番外編 王都の下水道内1
-王都の下水道-
滑りやすい石畳の道と壁には苔やいろんなキノコが生えていて、靴の裏にはねっとりとした変な液体が付いている。
下水道の中は汚くて暗くて、時々ネズミやゴキブリなどが足元をすり抜けていく。公爵の息子であるフランドはそのたびにびっくりして、汗を拭かなければならない。
そばにいるジャクソンは毎回嫌な表情をする。
「公爵の坊や、もう無理なら、女の子みたいに帰ってもいいんだよ。それとも役立たずのお前を背負ってこの依頼を続けるか」 「はあ!お前にとやかく言われる筋合いねえだろ!」
「まあ、毎回くじ引きでお前と当たるなんて、小学校の頃からそうだったよな?本当に運が悪い……」
「お前と任務をこなしたくねえんだぜ!ところで、ジャクソン、これで何箇所目だ?」
「九つ目」
汚れた水が足元を流れている。フランドは精巧で優雅なズボンにこの汚物が付かないように、自分の周りの状況に気をつけている。 ジャクソンは彼の前を歩き、ランプを持って怪しい手がかりを探す。
「ったく!全然真面目にやってねえじゃないか。お前は贵族のお嬢様でもあるまいし、俺たちは国家レベルの依頼を受けてるんだぞ。もう少し真剣にやれ」
「チッ!うるせぇな!!」
二人はまだ下水道の中で喧嘩して、もう日常茶飯事だから。
しかし下水道の悪臭はフランドを苦しめていて、彼はずっと口を押さえる。
突然十字路口にぬめっとした影が現れて、とても怪しげだ。
ジャクソンはそれに気づいてランプで照らしたけど、その影は消えてしまった。
この臭いはどんどんひどくなっていくようだ。人に息苦しくなってきた。貴族のフランドがいつの日か下水道で手がかりを探すことになるなんて、誰が想像できただろうね。
ジャクソンの後ろにはさっき一瞬見えた影が現れて、それはプアンという、沼地で自然発生する不思議な魔物だ。
ぬるぬるとした体は、灰色の汚水のような色をしていて、濁っていて透明ではない。
これらの魔物はもともと沼地に住んでいたが、人間の拡大によってすぐに都市の下水道にまで広がっていた。
というのも、この異世界では下水道のゴキブリのような存在だと言われている。体から悪臭を放ち、下水道の汚水を吸って生きている。でも最悪なことに、本当に汚くて臭いぞ。
こいつらが増えすぎると、下水道を詰まらせて不必要なトラブルを引き起こす。しかも、ギルドからこれらの奴らを始末する依頼を受けても、報酬は少ない。
だから冒険者たちはこのスライムを狩るのを嫌がる。
だって、この仕事は最悪だからね。最重要なのは、これらの奴らの魔物結晶が誰も欲しがらないということだ……
「なんだそれ?気持ち悪いな……」
「ジャクソン!それはプアンだ!致命的な悪臭毒ガスを放つスライムだよ!」
「待て!俺も思い出したぞ!くそ……運が悪すぎる。お前とプアン」
「おい!てめぇ、俺とあいつを同列に扱ってるんじゃないか?」
まだ口論しているうちに、魔物は先に手を出そうとした。プアンは二人に向かって悪臭の酸性の泥を発射する。
避ける途中で、二人とも少しはねた泥を浴びてしまって、肌が焼けるような感覚がする。
「くそ!このままじゃ、服が汚れてしまうぞ!」
「お坊ちゃま、こんな時にそんなことを考えてるかよ?」
フランドは水魔法で高圧水流を放って目の前の魔物を洗い流した。
プアンは完全に粉砕され、体の中から魔物結晶が現れる。
高圧水流の前では次々と砕け散っていく。
その後、魔物は灰となって消え去った。
「すまん、俺、もう……おえっ……」
フランドはやはり我慢できず吐いた。ジャクソンは少し困ったようだ。
「情けないな、早く行こうぜ、ん?」
その時、周囲の下水道の各出口から大小さまざまなプアンが次々と現れて、水中にも出てきた!
