力な魔女を作り出せるのは第七魔女だけだ、私も彼女の生徒に過ぎないから。それに彼女の魔法研究は失われてしまって、その研究全部理解なら難しいし、今の教団本部は金剛級冒険者に近いレベルの魔女候補を作り出せるだけだ、でも生産量は非常に低い。まあ、適切な子供を見つけるのはすごく難しいんだぞ、千人の中に一人しか生き残れないかもしれない、しかも魔女候補になっても非常に不安定で、5号や6号のような魔女候補には遠く及ばない。だって彼女たちは初代魔女の恩恵を受けたんだ」
「そうですか、残念ね……でも、お前が六年前に捕まえた子供たちはどうなったか?成功した子いたか?だってその時の私はお前がこのプロジェクトを担当しているとは知らないから」
「私がここに来たのはそれが理由だよ。六年前にオランスドで捕まえた二百人以上の子供は今でも名簿に残っているが、生き残ったのは一人だけ……でも彼女は魔女の特徴を何も見せなかったので、彼女を家に帰らせた、よく考えると後悔してたよ」
「その子誰?いや、まさか⁉これは偶然すぎ……」
「ああ、その子はレイラ・フェリウェム」




