93君に出会えて本当に良かった
「逃げろ!瘴気入ってきたぞ!」
兵士たちは叫び、全員が慌てて階段を駆け上がっていく。逃げ遅れた者たちは煙に呑まれ、最後には跡形もなく消えてしまった。
フェリクスや他の負傷者たちは一番上まで運ばれる。ここはまだ瘴気が浸透しておらず、そして周りには学生たちが警備している。
生き残った平民たちの目には絶望しか映っていない。
ここが最後の、かろうじて安全な場所だった。
ジャクソンは、押し寄せてきた魔物を切り伏せると、後ろにいるディランに向かって叫んだ。
「お前も負傷してるだろ、早く引け!」
「そうはいかない!休むならいくらでも時間があるだろ、今は無理」
「今は使い魔さえ呼び出せないんだろ、ここにいちゃ邪魔になるだけだ」
「待て!それ見ろ!」
ディランは興奮しながら空に輝く光を指差した。ジャクソンとディランの目に希望が満ちる。
間違いない、あれはエミリの魔法だ。薄暗い空の中で、あの光は一際明るい。平民の中には泣き出す者もいれば、興奮して跳ね回る者もいた。
しかし、時間が一秒一秒と過ぎても、発射台の破壊魔光砲は何の反応もなかった。全員が時間の流れを異常に長く感じ、再び絶望が押し寄せてくる。
「どうなってるんだ?フランドとあの魔導士たちは何をしてる?」
ディランは剣を収め、発射台に向かおうとする。
「何かあったのかもしれないし、僕が見てくる」
「いや、俺が行く。ここはお前と他の人に任せるけど、本当に大丈夫か?」
「ああ、フェリウェム家に誓って」
そう言って、二人は軽く抱き合い別れた。ジャクソンは発射台へ向かって走り出した。
発射台には多くの魔物結晶と魔導士の死体が転がっていた。発射台を守る扉はすでに破られており、暗闇の中に高い影が現れる。
あれは巨大で力強い魔物がフランドの前に立ちはだかり、魔導士の首を掴んでいた。やがて、その魔導士は動かなくなった。
コウモリのような耳が揺れ、灰色の毛に覆われた体、そして長い爪が特徴的だった。
しかし、最も目立つのは胸の部分にある人間の顔。その顔は苦しそうに見える。
魔物は死んだ魔導士を投げ捨て、殺戮の快感に浸るかのように蹲り、戦意を失ったフランドを見下ろし、恐ろしい笑みを浮かべた。
フランドは使い魔と融合していたが、全身の鎧はボロボロだった。地面に落ちた剣が小刻みに震えている。
その時、フランドは叫びながら突進し、地面に落ちていた剣が彼の手元に戻った。
だが、コウモリの魔物は立ち上がることなく、二本の指でフランドの剣を軽々と止めた。
魔物は剣を掴んだままゆっくりと立ち上がったが、フランドはすぐに剣を手放し、雷魔法を放つ。
「くっ!」
フランドの鎧が鋭い爪に裂かれ、彼は後退を余儀なくされた。
雷魔法で魔物の体は焦げたが、その極めて速い再生能力で、すぐに元に戻った。
「ニフテリダか…まさか、こんな時代にこんな古い魔物が見られるとはな…」
ニフテリダはすぐに傷だらけのフランドに突進し、フランドが空間魔法で逃げたが、それでも魔物は彼に追いつき、脚に爪を立てた。
フランドはゆかに転がり、痛みに耐えながら脚の傷口を押さえた。
でもニフテリダはすぐにフランドを殺すつもりはないようで、彼の周りをゆっくりと回り始めている。
「こいつ、俺を弄んで殺すつもりか…」
ニフテリダは爪についた血を舐め、さらに興奮していく。
突然、煙が部屋全体を覆い、暗闇の中、一閃の光がニフテリダの左手を切り落とした。だが、ジャクソンが着地した瞬間、ニフテリダに蹴り飛ばされた。
「デューク!」
次の瞬間、ニフテリダの背後から炎が放たれ、容赦なくニフテリダを焼き尽くそうとする。
「風斬り!」
煙と炎を切り裂くようにフランドの剣がニフテリダの首を斬り落とした。ニフテリダの体は地面に倒れ、動かなくなる。
「遅ぇよ…こいつに殺されかけたぞ」
ジャクソンは地面に広がる死体を見て、深いため息をつく。
「悪かった…でも、今は早く魔光砲を起動しろ」
「言われなくてもやるさ!」
フランドはすぐさま破壊魔光砲を操作し、魔法陣の赤い点を確認すると、迷うことなく遠くの腐敗の木をターゲットにロックオンした。