「この数まずいな……どんどん臭くなってくるぞ。息も苦しくなってきた……」
「くそっ!フランド、あのガスを吸うなよ、毒になるぞ!早く逃げろ!」
二人は出口に向かって走ったが、退路はすでに塞がれていた。
このような場所で水魔法以外の魔法を使うのは自殺行為だ。
フランドとジャクソンは高圧水流で襲ってくるプアンを洗い流しながら、何とか突破口を作ろうとする。
やがて二人は下水道の集合点に到着した。周囲のパイプから汚水が流れ込み、巨大な深い池を形成していた。
しかし、魔物たちの数は減らないどころか、どんどん増えていくようだった。巨大な空間を考慮して、フランドはもっと魔力を使って水竜を作り出すことにした。
彼は水竜を呼び出して、プアンたちを一掃して、まるでトイレを流すように、周りの汚物を洗い流し、露わになった魔物結晶もすぐに水竜の内部の高温高圧の水流で破壊されて、その後、魔物たちは消えてなくなった。
しかし、これはほんの一時的な時間稼ぎに過ぎなかった。漆黒の水面にはたくさんの泡が浮かび上がり、もっと多くのプアンが汚い水から這い出してくる。
影の下から出てきたのは、なんと巨大なゴキブリ魔物だ!爪を振り回し、触角を四方にねじ曲げている。
「「早く逃げろ!」」
幸いにも上方には外界があった。はしごを使って二人は無事に地面に到達し、新鮮な空気を吸っている。
フランドは両腕を伸ばし、顔色も良くなった。彼らはやっとあの汚い下水道から脱出した。あのスライムはゴキブリみたいに多かいな。
スライムみたいな魔物なら自己複製できる。魔物の本質はやはり魔力の集合体に過ぎない。
水で全身を洗ったが、やはり匂いや汚れを完全に除去することはできない。
今、二人は港の近くをうろついていた。これは赤ペンで囲まれた場所の一つだ。
「もう近くだ、フランド。周りをよく見てみろよ」
「くそ!さっきからハエに引き寄せられてるよ。あの臭いプアンよりましだけど。ああー!この景色は本当に美しいね、そう思わない?ハエと景色、最高の組み合わせだね」
フランドはまた文句を言い始めるけど、今回はすぐに港の景色に心奪われた。
頭を上げて空を見ると、海鳥があちこち飛んでいて、群れは壮観だけど、下の二人を避けて、上に留まろうとしなかった……
港のウッドデッキに来て深呼吸すると、塩辛くて魚臭い空気が感じられて、魚臭さが肺に刺激するが、王都から離れてここで初めて海の匂いを感じることができる。まあ、王都の下水道の匂いよりずっと良いかもね。
意外にもフランドはとても興奮していた。足取りも速くなり、喜んで海辺に駆け寄り、両腕を広げて海風を受け入れる。
彼らは隣の巨大な港に気づいて、ここが目印の一つだ。
倉庫には壊れた窓があって、窓に登ると、倉庫の中には山積みになった荷物が見える。
鉄錆の匂いが充満し、外よりもずっと濃いし、ゆかには魚の粘液がいっぱいで滑りやすい。
でも港の騒音は大きくて、港の荷役たちの叫び声や波の音がすべてを飲み込んでいた。だからあの二人は簡単に潜入することができた。
古くて朽ちた貨物室や倉庫室を見て、近代の水彩画のようだと思う。ゆっくりと大きくて深い内部空間に入ると、中はだんだん暗くなっていった。
ジャクソンはその時初めて、木製コンテナの一つにオイスム教の印があることに気づいた。
それは邪教の象徴だ。黒い六芒星が赤い旗にはめ込まれていて、荷物の中で目立っていた。
でもジャクソンはすぐに問題に気づいた。ここは王都に一番近い港だよ。こんな近いところにこんなものがあるなんて。
「荷物をチェックする役人は一体何をやってるんだ?これが見えないわけがないだろ?もしかして……」
「疑う必要ないよ。お前が思ってる通りだ」
フランドは木製コンテナを調べ始めるが、なかなか開ける場所が見つからなかった。
それから彼は手首を動かして、拳で荷物箱を次々と粉砕する!
「待て!フランド、そんなことしたら……えっ!」
中には大量の武器や薬物が入っている箱があった。どうやら密輸で武器や薬物を稼いでいるようだね。
次に誰が密偵に連絡するかを決めることになった。二人は互いに見つめ合って、真剣な表情をする。
「「じゃんけんぽん!」」
「よし、ジャクソン。お前素直に密偵に会いに行ってくれ。ここは俺が一時的に見張っとくから」
「くそ!なんで毎回お前に負けるんだ……」
ジャクソンは口ではそう言いながら、体は素直に動いた。一枚の呪符を使ってカラスを呼び出し、ジャクソンが情報を伝えた。
二人はカラスが窓から飛び出すのを見てから、互いにうなずいて調査を続ける。
しかし、その時二人は殺気を感じた!とても強烈で、とても突然だ!
その時巨大な気流が倉庫の内部を巻き込んでいて、周りの荷物箱はみんなバラバラになった。
木の破片が倉庫の中に散らばり、相手は人に見つかることを全く気にしないようだな。荷物を思う存分破壊した。
おそらく風魔法の切断攻撃だろう。箱はきれいに切り落とされていたから。
幸いにも二人は完璧に避けた。
「いや、見事だね、さっきはよく隠れたな。てめぇらは誰だ?何のためにここにいる?ちゃんと話さないと、死ぬのは楽じゃねえぞ」
「お前は誰だ?邪教の者か?」
上空のフランドは港の倉庫の大門の近くに灰色の魔導士服を着た人物がいることに気づいた。変な帽子をかぶっていて、顔は帽子で隠れて見えず、でもそれは重い男性の声だ。
「てめぇらには関係ねー!」




