46見舞い
フランドとシスネロスが今日退院したと聞いた。その後、フランドはもう自宅に移されていた。
ルーナと一緒にフランドを見舞う担当になり、お兄ちゃんとフェリクスはシスネロスの家を訪ねることになった。
「お越しいただきありがとうございます、フェリウェム様。こちらへどうぞ」
アゴスト公爵家の使用人にフランドの部屋まで案内される。
ええ、これがフランドの部屋かな?普段の彼はどんな感じなのかな、ちょっと気になる。
頭の中で私服姿の彼を想像してつい口元が上がってしまった。
ダメだ、これじゃあ立派な淑女じゃないわ、もっと控えめにしなきゃ。
でも思ってもみなかったのは、私が彼を見舞う最初の人だということ。
これはなんだろう、ちょっと複雑な気持ちになった。
「あの、すみません、フェリウェム様。おぼっちゃまはちょっと動きにくいかもしれませんので、ご了承ください」
「え?そうなの?大丈夫よ、気にしないで」
「それは良かったです。ではどうぞお入りください」
ドアをノックしたけど返事がなかった、もしかして寝てるのかな?
「失礼します」
ん?ベッドに横たわっているのはミイラ?Aさんは大したことないって言ってたけど、これじゃあちょっと動きにくいどころじゃないよね……
「よう、来たか。早いな」
「ああ、ミイラ、あ!違う、フランド。大丈夫?」
「失礼な娘だな。でも見ての通り、俺は今動けない状態だよ」
せっかく持ってきた果物も彼は食べられないだろうな。
「ん?ブドウ持ってきたのか。ちょっと食べたい気もするけど……」
「食べられないんだろう?仕方ないね。私が全部食べちゃおうかな」
「お前悪魔か?」
「はは、冗談よ、冗談。私だって淑女だもの。はい、あーん」
全身ミイラ状態でも口だけは空けてあるようだ。だから私はブドウをそのまま彼の口に押し込んだ。一粒食べさせるのは面倒くさいからね。
「おい!無理やり口に詰め込むなよ!うむ、くっ!」
「美味しい?」
「甘いね、特にお前が直接くれたブドウ」
「やだ!何言ってるのよ!いじめ悪いな!」
「いて、超痛い!足を叩くな!」
そう言えば今の私と彼は男女二人きりの部屋だぞ!ええと、でもミイラを見てから全然そんなこと考えられない……
落ち着いて周りを見回すと意外と整然としている。きっと使用人が片付けてくれたのだろう。
本棚にはたくさんの本があるので見てみると、この男は私と趣味が似ている本を読んでいるようだ。ちょっと不思議な気持ちになる。
「病人を放っておいて人の本棚を勝手に物色するなんて、立派な淑女じゃないね」
「ああ!ごめんなさい、フランド。あんたのことを忘れてしまってた」
「おい!おい!お前は俺を見舞いに来たんだろなぁ……」
彼の顔はミイラに包まれて見えないけど、目だけで無理やりさせられていることが分かる。
最初は緊張したけど、だってお兄ちゃんとフェリクス以外の男子の部屋に入るのは初めてだから。うん、やっぱり考えすぎだった。
「どうして怪我をしたの?何かあった?」
「まあね、長い話だよ」
彼の瞳は私を見ずに窓の方に向けられて、彼には少し悲しみがあるのが分かる。
「ジャクソンと一緒に強敵に遭遇して、一瞬でやられちゃったんだ。笑えるよね……」
「そう言えば、私とルーナもそうだったわ。あの7号に簡単にやられて死にかけたし、確かに恥ずかしいことだね。でもね」 「ん?」
「そんな強敵、そんな挫折を経験したからこそ、生きていることの尊さ、身近な人を大切にすることが分かったのよ。私は一人じゃないって、一人で戦っているわけじゃないって」
「お前さ……意外と真面目なんだね…」
「はは、失礼ね。未来の公爵様」
「足を叩くなよ!やめろ!病人をいじめるつもりか!」
私は立派な淑女だから、彼とこんなくだらないことで争ったりしない。
「その強敵はどんな感じだったの?もしかしたら今後も会うかもしれないし」
「どう言えばいいかな、すごく懐かしい感じだったよ」
「懐かしい?」
「礼服を着て、仮面をつけて。身体能力がすごく高くて、どこかで見たことがあるような気がしたし、剣の勇者が昔創り出した技も使っていたんだ」
「え⁉本当に……あれ?ちょっと待って!剣の勇者の技は子孫だけが使えるかな?」
「残念だけど、そうじゃないんだ。剣の勇者には弟子もいたんだ。それだけじゃ確認できない」
「そうなのね」
「それにあの仮面男はこんなに強いのに、俺とジャクソンを殺さなかったんだ。それがちょっと不思議」
「ラッキーだったね」
「そうだね」
その後、ドアをノックする音が聞こえた。誰か来たみたいだね。ドアを開けてみるとルーナだった。
「あ!ミイラ!違う、フランドどうしたの?お前は結構強いじゃない」
「何でお前ら二人とも、まあいいや」
ルーナはドアを閉めて、私と一緒に座るつもりもなく窓辺に立っていた。その後フランドが彼女に向かって尋ねる。
「聞いてたんだろ?ルーナ」
「ごめんね、わざと聞こうとしたわけじゃないの。仮面をつけた強敵の話だけ聞いたのよ。あ、もちろんお前たちがいちゃいちゃについて何も知らないよ」
「いちゃいちゃじゃねえよ!」
「いちゃいちゃじゃないわよ!」
私とフランドは彼女に大声で抗議した。ただ普通に見舞ってただけなのに!そうよ、普通に見舞ってただけよ!
「とりあえずお前たちのいちゃつきは置いといて、あの仮面をつけた強敵。フランド、お前はどう思う?」
「なんとなく答えは分かるんだけど、ちょっと信じがたい感じがするんだよね」
「確かめることはできるの?お前の考え」
「必要ないよ、あの仮面男の身体能力や剣術はすごく似てる人がいるんだ。俺のよく知ってる人」
「誰?」
「ステーファノ・アポローニ・アリート」
「「⁉」」
ルーナも私も驚いて言葉にならなかった。この名前、調べたことあるんだ。だって剣の勇者の子孫ってだけで、興味津々だもの。
ステーファノ・アポローニ・アリートはスクリンの町で私たちを助けてくれたおじいさんで、公爵のお側付きでもある。
「フランド、本当に?あの私たちを助けてくれたおじいさん……」
「俺は彼の弟子の一人だから、彼の剣術や身体能力には詳しいんだ。間違いないと思うよ。まあ、認めたくないけど」
私たちは長い間沈黙したままだ。誰も先に話し始める気にならない。
どれくらい経ったか分からないけど、私たちは三人ともドアをノックする音を聞いた。もしかしてお兄ちゃんやフェリクスかな?あの二人は最初シスネロスを見舞ってからこっちに来るかもしれないね。
また立ち上がってドアを開けて、 結果ドアをノックしたのはステーファノ・アポローニ・アリートだった。
彼は私に礼儀正しく一礼したが、中の様子を一瞥した後、確認するような目で見てきた。




