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クーデター編3

 トラヴィの町に入ると、一番目立つのは山の上にそびえる巨大で堅牢な城と城を取り囲む城壁。

 トラヴィは盆地に建てられた軍事都市で、戦争の時には南方からの侵略者を何度も阻止してきた名高い場所だ。盆地の平野には豊かな農地が広がり、近くには大きな町もある。

 町中ではトラヴィの騎士が巡回しており、山腰の城壁にも弓兵がずらりと並んでいる。ここは南方大国からの侵攻に備える最重要な戦略地で、誰もがここの防衛を軽視できない。今、トラヴィ全体には緊張感が漂っている。

 夜になると、軍人以外は街に出られないだろう。恐らく夜間外出禁止令が出ているのだ。

 ジャクソンとフランドは竜馬を引きながら、街を見回していた。


「おい、ジャクソン。おかしくないか?今は軍事警戒中だろう。俺たちは一般人じゃないけど、こんなに簡単にトラヴィに入れたんだぞ」

「気にするなよ。ここはお前の親父の縄張りだろう。早く城に行こうぜ」


 トラヴィ城の入口に着くと、フランドは通行証を出して二人の身分を示す。しかし、今回は騎士たちは二人を通すことはなく、立ちふさがった。


「申し訳ありません、アゴスト様、シスネロス様。公爵様はトラヴィの指揮官様たちと重要な作戦会議をされております。ですから、お二人をお通しすることはできません」

「え?どういうことだ?俺たちは邪魔するつもりなんかないぞ。中で親が出てくるのを待っててもダメ?」

「いえ、それも……公爵様のご命令ですから、僕たちはただ従っているだけです、どうかご理解ください」


 ジャクソンはすぐに察して、彼は小銭を取り出して、番兵の騎士に渡す。


「これで何杯か飲めるだろう。ちょっと通してくれないか?」

「申し訳ありません、シスネロス様。ここは軍規が厳しいです。僕たちは受け取ることができません、どうかお二人ともお引き取りください」


 番兵の騎士も納得させるのは難しそうだし、二人は直接入るのをあきらめた。


「どうする?フランド。時間がないぞ。お前の親父は王都へ進軍する準備をしてるだろ」

「この様子だとそうだろうな、本当に時間がないな。仕方ないか……城に忍び込ましかないね」

「そんなわけあるかよ、警備が厳しすぎるぞ……」

「へへ、いくつかのルートを知ってるぜ」


 二人は人目につかないところに移動して、城壁の裏側には花園がある。頑丈な石壁には色とりどりの槿花が咲いており、まるで花の壁のようだ。


「フランド、お前まさか壁を登ろうとしてるんじゃないだろうな?上には巡回する騎士がいるぞ」

「違う、ここはいい場所なんだ、昔はよくここで遊んでたんだ」


 横には小さな鉄の柵の門がある。行って押してみると、鍵がかかっていた。

 しかし、フランドは手慣れた様子で鍵をこじ開けて、二人は城壁の内側に入った。

 花園の外では馬の鳴き声が聞こえる。まさか馬小屋もあるのか?

