44欺きと弁解
音楽が始まると、人々の声が沸き上がり、現場はすでに大混乱だ。
このバンドが私たちの国でこんなに人気があるなんて思わなかったよ、ちょっと意外。
「おっー!」
バラ仮面はただ舞台で大声で叫んでいるだけだけど、それが観客の気分を損なうどころか、かえって彼らをさらに興奮させている。
私の隣のアンナとクリリスはリズムに合わせて跳ねていたし、現場はまるでゾンビたちを操る変な儀式のようだ。
やばい!足も自分の意志とは関係なく動き始めるよ、私も跳ねてる!
体から魔力が吸い取られて、頭の中は跳ねたい、もっと狂ったいという思いでいっぱいだ……
このコントロールから抜け出すのは難しい、今の私はまるで人形のように操られている。
そのとき、私たちの後ろから別の全く違う音楽が聞こえてくる。
それは澄んだ響きで、魂を貫くような曲だ。
ああ、フェリクスのバンドが演奏しているんだ、彼の歌声は美しくて、魂が洗われるようだ。
徐々に自分を制御できるようになってきて、跳ねる回数もだいぶ減ってきた。
フェリクスに一番近い後ろ列の人たちは後ろを向き始めて、私もつられて振り返ってみたら、フェリクスたちは後ろの廊下で演奏している。
全く違う音楽スタイルがぶつかり合って、フェリクスの方の演奏音が相手をかき消していった。
最終的にみんな彼らに向かって、もう跳ねたり狂ったりしなくなって、かえってフェリクスに魅了されたように見つめていた。
気づかないうちに音楽が止まって、静寂が訪れてから初めて我に返る。
拍手がゆっくりと鳴り始めていって、みんなはようやくコントロールから解放されたらいし。
「すごいね」
「クレイジーバースト?なんでここにいるんだ?出演表に彼らのバンドはなかったはずだよね」
「わあ!あの雪の王子だ!フェリクス様だ!」
「「「フェリクス様!!」」」
现場が叫び声でざわめき始めている。だって、フェリクスは出演表になかったから、みんなちょっとびっくりした。
相手のミッドナイトゾンビのメンバーはフェリクスに向かって怒鳴り始める。
「お前ら何でここにいるんだよ?」
「尊敬って言葉知ってるか?こんなにずうずうしく俺たちのライブを台無しにするなんて!」
フェリクスは楽器を置いて舞台に向かって、ミッドナイトゾンビのメンバーたちと直接対峙する。
彼の表情はとても真剣で、ミッドナイトゾンビのメンバーたちを圧倒した。
「これがお前らの言う音楽の尊厳か?」
フェリクスは自分のバンドの人に舞台裏の装飾を引き剥がさせて、中には変な機械がある。
「この魔法拡声器はお前の魔力を増幅させて、みんなを意識不明にさせ、観客をコントロールするためのものだろ。間違ってないだろ」
「お前……お前はちゅう、中傷してる……」
バラ仮面は口ごもって、フェリクスの目を見ることができない。
みんな口をふさいだり、怒ったりして、ミッドナイトゾンビに対してかなり失望した表情を見せる。
「バラ仮面、いや、マカーリオ・アンブロシオ・サストル。お前はこんな手段で何をしようとしたんだ?これがお前の言う音楽か?」
「俺……」
バラ仮面は逃げようとしたが、そんなに簡単に逃げられると思うなよ!私は飛び出して魔法の枷で彼らを縛り上げた。
彼らは手足を縛られた状態になって、まるでイノシシを縛ったみたいだ。
「またこの縛り方かよ!もううんざりだよ!」
「素直に白状しろよ、少しは楽になれるぞ!」
「待って!レイラちゃん。俺は彼にいくつか聞きたいことがあるんだ」
「うん」
フェリクスはしゃがんで自分の仮面を外し、哀れな目でバラ仮面を見る。
「なんでこんなことをするんだ?音楽はこんなものじゃないよ」
