40全新の異世界生活
「お嬢様、ご無事で何よりです」
「ありがとう、リリ」
リリは弱っている私に着替えを手伝ってくれた。七日も経ったのに、この体はまだとても弱い。
立ち上がって歩くのもやっとだ。
王都で一番の医者が私の病状を診てくれたし、昼夜問わず私の世話をしてくれる専属メイドのリリもいた。
みんなのおかげで、私の体は少しずつ回復してきた。ベッドから起き上がって歩けるようになったのも奇跡だね。
リリはお粥を持ってきて息を吹きかけた。私より三歳しか年上じゃないのに、こんなにしっかりしているんだ。
その後ベッドに横になり、リリは私のそばでお粥を食べさせてくれた。
今の私はお粥しか食べられないし、他の食べ物はまだダメだと医者に何度も言われた。でもリリが作るお粥はすごく美味しい。
「お嬢様、旦那様が調べてくださった情報によると、あなたはオイスム教の者か、あるいは連続殺人犯に誘拐された可能性が高いそうです。王都では数十人の子供が行方不明になっていて、そのうち何人かの遺体が発見されました。どうやら何らかの実験をされたようで、その子供たちの傷は全身にあります。あなたと同じように、何か特殊な器具で傷つけられたんです。以上が私が聞きつけたことですが、他には分かりません」
「リリ、ありがとう。お父さんと警官の話を盗み聞きしてもバレなかったなんてすごいな」
一昨日リリに頼んでお父さんと警官の話を盗み聞きしてきてくれと頼んだ。誘拐事件の真相を知りたかったし、レイラ・フェリウェムがなぜ誘拐されたのかも知りたい。
「ええ~お嬢様、私を見くびらないでくださいね。私はお嬢様の専属メイドですから」
突然、リリはお粥を食べさせるのをやめる。彼女の目は恐怖と悲しみに満ちていて、手が震えていた。
「お嬢様があの変態殺人鬼から逃げ出せて本当に良かったです……」
リリは言い終わるとすぐに泣き出した。涙が彼女の頬を伝って落ちた。私も優しくリリの髪を撫でて、ハンカチで涙を拭いてあげて、リリも私の手を強く握って離さない。
「あ!ごめんなさい、お嬢様。お粥が冷めちゃいました……」
「大丈夫よ、ありがとう。リリ、あんたがしてくれたことに感謝してるわ」
「はい、ではもう一度温め直してきます。少々お待ちくださいませ」
「うん」
リリは立ち上がって服を整えて、食器を片付けて台所に向かった。でもドアのところで振り返って私に笑顔を見せて、それは優しい笑顔。 私も同じように笑って返した。
リリが去ったあと、気づいた。ドアのところに白髪の美少年が静かに私を見ている。
目に光がなくて、空虚で冷たい眼差しだ。私がフェリウェム伯爵家に来た初日と同じ表情だ。
ただあの日は少し憎しみがあったけど、今の彼はもう敵意を失っていた。
彼もこの三日間ずっとこうやって私を見ていた。でも一度も部屋に入ってきて私に話しかけたりしなかった。
それが逆に私の好奇心をそそった。彼と話してみたい。
「入ってきたいの?じゃあ来なさい」
優しい笑顔で彼に手招きして入ってくるように言った。
でも彼は私に構わず、ずっと見ていただけだ。しばらくして彼は去ってしまう。
その時私は何か音がしたのに気づいた。それはリリの足音だ。
彼はいつもこうだ。誰かの足音がすると静かに去ってしまう。まるでこの世界に彼の存在がなかったかのように。
彼がどうしてそんなことをしたのかわからない。
このゲームの細かいところを思い出そうとしたら、いくつかの理由が見つかったかもしれない。
その白髪の美少年はオエリ・エザルドという名前で、娼婦の子供で、両親に捨てられ。
レイラ・フェリウェムの母親が偶然に貧民街の孤児院で彼を見つけて、引き取った。
それから彼はフェリウェム伯爵家の使用人として暮らしていたが、レイラ・フェリウェムにいじめられて、もともと世界に絶望していた彼はこの世界をさらに憎むようになった……
私のせいだったのかな……
レイラ・フェリウェムがやったことだけど、今の私は彼女だから、この厄介なことも私が解決しなきゃいけないんだ。
それに、王都の子供たちが行方不明になって、何かの実験にされてるって。
リリがまた私の部屋に入ってきて、現実に戻った。
-フェリウェム家の庭-
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。リリ、私はできるから」
今回復訓練をしている。
体はだいぶ良くなったし、最初の日に比べれば死にそうな感じじゃなくなった。今の私は元気いっぱいだ。
それに外に出て新鮮な空気を吸うのもいいし、体にも良さそうだ。 自分の部屋から初めて足を踏み出して、新しい世界に来た。これは私にとって大きな変化だ。
気分はとても高揚している。すぐに飛んで出て行きたいくらいだ。落ち着かない血液が抑えられなくて、杖を持っているのに足早に歩こうとする。再び怪我をするかどうか気にしない。
「お嬢様!」
結局、転んじゃった……
でもこの気持ちは言葉では表せない。雛鳥が殻を破って出てきたときの喜びみたいに抑えられなくて、その喜びが全身を突き抜ける。
手助けしようとするリリを押しのけて、自分の力でもう一度立ち上がる。
今度は自分の足で立ち上がりたい。誰かの助けは要らない。
明るい太陽が私の顔を照らして、とても暖かくて、とても本物みたいだ。
これは夢じゃない。本当に転生したんだ。
これからの魔法の授業が楽しみだ。私もいつか魔法を使えるようになる日が来る。考えるだけでワクワクする。走り出したくなる。 でも最後は庭の中の亭に座ってしまった……
やっぱりこの体で散歩するのは限界だ。でも周りの全く違う植物を見たり、異世界の雲を眺めたりするのもいいものだ。貴族らしい気分になれる。
「お嬢様、あなたはまだ歩けるようになったばかりです。そんなに興奮しなくてもいいですよ。医者は一週間後には普通に動けると言っていましたよ」
「ああ、ごめんね、リリ。ちょっと調子に乗ってしまった」
「ふふ、こんなお嬢様の方が昔よりずっといいですよ。今のお嬢様好きですよ」
「え!本当?」
「本当です。昔のお嬢様は人の気持ちを考えないで、とてもわがままで、すぐに怒ったり、普段からおねしょをして泣き喚いたり……」
「あはは……」
仕方なく苦笑して、私が転生者だという事実とリリの辛辣な批判を隠した。
リリだけじゃなくて、ほとんどの人がレイラ・フェリウェムが変わったと思っている。性格が大きく変わって、別人みたいになったと。
医者も記憶喪失か何かの刺激でそうなったのかもしれないと言ってくれたから、ほっとした。
私はまだみんなに私が転生者だと知られたくなかったから。
そうだ、この体は今は私のものだ。私もしっかり生きていこう。前世ではできなかったことをやろう。
そして、あの白髪の少年は階上の窓の後ろに立って、まだ遠くから私を見ていた。