 花園でも外には二人の騎士が巡回しており、遠くには視界の良い弓兵もいるし、無謀に突っ込むのは良くないね。


「フランド、準備はいいか?弓兵が外を向いたら走り出すぞ」

「もちろんだ」

「じゃあ、3,2,1,行け!」


 二人は弓兵が城壁の外側に目をやった隙に花園から飛び出し、二人の騎士を格闘技で気絶させて制圧する。

 すぐに騎士たちを馬小屋に引きずり込んで、フランドは急いで馬たちをなだめて、不安に鳴くのを防ぐ。


「よくやったぞ、これから鎧を脱がせて着替えればいい」

「ジャクソン、早くしろ!他の騎士が来るぞ!」

「俺一人で脱がせてるんだから、公爵の息子は静かにしな」


 すぐに二人はトラヴィの騎士の鎧を着込み、二人の兵士を隠した。

 そして、堂々と城内に入って、誰もが彼らに疑問を持つことはなかった。

 しかし、城の階段では多くの騎士が見張っており、上に行く騎士に暗号や名前を尋ねる。

 フランドたちが公爵を探すなら、上に行って公爵の寝室や作戦室を探さなければならない。


「ここもダメか……もう一つの道がある、ついて来い」


 しかし、路口を守る騎士が突然二人を呼び止めた!髭面の彼は年をとっているようだ、おそらくここでの長官だろう。


「おい!お前ら二人!こっちに来い!」

「「……」」


 フランドたちは驚いて動けなくなった。答えることもできない。

 声を出したらばれるかもしれないが、答えないのも怪しいだろう。

 ジャクソンは仕方なく返事をした。


「何でしょうか?長官様?」


 あの騎士は二人をじっと見つめて、ポケットからお金を取り出す。


「ふん!お前ら新兵は楽しそうだな。長官の俺はまだここで路口を見張っているんだぞ。お前たちに酒を買って、地下牢の兄弟たちに持って行ってやれ、前回奴らに酒を奢ると約束したんだな」

「ああ、わかりました……」


 ジャクソンはお金を受け取った。二人はほっとしたが、行く前にジャクソンは長官に引き止められた。


「俺の金を横領するなよ!さっさと行け!」

「はい……」


 城内の店で酒を買った後、ジャクソンはフランドについて地下牢に向かう。

 獄卒の休憩室に着くと、フランドは酒をテーブルに置いた。


「みんな、これは長官が奢ってくれた酒だ。早く飲もうぜ!」


 臨時で獄卒を務める四人の騎士は兜を脱いで酒を飲みに行って、すぐに酒がなくなった。その時、地下牢の騎士長官が二人に話しかける。


「おい!徽章を見るとお前らは新兵だな?俺たち先輩だぞ、先に酒を飲んでるから、中の囚人はお前たちに任せるぞ。新兵はしっかり働いて上からの命令に従え。わかったか?」

「「はい」」

「よしよし」


 彼は言って二人の肩を叩いてから、騎士長官も休憩室に行って酒を飲んだ。


「ジャクソン、この国はもうダメだな」

「俺もそう思う……でも上に行かなきゃならないぞ。ここは地下牢だろ」

「でも上に行く暗号や見張りの騎士を避けるルートを探さなきゃならないんだ」

「フランドか⁉」


 突然聞き覚えのある声が聞こえてきて、フランドは自分の耳を疑っている!


「ええ⁉この声!ついて来い、ジャクソン!」


 二人は囚人が入れられている地下牢に突入した。すると公爵自身が中にいた。彼は牢屋の格子窓から驚いて二人を見る。

 一瞬、三人とも自分の目を信じられない。


「え⁉おやじか……お前はなんでここにいるんだ?それにどうして捕まったんだ!」

「まあ……話すと長くなるんだ……」


 アイルハルト・アゴストはオランスド帝国の総理大臣であり公爵であり王族でもある。今、城の地下牢にいるなんて、誰もが驚くだろう。

 ましてやトラヴィは彼の封地で、ここの騎士団や一般兵士は彼の部下のはずだ。


「フランド、あのビッチを信じるなよ。俺は騙されたんだ……」

「あのビッチって誰だ?お前は政変を起こすつもりじゃなかったのか?早く何が起きたか教えてくれ」

「カリーナ・レシヤ・アゴストはオイスム教の信者!俺を利用したんだ!」


 その時、城全体に警報が鳴り響いて、同じ言葉が繰り返される。


『全員注意!馬小屋で行方不明の騎士を発見した。城内に侵入者がいる。全ての兵士は侵入者を探して殺せ!今すぐ全面的に戒厳令を実施せよ!全面的に戒厳令を実施せよ!もう一度言う!』

