7神様を深く愛しながらも神様を疑う
家に帰ったら、もうへとへとだった。今日は入学式の初日で、本当に疲れた。
疲れ果ててソファーに横になったまま、制服も着替える気にならなかった。面倒くさいことこの上ない。
今日のことをずっと引きずっていると、顔に冷たい感触がした。
「寒い!フェリクス兄ちゃん……ごめん、今日は踊る気分がないの」
「わかったわかった、聞いたよ、君の使い魔」
フェリクスから渡された冷たい飲み物を受け取って、座り直して一口飲んだ。
おいしい、これはフンフン果を淹れた飲み物なのか。こんなに甘くて香りのいいものだから。
このものは私の元の世界では絶対に見られないものだ。市場価格もとても高くて、貴族の飲み物だ。
「そんなに落ち込まないでよ。スライムを見てみたいんだよ」
「ええ……カッコ悪いぞ」
「頼むよ、レイラちゃん」
「わかった」
すぐにスライムを呼び出した。相変わらず、白い体色、可愛い口、元気いっぱいの大きな目をしている。
「わあ!めちゃ可愛いじゃん!レイラちゃんも可愛いから、君とすごく似合うと思うよ」
「ありがとう、フェリクス兄ちゃん。こりゃ私らしくないよね……」
「レイラちゃん、このスライムにはまだまだ可能性あるかもしれないから、諦めないで。うん、そうだ、スライムに名前はつけたかな?」
「ええと、まだつけてない……」
「じゃあ、今一緒に名前を考えようよ」
フェリクスはスライムをなでなでして、とても楽しそうだ。
使い魔にとって名前はとても大切なもので、より強い絆を築くことができる。
でも、このスライムを見て、全く名前を考える気にならない。どうせ弱いだし。
飲み物をテーブルに置いて、スライムが気づいたのか、フェリクスの手から逃げて、テーブルに跳び乗って、飲み物をゴクゴク飲み始める。
「「え⁉」」
私とフェリクスは目を疑っている。
スライムが、私の飲み物を飲んでいる!
「うそだろう……」
自分の目がおかしくなったのかと疑ったが、白いスライムは本当に冷たい飲み物を飲んでいた!
使い魔たちは主人から提供される魔力に依存して食事を必要としないはず。
しかし、目の前で起こっていることは、教科書の内容が正しいのかどうか疑わせるものだ。
フェリクスは顎に手を当てて考え込んでいた。
「レイラちゃん、これって、新しい能力覚醒したかも」
「その可能性あるね」
白いスライムはぐいぐいと冷たい飲み物を飲んでいた。私とフェリクスは優しく見守っていた。
もしかして、この子は生きているのだろうか?魔力の減少を感じなかった。もしかして……
「ありがとう、フェリクス兄ちゃん。私先に行くね」
「うん、またね」
フェリクスは笑顔で手を振ってくれた。
何かわかったような気がした。
使い魔を抱えて階上に行き、自分の部屋に戻る。器具や本を探し始めている。
まずりんごを与えてみよう、スライムはやっぱり食べた。それに丸ごと飲み込んだ。
魔力測定器をスライムに当ててみたら、波動があった。やっぱりそうだ。
このスライムは本物の生き物……でもそれはあり得ないことじゃない?
スライムの使い魔は私の魔力に頼らずに生きている。本物のスライムみたいに。
「解剖する必要あるかもな」
この子の内部構造を見てみようと思っている、そう思って近寄ろうとしたら、スライムが怯えて逃げ出した。
「あんた、私の言語を理解できるとは……」
スライムが頷いた……
え?え⁉
「あれ、本当に私の言葉が分かるの?」
スライムがうなずき、体をくねらせて興奮しているようだ。
私は諦めたような表情をして肩をすくめ、魔力を直接スライムの体に注入してみることにした。
しかし、何も起こらなかったので、 階下に行ってスライムにたくさんの食べ物を与えることにした。食べ物を通じて魔力を増やすことができるかどうか試してみよう。
スライムは大口で食べ始め、きっとお腹が空いていたんだろう。そして奇跡が起こった。
スライムが食べ終わると、目が白くなり、次第に目眩めいている。
その後、白いスライムは光り始め、徐々に人間の姿に変わってきた。
これが私じゃん!しかも全裸!
