41ブランコの白髪のエルフ
この世界に転生してからもう十一日が経った。
その間に、体は普通の人のレベルに回復して、柔らかいマットレスの上で飛び跳ねたり、広い廊下で走り回ったりできるようになった。
窓を開ければ、この世界に挨拶できて、鳥たちが飛んできたり、枝に止まったりしているのを見ていると、なんだか心地よく感じられる。
心はかなり平和で、感謝の気持ちを持って空気を吸う。
王都で一番の医者に感謝しなきゃだめね。彼のおかげで、体の回復速度は予想以上だった。
リリもオエリと話したことがないと言ったけど、私の母親以外に彼と話せる人はいないだろうって。
だって前に彼の部屋に行こうとしたら、人がいなかった。どうやら私を避けているみたいだ。
自分の部屋のドアを振り返って見て、今日もあの白髪の美少年が来るだろうか。
多分またドアの前で遠くから私を見ているだけで、何も言わないだろう。でも今回は絶対に彼と話そう!
案の定、ドアから足音が聞こえてきた。
その足音が近づいてきた!すぐに布団をめくって、最速でドアに向かって走る!突然熊みたいなものにぶつかって、弾かれてしまった。
頭を押さえて上を見ると、ドアに立っているのはお父さんだった。ちょうど彼の胸にぶつかってしまった……
「いたた、あ!お父さん」
「どうした?レイラ、体まだ完全に回復してないんだよ」
やんちゃな娘がこんなに元気なのを見て、お父さんは苦笑しながら安心して、なんだか重荷が下りたようにリラックスしたみたい。
「レイラ、今から家庭教師が来て授業をするんだぞ。今のお前はまだ学校に行けないけど、勉強もおろそかにしちゃダメだよ、わかってるか?」
お父さんも私の気持ちがわかってくれているみたいで、肩を叩いて元気づけてくれた。
「お前まだ記憶喪失なんだから、授業は簡単な内容だよ。安心しろ」
「わかりました、お父さん」
お父さんは私の答えを聞いて手を振ってくれて、満足そうに私の部屋を出て行った。
ええ、午後から家庭教師が来るなんて、これは早く決着をつけなきゃ。
結果、家庭教師が来て授業を始めると、彼はまだ現れなかった……
その後、しょんぼりしながら予定の場所に向かったら、兄もドアの前にいるのが見えて、誰かを待っているみたいだ。
私を見ると、顔に輝く笑顔を浮かべてくれる。それは太陽よりも眩しい。
そうだ、これが太陽フレアだ!しかもすべてを破壊する太陽フレア!兄がこんなに変わってしまうなんて本当に思わなかったよ。
まるで別人みたいだ。兄の心の中のポジティブエネルギーはずっと抑えられていたんだね。
今日やっと完全に解放された。生まれたばかりの恒星みたいに、光を放ちたくて仕方ない。
「レイラ、体はどう?回復した?」
「ああ、兄さん。大丈夫だよ、見て!元気いっぱい!」
「そうか、俺も嬉しいよ。授業中もレイラのことばかり考えてたんだ」
「兄さん、ちゃんと授業を受けてくださいよ。私のことは気にしないで…」
「レイラ…」
「ん?どうしたの?兄さん?」
「何でもない」
兄に許してもらってから、兄はずっと私に愛を注いでくれて、トイレに行くときも報告しなきゃいけなくて、四五日後にやっと普通に戻った。
「さあ、入ろうか。先生とオエリを待たせちゃダメだよ」
「うん、え⁉」
兄がドアを開けると、中には三つの机があって、私と兄以外にもう一人。
それはオエリ・エザルド。あの白髪の美少年が窓際に座っていて、冷たい目で私たち兄妹を見ていた。相変わらず目には何もない。
「オエリ、こんにちは」
「こんにちは、ディラン様。……」
彼は私の名前を呼ばず、先生の方を見て頭を向けて、私を見なかった。
私はレイラ・フェリウェムが行方不明になる前に彼に何をしたのかわからないし、でも想像以上にひどいことだったと知っている。
「「先生おはようございます」」
先生に挨拶してから椅子に座って、教科書を用意する。今回は彼は逃げなかった。
私の近くに座っていた。これは私たち二人が初めてこんなに近くで一緒にいることだ。
まるで心臓の音や息遣いが聞こえるようだ。めちゃ気まずくて彼と話すことができなくて、むしろ彼を見る勇気もなくなってしまった。
空気が抜けた風船のように、机の上にぺたりと寝そべってしまう。
「レイラ・フェリウェム!授業に集中しなさい」
「ああ!はい」
ああ、先生に怒られちゃった……
放課後オエリはウサギのように教室から飛び出して行く。私と同じ部屋で息をするのも苦痛なようだ。
「私の授業はそんなに嫌なのか?」
「違いますよ、先生。そんなことはないと思いますよ」
「そうか」
兄は先生に返事をしてから、こんなにもこじれた私たちの様子を見て、私の気持ちにも気づいたようだ。
私の肩を叩いてくる。
「行ってきなさい、レイラ。オエリはいつも庭の奥のブランコで一人で泣いてるんだよ」
「うん」
