番外編 地下迷宮1
-未知の迷宮-
レイラちゃんたちはどうなっているのか、もしかしたら危険な目に遭っているのではないだろうか……
たぶん大丈夫かな、レイラちゃんは昔からすごく強く、強敵にも冷静に対処できるし、本当に不思議な子だね。
頭がいいし可愛いし、ユーモアもある、俺より頼りがいがある……
「シスネロス君、何か見つかった?」
今俺とシスネロス君が一緒にいる。足元に突然現れた落とし穴によって、俺たちは奇妙な迷宮に閉じ込められてしまった。
先程入った迷宮よりも暗く、周りを照らすために火魔法を使うしかない。でもそれはとても体力を消耗するものだ。
「いや、こっちもだめだ」
「もう何度も探しているけど、出口がまだ見つからない」
もしレイラちゃんもここにいたらいいのに。
「ここは行き止まりで、だから出口が見つからないのかもしれ」
その時、石が動かされるような音を聞いた。とても大きな音。
「え!シスネロス君、さっきの音、前と同じだよね」
「行こう、何が起こったか見てみよう」
目の前に、元々存在していた壁が移動し、他の通路が現れる。
「不思議だな、何度も起こっている」
「やっぱりそうか」
「え、どうした?」
「俺たちを監視して、この迷宮を操作している人がいるんだ」
「ええ、そうなんだ」
まったく驚かなかった。シスネロス君は俺よりもずっと頭がいいからね。でも前にも少し変な感じがした。
俺たちは明かりが灯る通路を進んで、不思議な記号があちこちに散らばっている。レイラちゃんが読めるかもしれないね。
通路の先には、更に明るい広場が広がっている。石で作った大きな門があり、その上にはバルコニーのようなものがある。
「フォスコーロ、気を付けろ。前方に不快な殺意がある」
シスネロス君が急に腰の剣を抜き、緊張した表情を見せる。
「あのさ、シスネロス君。これからはフェリクスで呼んでくれていいよ。俺もジャクソン君と呼ぶから。どう思う?」
「今、そんな話の時じゃないだろう!フェリクス、真面目に考えろ。前方に敵がいるんだぞ」
「ええ~じゃあ、ジャクソン君。よろしくお願いしますね」
「もう言ったろう……まあどうでもいい。少し緊張感を持ってくれると助かる」
ジャクソン君が言う殺意に気づかない。やっぱり軍人の出身だから危険を察知する直感があるのかな。
もしレイラちゃんやハルカちゃんがいたら、今頃お互いに冗談を言っているだろ。
ジャクソン君はちょっと厳しすぎるなぁ。もう少しリラックスした方がいいのに。
目の前の石の扉がゆっくりと開いて、巨大な魔物が現れた。牛の頭と人間の体を持ち、武器も装備もない。身長は五メートルくらいかな、よくわからないけど
「ミーノースか、これはまずいな」
「え、こんなに強いの?」
「この相手を倒すには、俺たち二人が協力するしかない」
「でも、俺は強い戦闘力を持っていないんだけど……」
「大丈夫だ、レイラ・フェリウェムにやったみたいに、俺の戦闘能力を強化してくれればいい」
「わかった」
レーシーを呼び出し、ジャクソン君の強化する準備をした。
「頼むよ、レーシー」
「ビュー!」
ジャクソン君は魔物に向かって走り出したが、その時突然足取りが遅くなった。
「どうしたんだ、ジャクソン君。大丈夫?」
「ただ、足取りが重い感じがする。いや、全身が重いんだ」
「えっ!?何が起こってるんだ?」
ジャクソン君は歩くのも困難そうだったが、魔物のスキルのせいか?でも、ミーノースは何もしていないように見える。
その時、歌声が聞こえる。
ん?なんか懐かしいメロディーだけど、思い出せないな。
そして花びらが上から散り落ちてきた。どこから来たのか分からなかったけど、この光景は俺にはとても馴染み深かい。
周りが暗くなり、上方から一筋の光がバルコニーを照らし出している。
「ん?何が起こった、あれはなんだ?」
「ジャクソン君、あれは舞台の照明だよ」
「分かってるって、ただ変な感じがするだけ」
その時、拡声器から声が流れる。
「みんな、注目して!今北方で一番強い人気歌手、バラ仮面を紹介します!」
するとバルコニーから見事な花火が上がり、赤い幕が開けられた。
マスクを付けた人がゆっくりと出てきて、マイクを持っている。
その人の装いは何だか奇妙で、センスが全くなく、服の色合いや全体のバランスが非常に悪い……
言葉にできない芸術スタイル。
「なんだあれは、クソみたいなもの」
「ジャクソン君、口が悪いね。出で立ちが変で、服も全くアート感がなく、色合いも悪く、歌もおかしいだけど。でもさ、そうやって全否定するのはダメでしょ?」
そして、バルコニーのマスクを付けた人が突然怒り出した。
「お前ら二人とも同じくらいひどい!俺をバカにするなんて!今日はお前ら二人の死期だ!特にてめぇだ、フェリクス・ウルド・フォスコーロ!」
「えっ!俺?」
「フン!てめぇは喜ぶべきだ。俺のバラ仮面の相手になって、ここで死ぬことができる。俺の最後の芸術を完成させてくれるんだ」
この時、ジャクソン君が俺に向き直り、疑問そうな顔をしていた。
「どういうこと?お前二人知り合いか?」
自称バラ仮面の人は俺たちに向かって大声で叫ぶ。
「ハハハ!いい質問だ。そう……」
しかし、彼がジャクソン君の質問に答させるつもりはない。本当に印象がないから。
「ああ、ごめん。ジャクソン君、彼を知らない」
「でも、あの間抜けやつはお前を知っているみたいけど」
「でも、本当に覚えていないんだ。仮面をかぶっている人とか、そういうのは特に」。
「そうか……」
なんか雰囲気が冷え込んできた。
「フェリクス・ウルド・フォスコーロ!てめぇが北方最強のラッパー、有名な芸術家を忘れたなんて許せない!」
「ごめんなさい、もし君が俺のファンなら、サインはしてもいいよ」
「冗談じゃねえ!てめぇのサインはただのゴミだ、字も汚い」
「すみません、俺の字は汚くて。次はきちんと練習して、いいサインを書けるようにするから」
ジャクソン君はあきれたようにため息をつき、俺に言う。
「もし彼がお前のファンなら、ここから出してくれるように言ってみたらどうだ?」
「誰が彼のファンだ!」
ああ、このままだと終わりがないな。でも、彼はファンなら、俺の言うことを聞くはずだ。
「次に会った時には、最高のサインを書いてあげるから、出してもらえませんか?」
「フェリクス・ウルド・フォスコーロ……」
「うん?」
「彼らを殺せ、ミーノース!」
ええ⁉どうしてこんなことになってしまったんだろう?何か言ってしまったかな?




