65
「レイラ、私たちはあなたを助けに来ましたわ!」
「あんたは?えっ⁉アンナ!」
「早く私の後ろに隠れてください!」
あの竜巻はアンナの魔法だったのか。でも、彼女は本気なのか?イヴィリヤ伯爵の娘なのよ!これは軍と敵対しているんだぞ!
ここに現れたのはアンナだけじゃなく、フォスタンイーンの多くの生徒や教師も駆けつけてきた。
次々と放たれる魔法で王宮騎士団を撃退している。
そのうち、馬車が高速で私たちに向かって飛んできた。竜馬から降りたのは、うちの御者だ!
「カロス!」
「お嬢様、お怪我はありませんか!助っ人を連れてきました!」
馬車のドアが一気に蹴り開けられ、中から仮面をつけた男が現れた、でも、その姿に見覚えがある。
「フェリクス兄ちゃん!」
「よう、レイラちゃん。でも今はお喋りする時間じゃないぞ。早く乗ってくれ!」
フェリクスは剣で鉄鎖を斬り落として私の手を解放して、そのうちに私は必死で対魔力手錠を外した。
リリとオエリちゃんは混乱に乗じてベアベルや傷ついて腹を押さえているお兄ちゃんを馬車に乗せた。
私とオエリちゃんが馬車に乗ろうとするとき、周囲の空間が歪んだ。やっぱり空間魔法が発動しているんだ!
「くそ!レイラちゃん!俺たち大丈夫だから、地下商店街に行って!」
すぐに私たちは馬車から遠く離れた場所に転送され、頭上にはヴィーナスがいる。
まだ気絶していなかったのか、顔中血だらけだけど。
「レイラ・フェリウェム、やっぱり貴様は危険だ。絶対に天災級の魔女に覚醒させてはならない……命がけでも殺す!」
彼女の周りには雷球が発生していて、上空の雲も大量の電弧を放つ。
でも私も全力で魔女の力を使って、全身に強烈な吐き気がするけど……
時空停止、周囲は静寂に包まれ、空中には様々な魔法や使い魔が溢れていて、みんな必死で戦っている。でも私にはそれを見る暇はない。
再び彼女に暗魔法の魔力水柱を放って時空停止を解除した。だが彼女は一瞬で防御していた、やっぱり賢いんだ。攻撃する前に予め魔法の盾を作っておいた。
でも彼女が分かっていないのは、私の魔力は誰よりもはるかに強いということ、彼女の魔法の盾だけでは全く防げない。
やがて彼女の作った魔法の盾は砕け散り、魔力の衝撃波で彼女は再び吹き飛ばされた。
でも私ももう限界、手が震えて止まらない……
しかも鼻からはまた血が滲み出てくる。今の舌にも鉄錆の味がする。
周囲の騎士たちが私を斬り殺そうと迫ってくる。その瞬間アンナや他の生徒たちが必死で阻止してくれる。
「レイラ!エザルドさん、あなたたち早く逃げて!」
「イヴィリヤさん……みんな助けてくれて本当にありがとう!」
オエリちゃんは倒れた私をジャスパーに抱えて、私たちは飛び立った。魔力が消耗過ぎたせいで立たず強風が私の顔や髪をなびかせる。
「お嬢様、フェリクス様の馬車に直接行きますか?」
「だめ……余りも危険すぎる……」
さっき巨竜の背中に横たわっていたのに、気がついたら落ちている。何が起こったのか、ああ、撃墜されていたんだ……
ジャスパーは私たちを守るために強制着陸して重傷を負い、その後徐々に消えてオエリちゃんの体に戻る。
まもなく遠くから馬のひずめの音が聞こえてくる。やっぱり騎士たちが追ってきた……
「オエリちゃん……もういい」
「大丈夫、お嬢様。僕たちは逃げ出せますから!」
彼は相変わらずだな、頑固なところはリリとそっくり。
オエリちゃんは私を背負って風魔法で飛んで逃げる、これは魔力を大量に消耗するし、いずれは馬に追いつかれるだろう。
やがて私たちの後ろには王宮騎士団の追っ手が現れ、彼らは馬に乗りながら火球を放ってきた。
オエリちゃんは私が思っていたよりもずっと身軽で、ウサギのように巧みに攻撃をかわす。
でも熱い火球が民家に当たって火事を起こし、人々は恐怖に顔を建物から逃げ出し、叫び声を上げる。
前方には地下商店街の入口が見える!しかし私たちの後ろに電弧が飛んでいって密集した電網を作り出し、後ろの追っ手をすべて包み込んで電撃を受けた騎士たちは次々と馬から落ちて倒れる!