「くそ!やっぱりバレたか……おやじ、後で話そう。俺たちは先にお前を連れ出さなきゃ」

「すまない、フランド……本当に恥ずかしい……」


 フランドは牢屋の鍵を切り落とし、鉄鎖を外し、公爵はやっと出られた。


「早くしろ!フランド!休憩室の騎士たちが来るぞ!」

「わかってる!あっ!待て、いい考えがある」


 地下牢の安全を担当する騎士たちはすぐに地下牢に入って罪人の様子を見たが、二人は後ろからフランドとジャクソンに殴られて気絶した。

 残りの三人は剣を抜いたが、事前に仕掛けられた魔法の電撃にやられて、三人とも倒れて動かなくなった。鉄の鎧を着ていると雷魔法はてごわいぞ。

 でも五人を倒したところで何の意味もない。城には少なくとも二千人はいるだろう、町には数万人の兵力もあるし。


「やっぱりこのやつらの身に牢屋の鍵があるんだ」

「ああ、フランド、お前の考えがわかったぞ。鍵を半分くれ」


 フランドは地下牢の中の囚人たちに大声で叫んだ。


「お前らは自由が欲しいか?今なら叶えてやるぞ!」


 囚人たちは立ち上がって、格子窓越しにフランドに叫び返す。


「出たい!自由が欲しい!」

「お願いだ、俺を逃がしてくれ」

「お前はいい奴だ!女神様がお前を守ってくれるぞ!」


 すぐに囚人たちは二人に解放されて、鼠が穴から逃げ出すように地下牢から出てきた。

 その囚人たち裸で走り出す者もいれば、女性の服を着ている者もいた。

 彼らは手につけられた枷を壊して、気絶した剣を拾ったり、鎧を着込んだりして、地下牢から逃げ出す。


「フランド、お前は何をやってるんだ!ここには危険な犯罪者がたくさんいるんだぞ!」

「それはあるバカ者が邪教徒を使って政変を起こし、でも失敗して牢屋に入れられて恥をかいたせいだろう。そうだろう?」

「………」


 アイルハルトは返事をしせず顔は真っ赤で恥ずかしそうだ。ジャクソンはこの様子を見て、フランドの肩を叩いた。


「お前たち親子は喧嘩したいならしてもいいが、今はそんな時じゃないぞ!俺たちも早く逃げなきゃ!」


 地下牢から出ると、城内には苦しそうに倒れている人がたくさんいる。犯人たちが逃げるために職員や騎士を殴り倒したのだろう。彼らは苦しそうに転がっている。

 同時に城の奥から重い足音が聞こえてきた。どうやら騎士たちが援護に来ているようだ。

 しかし、廊下に倒れている一人の騎士が突然立ち上がって、フランドに剣を振り下ろす。

 ジャクソンは間に合わなかった!


「フランド、後ろに気をつけろ!」


 しかし、その瞬間、その騎士は誰かに蹴り飛ばされ、十メートルくらい飛んだ。


「フランド様、今後は後ろに気をつけてください。周りの状況にも注意してください」

「ああ!じいさん!お前もここにいるのか!」


 ステーファノ・アポローニ・アリートは公爵の側近として城に来ていた。しかも彼は剣の勇者の子孫だ。


「元々は公爵様とフランド様の様子を見に来たのですが、わしは城の外で止められ、突然警報が鳴ったので隙を見て入りました。一人の騎士長官を捕まえて事件の真相を知りましたが、お二人はすでに公爵様を救出されていたんですね」

「いや、お前もすごいな……剣の勇者の子孫らしいと言えばらしいか」

「では、公爵様、早く行きましょう、犯人たちが時間を稼いでくれています」


 その後、四人は巡回する騎士たちを避けながら、出口を探す。

 途中で犯人たちが捕まっているのを見た。彼らは地面に伏せられて、背中に槍や剣を突きつけられていて、騎士たちに反抗できない。

 公爵は年をとっているが、身体はまだしっかりしている。三人を率いて隠し扉を通って、城の門口までこっそりと来た。この城は昔彼の城だったから、彼よりもこの場所に詳しい者はいないだろう。