「発射まであと30秒」
「フランド!後ろ!」
頭を失ったはずのニフテリダが突然立ち上がり、フランドに襲いかかる。操作台は瞬く間に血で染まった。
ジャクソンの背中が爪で引き裂かれ、血が止めどなく流れ出す。
「ジャクソン!お前…」
フランドはジャクソンを抱えて急いで飛び退き、再びニフテリダの攻撃をかわした。
再生したニフテリダはますます怒りを増し、背中のコウモリのような翼が広がり、その体はさらに大きく、強くなっていく。
「まだ死なないなんて…おい、お前大丈夫か?」
「どう見ても大丈夫そうに見えるかよ…」
「そりゃそうだね」
フランドとジャクソンは再び立ち上がり、怒り狂う怪物に立ち向かう。
「フランド、30秒耐えられると思うか?」
「俺たちはやれる、絶対に!」
フランドは再び使魔トリスタンを召喚した。
デュークがニフテリダにぶつかり、壁に叩き込んだが、ニフテリダはその爪でデュークを引き裂いた。
フランドとジャクソンは協力して魔法の鎖を召喚し、ニフテリダを拘束。続いてトリスタンが大剣で攻撃を加えるが、硬い皮膚に弾かれてしまう。
束縛を解かれたニフテリダは尾でトリスタンをぶっ飛ばした。
怪物がフランドとジャクソンに突進してきたその瞬間、破壊魔光砲から巨大な熱光線が発射された。
一方、キュクロープスが腐敗の木に這い上がり、飛虫魔物たちも勇者一行に襲いかかっていく。三人の魔力が尽き、全員が時間を稼ぐしかない状況だった。
迅雷は武器も魔力も失い、キュクロープスと鬼ごっこをしながらなんとか逃げていたが、捕まったら全部終わり。
オエリはエミリを守っている。彼女は疲れ果て、立つことさえできなかった。
その時、巨大な光線が瘴気を貫き、遠くの魔王の心を直撃した。高温が周囲のすべてを焼き払い、爆発が樹皮を剥ぎ取ると、衝撃波が三人に迫ってくる。
距離が近すぎて、このままでは三人とも衝撃波に飲まれてしまう。
オエリは再び寿命を犠牲にして女神の力を使うしかなかった。彼は翼を広げ、超高速でエミリと迅雷を抱え、枝を避けながら逃げている。
その背後では、まるで粉砕機のように爆発が魔物と樹皮を粉々にし、何もかもを消し去っていく。
オエリは全力で逃げたが、結局爆風に吹き飛ばされてしまった。
幸い、命に別状はなく、三人は無事に樹の枝に降り立った。彼らの目の前には地獄のような光景が広がっていく。
腐敗の木は炎に焼かれ、樹皮が溶け、周囲の瘴気も徐々に散っていた。
破壊魔光砲が腐敗の木に大穴を開け、その奥に魔王の心が鼓動している。
魔王の心もまた深手を負い、紫黒い血を流していたが、高速再生能力で傷を修復しようとしている。
周囲には生き残った魔物はおらず、オエリは簡単にそこに到達した。彼は怒りに満ちた表情で魔王の心を見つめる。
そして、光の剣を取り出し、魔王の心に突き刺すと、縁を沿って強く斬り裂いた。彼は怒りの咆哮を上げ、魔王の心から流れ出る血が全身に浴びせられてしまう。
魔王の心は痙攣し、繋がっていた血管も次々と破裂。腐敗の木は枯れ始めていく。
オエリは光の剣を引き抜き、さらに大規模な剣風で魔王の心を斬り裂いた。
最終的に、魔王の心は完全に破壊され、その血肉はすべて萎縮して消滅した。腐敗の木も崩れ落ちている。
オエリは疲れ果て、翼を消しながら樹の枝に降り立ち、朝日の一筋が濃霧を貫いて彼のやつれた顔を照らす。彼は無言で空を見つめていた。
「勇者なんて、全然良いもんじゃないな…」
やがて瘴気の霧も徐々に消えていった。発射台の濃霧も晴れ、太陽の光が要塞全体を照らし出した。
全ての魔物が痙攣しながら死んでいき、当然、ニフテリダもその中に含まれていた。
ジャクソンの胸を貫いた鋭い爪がゆっくりと消え、空洞だけが残されていた。
フランドは彼の手をしっかりと握りしめ、泣き崩れる。
「サル、やっぱりお前が泣くと、ひどい顔になるぜ…」
フランドはただ苦笑し、必死に感情を抑え続ける。
「バカかよ…なんで…」
「だって、俺たちは、最高の友達だろ……」
「ああ、君に出会えて本当に良かった…」
ジャクソンは最後に微笑み、静かに目を閉じた。