「ああ、フェリウェムさん。今後は通行安全に気をつけて、後ろも見ておくようにね」
「えっ⁉校長先生!」
商店街の入口に魔導士の服を着た校長先生が立っていて、両手を背中に置く。
「うん……念のため言っておくけど、私はもうフォスタンイーンの校長じゃないよ、でも生徒を守るということは忘れてないから、早く行きなさい」
思いがけないことにクリリスもいた、彼女は手を振って私たちを地下商店街の通路に案内する。
「エザルドさん!こっちだよ!」
しかし王宮騎士団の増援もやってきて、校長先生は私のために必死で彼らと戦う。
すぐに火花が散り、飛んでくる石や破片が私の横をかすめる。
「ついてきて」
クリリスの案内でやっと繁華な地下街に入った、ここは曲がりくねった細い路地が多くて、迷子になりそうだ。
何かの理由で、賑やかな通りには人影がない。
「私の道順で行けばすぐにセイヤナ酒場に着くよ」
オエリちゃんは私を背負って彼女の後についている。
道がめちゃ複雑で、体力を温存しなければならないから、私たちはゆっくりと歩く。
「なぜ……みんなが命がけで私を助けてくれるの?」
「ああ、カリーナ・レシヤ・アゴストの公開演説を聞いてないんだね。私たちフォスタンイーンは今、魔女をかくまった罪で訴えられてるんだぞ、フォスタンイーンのほとんどの学校の上層部や他の貴族たちは粛清されちゃった……」
「私のせいだ……」
「そんなことないよ!あなたがいなかったら、みんな本当の魔女に殺されてたよ。みんなを助けてくれたんだ!多くの人があなたを守ることを決めたのは、フォスタンイーンの名誉を守るだけじゃなくて、みんなの怒りをぶつけるためでもあり、正義の最後の線を守るためでもあるんだ……まあ、これは私が言ったことじゃないけどね。えっ⁉泣いてるの?大丈夫?」
「大丈夫……」
その後クリリスは私たちをセイヤナ酒場に向かわせて一人で引き返して、彼女はみんなの撤退を手伝うと言った。
別れる前に私たちは彼女に頭を下げて感謝する。
「お嬢様、行きましょう」
「うん、もう私を下ろしてくれていいのに……私、重いでしょう……」
「そんなことありませんよ!お嬢様は軽いです!」
でも私は無理やり降りた、これ以上彼に迷惑をかけられない。
周りに人がいなくて、騎士団も追いついてこなかったから、私たちはゆっくりとあの酒場まで歩ける。
そのとき前方の角から冷や汗をかくほど危険な殺気が感じられ、その人が建物の影からゆっくりと出てきた。
王宮騎士団の紋章がついた青い鎧を着て、青いトライデントを持っていて、黒い巻き毛に冷酷な目つき……
あれは王宮騎士団の第三団長グラン・ナハティガルじゃないか⁉彼はギルドの冒険者じゃないから、あまり詳しくなかった。
「ああ、やっぱりここに逃げ込んだか。ここは見つけにくいからな。ふん、やっぱり魔女の仲間はみんな死ぬべきだ」
そう言って彼のそばには狂暴な水流が現れて、周りを切り裂く。
道路のレンガが飛び散り、細かい破片が私たちの体に当たて、周囲の建物も切り裂かれて中の物が水竜巻に吹き飛ばされる。
ナハティガルはトライデントで水竜巻を私たちに投げつけた。水竜巻は道や建物を切り開きながら石の津波のように迫ってきた。
必死で攻撃を避けたけど、衝撃波で私たちは吹き飛ばされ、私は小屋の中に叩きつけられた。
中には男女二人がいて、夫婦なのかもしれないな、邪魔したのか……
彼らは驚いて私を見て、身体を震わせていて、今の私は立ち上がることもできず頭がぐるぐるして、血が頭から滴り落ちてるのに気づいた。
男性が震える声で私に聞く。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ……」
魔力を使いすぎて、もう持ちそうにない。
魔女の力ってこんなに消耗するものだと思わなかった……
今ハルカを呼び出すこともできないし、ここで死んだらもう終わりだろうね。
「「うえ!」」
二人は恐怖に顔をして上を指さしていて、空には巨大な沸騰した緑色の水玉が現れる。
やばい!これが落ちてきたら、二人は終わりだ、でも私の足は力が入らない。
早く動け!
そのとき巨大な沸騰水玉はもう高速で落ちてきて、影が視界を覆う。
でも暗闇の中で光が一つ現れて水球を全部弾き飛ばし、水流が周りに衝撃して小屋やすべてを溶かした。
あれは高温酸性の水球だったんだ、でも驚くべきことに私たち三人は骨にもならなかった。
夫婦は互いに自分の体を触って怪我がないか確かめる。彼らが無事だのを見て私も安心した。
「レイラ、お前たち大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「良かった」
やっぱりルーナだ、彼女しかこんなに完璧に防げないもの。でもナハティガルは空からゆっくりと降りてきて、トライデントで私たちを指した。
「くそ!邪魔な奴らが多すぎるな、全部溶かしてしまえばいいのにさ」
「お前本当に王宮騎士団の団長か?恥ずかしいとはおもわないか!こうやって平民を扱うなんて!」
「黙れ!てめえ何者だ?俺様に向かってそんな口を利くとは!魔女を庇ったらその場で処刑されるんだぞ!」
「じゃあやってみろよ!それに彼女は魔女じゃない!彼女は……私の一番大切な部下だぞ。そうだろ、レイラ」
「ルーナ……」
本当は感動してたのに、そう言うと何だか気が抜ける……でも、こんな部長がいて嬉しい。
「雑種め、てめぇをすぐに消してやる!反抗すると生きて帰れるとは思わないぞ!」
「かかってこい!」
ナハティガルは走り出してルーナと剣とトライデントの戦いを始める。
空気と水流がぶつかって私たち三人を弾き飛ばした。幸い二人は怪我がなくて逃げ出した。
今の私は邪魔にしかならない、戦ってるルーナに一目見てから、必ず戻ってきて全部取り返すと決心した。
でも逃げ出すときに地面に倒れて重傷を負ってるオエリちゃんを見つけた……