しかし、本当に不思議なんだ。変身する使い魔はいるけど、私は初めて見たよ。
「ちょっと待って、こんな姿、誰かに見られたら……」
えっ⁉
「ごめんなさい、お嬢様。ちゃんとノックすべきでした。でも、お嬢様が二人いるのはなぜだろう……」
オエリちゃんは偽者を見ることができず、目を手で隠して、ゆかに座っている本物の私と話をする。
彼女は服を着せてもらわず、全裸のままオエリちゃんの前に現れた。
「オエリちゃんね。あ、そうだ、すぐにドアを閉めなければ、お兄ちゃんやフェリクス兄ちゃんに見つかったら困りるよ」
「お嬢様!僕も男ですよ!!そんな裸で……まあ、いいんです」
オエリちゃんは赤面してドアを閉めた。
「え⁉ちょっと!何をする?」
偽者は何をしようとするのだろうか?その子はドアを開け、部屋から飛び出し、オエリちゃんを抱きしめている。
「えっ⁉ちょっと、お嬢様、何してるんですか」
「へへ〜オエリ一番好き!」
「あれ?お嬢様、あなた、お嬢様じゃないですよね……」
「私は私だよ」
偽者はそう言って、オエリちゃんの首や顔を舐め始めた。これは本物の私でもしたことがない。
「何をしているんだよ、こんな恥ずかしいことを!」
私は偽者を掴み、二人を引き離した。
こんなことは許されないぞ。しかし、オエリちゃんはもう気を失っていた。
「主人の命令に従わず、勝手に行動するなんて……ちょっと、あんた、待ちなさい!」
偽者は私の制御から逃れ、全裸のまま外に飛び出した。もし誰かに見られたら、フェリウェム伯爵家の名声がおしまいだ!私も一生恥ずかしい思いをすることになる!
「ああ、もう……なぜ今日はこんなに不運なのか、オエリちゃん!手伝って、一緒にあの子を捕まえるぞ!オエリちゃん?」
「うん、うん……お嬢様」
オエリちゃんは顔を真っ赤にし、私だったら同じだろう。このような行動は本当に恥ずかしいし。
違う違う、今そんなことを考えている場合じゃない。伯爵令嬢の名声が終わっちゃう!
私は急いで追いかけたが、もう手遅れだ。追いついた時には、偽者はお兄ちゃんに絡みついていた。
「お兄ちゃん、一番好き!チュッチュ」
「えっ⁉レイラ?君、レイラじゃないだろう?」
えっ!お兄ちゃんは偽物だと気づいたのか。そのとき、お兄ちゃんはすぐそばにいる本物の私に目を向ける。
「やっぱり君はレイラじゃないな。普通のレイラならは全裸で走り出したり、お兄ちゃんに抱きついたりしないよ」
それは当たり前じゃないの!お兄ちゃん、普通の私がこんなに恥ずかしいことをするわけがないでしょう?
しかし、偽者は泣き始めた。
「でも、私はレイラなんだよ……うわぁ」
偽者は泣き崩れている。そもそも、使い魔って何なんだろう?感情なんて存在するのかな……
使い魔は主人の従属物にすぎないはずだ。感情なんてものは存在しないはずだが、お兄ちゃんは泣く人を見るとつい優しくなってしまう。
「レイラ、怖がらないで、お兄ちゃんここにいるよ。安心して、お兄ちゃんはどこにも行かないよ。もう一人にしないよ。6年前みたいにもう一度手を離さないから」
お兄ちゃんは偽者を抱きしめ、慰め始めた。左手で偽者の頭を撫でながら、右手で背中を軽く叩いている。
うん、やっぱり優しいお兄ちゃんが一番好きだね。
「はあ、はあ……お嬢様、どう?もう一人のお嬢様は?」
「シッ!」
私はオエリちゃんに静かにしているよう合図し、この件はお兄ちゃんに任せることにした。
お兄ちゃんはすぐに偽者に自分のコートを着せ、髪を撫でながらこの子の手を握り、私たちの方へ歩いてきた。
「もう大丈夫よ、レイラ。何が起こったのかは分からないけど、小さい頃の君を思い出した。泣き虫で、泣き出すとこのようになって、なんか懐かしいよ」
お兄ちゃんは私に微笑んで、偽者の手をずっと握りしめている。本物の私はまるで他人みたいに、それを見ているだけ。
「……」
お兄ちゃんの言葉は、本当のレイラ・フェリウェムに向けられたようだ。
私は答えることができず、黙っているだけだ。
岩崎ハルカ、日本から来た転生者で、偶然にもこの身体に転生したのだ。
考えたことがある。私は彼女のすべてを奪ってしまったのだ。本当の彼女ではないのだ。
もしかしたら、私こそが偽者なのかもしれない。
神の意志に疑問を抱くと同時に、この神様を憎み、愛してしまうのだ。