 やはり城は封鎖されている。城門は閉じられており、周囲には多くの騎士や弓兵が警戒していた。


「ここが鍛冶屋に一番近い出口だ、ステーファノ、お前の出番だ。奴らに余計な人を呼ばないようにしろ、警報を鳴らす時間も与えるな。俺は城門のレバーを引く」

「はい、公爵様」


 現場には十人の騎士と四人の弓兵がいる。普通の人間なら彼らを素早く倒して他の人に気づかれないなんてできないだろう。


「侵入者だ!早く……うっ!」


 一瞬で、ステーファノが彼を蹴り飛ばした。この状況で周りの騎士たちは剣を抜いて襲いかかったが、ステーファノは身軽に動いて斬撃をかわし、時々騎士たちを殴り飛ばす。

 ステーファノの周りには仲間しかいないから、四人の弓兵は矢を放つことができない。

 自分の仲間たちが次々とやられていくのを見ているだけだ。

 やっと矢を放てるようになったときには、ジャクソンに拳で気絶させられた。最後の一人の弓兵は敵が強すぎると思って逃げようとしたが、フランドに電撃で倒され、彼の全身から焦げ臭い匂いがする。

 ちょうどいいタイミングで、城門が開かれ始める。すべては順調だ。でも城門の外は橋があって、この橋を渡らないと出られない。

 アイルハルトは見張り所から出て、近づいてきた三人にそっと話しかける。


「もうすぐ弓兵たちを避けないといけないから、準備はできたか?」


 城門が開かれると、数え切れない矢がこちらに飛んでくる。城門には矢だらけだが、これはみんなの予想通りだ。外に出るには城壁の上の弓兵に直面しなければならないのだから。

 そして矢雨を防ぐ魔法盾も無理で、対魔力金属が矢の頭についているからだ。しかも数百人の訓練された弓兵にも対抗できないし。

 ジャクソンが城門に煙幕弾を投げ込んだ。一瞬で城門の下はすべて白い霧で覆われ、見えなくなった。

 でもそれでも弓兵たちの熱意は止まらず彼らはまだ矢を放っている。

 普通の人間なら煙幕弾があっても出られないだろう。


 突然白い霧の中から巨大な盾が現れ、盾には矢がびっしりと刺さっていた。それはフランドの使魔トリスタンだったか。

 弓兵たちは目標に向かって矢を放ち続けるが、四人はすでに橋から飛び降りていた。

 その後トリスタンは乱射されて消えてしまった、でも使魔はちゃんとスケアクロウの役割も果たした。

 アイルハルトは三人を連れて廃棄された通路から城を脱出した。

 中は長くて暗いトンネルで、どれくらい時間が経ったかわからないくらいだ。

 ついに四人は廃棄された鍛冶屋の中に到着した。通路の出口が鍛冶屋につながっているとは思わなかった。

 鍛冶屋の庭はとても広く、周りは雑草や廃棄された製鉄器具で溢れるし、至る所に古びた木箱もある。

 現場は火事に遭ったようだったね、多くの場所に焦げ跡がある。明るい月光のおかげでよく見えるから。

 フランドは父親に苦笑した。


「くそっ、お前がいなかったら、俺たちも出られなかっただろうな……」

「ふん、昔は俺の城だったんだぞ。自分の城のことを知らなかったらもう死んでいた。この鍛冶屋は作った装備をさっきのトンネルから城の下に運んでいたんだ。でも、この鍛冶屋が爆発事故で廃棄されてしまってね。まさか使える日が来るとは思わなかった……」

「公爵様、馬車は用意しておきましたよ。近くの宿の馬小屋にあります。こんなに近いとは思いませんでした」

「さすがは俺の専属護衛だな」


 みんながほっとしたとき、廃棄された鍛冶屋のトンネルから変わった足音が聞こえてくる。

 そのとき、ステーファノは突然表情を厳しくして、右手をずっと腰にある剣の柄に握りしめている。

 ゆっくりと拍手の音が聞こえてきて、一人の黒と白のかっこいい鎧を着た男が廃棄された鍛冶屋の中に現れて、生き延びた四人を見つめている。


「よう!よくやったな、逃げ出せるなんて。さすが剣の勇者の子孫と言うべきか?」


 アイルハルトは目の前の男に冷や汗をかく。


「スカーか、迎えに来てくれたのは王宮騎士団第一団長だとは、すごい奴に会ってしまったな……」

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