兄の少し悲しんだ顔を見て、私は突然気づいた。この問題は兄や他の人には解決できない、転生者の私しか解決できないんだと。 だって今の私はレイラ・フェリウェムなんだから。
オエリはブランコに座って、足で軽く揺らしていて、地面に落ちた枯れ葉を足で蹴り上げて、目には枯れ葉しか映ってなくて、周りのことは無視しているみたい。
口ずさむ歌も聞こえてきた。いい歌声だね。それは子守唄みたいな歌。
しばらく静かに見ていたけど、うっかり枝を踏んで音を立ててしまった。
オエリは音に気づいて私の方を振り向いた。やっぱりバレちゃったか。
「ああ……よう!こんにちは」
「……」
優しい表情は私を見るとすぐに冷たくなった。私を凍りつかせるような鋭い視線だ。
「偶然音が聞こえて来ただけで、こんなに偶然だなんて、あはは」
彼はまだ私と話そうとしなかった。でも私は彼が話したいと思ってるのがわかる。
今回彼は逃げなず私と向き合って、自分の恐怖に立ち向かおうとした。だから私も何かしなきゃ。
「さっき口ずさんでいた曲、私知ってるよ。それは私の母の歌でしょ」
ゲームの中は言ってたんだし、聞いたこともある。
「うん」
やっと彼が私の言葉に返事をした!嬉しい!!でもまだ安心できない。
「隣に座ってもいい?」
「うん」
そうして私は彼の隣のブランコに座っている。彼と一緒に足で揺らして、足元の枯れ葉を蹴る。
「私ね、体がすごく痛くて、鎮痛薬を飲んでも全然眠れなくて、兄さんが隣でこの曲を歌ってくれると、聞いたこともないけどすごく安心して、すぐ眠れるようになるんだ。だからこれはすごく素敵な子守唄だってわかるよ」
「そうですか、お嬢様のお体は今どうですか」
「え!ああ、見てよ、今の私元気満々だよ!パワフル‼」
「……」
彼はちらちらと私を見ただけで、目を合わせようとしない。私にまだ警戒してるのがわかった。
レイラ・フェリウェムが彼をいじめてたから、それは私がやったことじゃないけど、彼に謝らなきゃ。
「ごめんね。私、ずっとあんたをいじめてたよね、だからごめんね……」
「え⁉」
彼は驚いて私の方を向いて、信じられないみたいに私を見ている。
両手でブランコの鎖を強く握って、ねじれるようにひねる。
「よく気づ来ましたね」
「うん、本当にごめん、オエリ。全部私のせい……」
わかっている。これだけで許してもらえると思ってない。
前の「私」は大悪人だったよね。こんなに可愛い子をいじめるなんて。
レイラ・フェリウェムがどれだけ酷い人間だったか信じられない。 すぐに私たちの関係が修復できるとは思わない……
「お嬢様、今まで僕にされたことは……」
「ごめんなさい!」
立ち上がって、オエリに謝った。顔を上げて彼を見ると、彼は静かに私を見ていたが、冷たさはなくなっていた。
「お嬢様、座ってください」
「ああ!はい」
またブランコに戻って、足元の枯れ葉を見つめ続ける。しばらくしてから彼が話し始めた。
「お嬢様はどうしてそんなことをするんですか?」
「ああ、すみません。オエリ、私記憶喪失になったの。だからあんたにしたことは覚えてないの。だから教えてくれる?前の私はどんなことをしたの?」
オエリは長い間溜め込んだ怒りが爆発するように震え始めた。まるで火山が噴火するか爆弾が爆発するかの瞬間を待っているようだった。私もただ爆発を待っていた。
「前のお嬢様は毎回僕の部屋に来て寝て、毛布も取り上げるんです!それだけじゃなくて、僕が女の子みたいだってからかって、僕の服をこっそり持って行って、クローゼットに女の子の服を入れるんです!それに仕事が終わって自分の部屋に帰ると、ベッドの上に色々な虫やヘビがいるんです!それから食事の時にも僕が礼儀知らずだって言うんです!それに……」
「ああ……わかったわかった、本当にごめんね」
今は仕方なくオエリの怒りに満ちた不平を聞くしかない。今の彼は怒っていて、前の彼と全然違う人みたいだ。
二人の仲はもうずっと悪かったんだろうな……
オエリという火山が噴火し終わったように力尽きてブランコに座った。怒ることで彼はあまりにも多くのエネルギーを消耗したようだろ。
「お嬢様、実は僕もお嬢様を責めるべきではないと思います。お嬢様は記憶喪失になってしまったのですから。それに性格も変わりました。お嬢様の変化が感じられます。お嬢様は優しくなりました。まるで別人みたいです」
「え!そうなの……あはは、ちょっと恥ずかしいな。じゃあ、オエリ!」
「うん?」
彼はずっと私を見ていた。目をそらさなかった。
その時、オエリと私のお腹が鳴り始める。グーグーという音がした。
「さあ!オエリ!」
「ええ⁉お嬢様?」
私はオエリを引き上げて、彼の手を強く握った。今回は絶対に離さないつもりだった。
「ご飯に行こう!」
「うん……」
その時私は気づいた。オエリの目に光があった。