「それは……誰も俺の歌い方を認めてくれなかったんだ……でも彼らは俺を認めてくれた!」
「オイスム教だろ」
「だって俺はスターになりたいんだよ、みんなに俺のライブに来てほしいんだ。三年、三年も頑張ったのに何もなかった!でもお前は!何でもあるじゃないか、毎回のライブは満員御礼だし、俺はどれだけ頑張っても誰も来てくれない!みんなが俺を笑ったり、嘲ったりしたんだ!あの絶望感わかるか!わかるかよ!」
「……」
フェリクスは沈黙に陥った、口を押さえて、表情は怒りから悲しみと同情に変わった。でも私の目にはこれは全然同情に値しない。
「あんたは他人を傷つけたり、尊厳を踏みにじったり、音楽を侮辱したりしたんだ。これは悪いことをする理由にもならないし、あんたの幼稚な行動の言い訳にもならない」
「レイラちゃん……」
バラ仮面は最初は弁解しようとしたが、今はもう落胆していた。
でも彼はまだ納得していないけど、もう何も言わなかった。
現場の観客は呆然として見ていて、何をすべきかわからない。
フェリクスは私を見て、優しい表情をした。
「レイラちゃん、ちょっと彼を放してやってくれないか、俺はちゃんと話してやりたいんだ」
「ええ⁉ダメだよ!フェリクス兄ちゃん、彼は……」
「いいか?」
「わかったよ」
バラ仮面は束縛から解放されると、ゆっくりと立ち上がった。
「観客がいないなら、俺がお前の最初の本当の観客になってやるよ」
「え⁉」
バラ仮面は驚愕していたが、私もそうだ。
「多分お前の趣味は悪くて、歌声も下手だけど、この世界にはお前のライブに来てくれる人がいるはずだよ、たとえ誰もいなくても俺は行ってやる」
フェリクスは前に進んで彼と握手しようとしたが、振り払われた。
バラ仮面は感謝していなかった、むしろ侮辱されたと感じた。
だって敵に同情されるなんて、どう考えてもちょっと……
「お前に同情されるほど落ちぶれてないぞ!フェリクス・ウルド・フォスコーロ、俺をなめるなよ」
「あっ!違うんだ、勘違いしないで。俺は本気で……」
フェリクスが言い終わらないうちに、舞台の上に巨大な魔力が現れた。
舞台の上が崩れ落ちてきたが、アンナとクリリスと私が魔法で落下する破片を防いで、現場のみんなの安全を守っていた。
「わはははは!すまんな、マカーリオ。お前のライブに遅れた」 「遅すぎだろ、レオンス!」
あのキモ男もいるなんて。確か、レオンス・フォルタンという名前らしい。
彼は天井から飛び降りて、私たちを見ている。隣には約三メートルの高さのロボットがいる。
そのロボットは頭を回転させて、時々目から赤い光を発している。
手に持った長剣を飛び出させて、戦闘態勢に入った。
「よう!あの時の小娘さん、また会えたね。お前らまた俺たちの邪魔をしやがって、今回はそう簡単に見逃さねえぞ!」
「レオンス、さっきまた縛られたんだぞ、あの女のせいだ!この野郎どもは俺を侮辱した!」
「よしよし、俺がお前の仇をとってやるよ。安心しろ」
ちょっと信じられないな、だって……
「洗脳計画が失敗したからって、もう迷うことはねえ。行け!戦闘ロボット1号!ここにいる奴ら全員やっつけろ!」
だって、このロボットとキモ男は弱すぎるんだ。雷魔法でロボットを直接貫いて、電流がロボットの体を通って邪教徒たちにも伝わった。
ロボットの構造はもうよく知っているから、弱点を見つけるのは簡単だ。
「わああ!ありえねえだろ。最新型のロボットがこんなに簡単に……」
「もう嫌だ!もう電撃には飽き飽きだ!」
フォルタンとバラ仮面は倒れ込んで、全身から焦げ臭い匂いがした。手加減したから、邪教の情報を聞けなったら、ちょっと困るね。
この舞台騒動はようやく終わった……




