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「クソったれの主教?まさかルイ主教のことか!」
「その通り、嘘ばかりのペテン師…」
金髪の男は手に持っていたタバコの吸い殻を投げ捨て、空にため息をつく。
「申し訳ないが、この件はお前らには関係ない。俺は迅雷、元イビリヤス帝国の団長」
「団長だったんですか!」
「はは、もう団長と呼ばないでくれ。今の俺は落ちぶれたオッサンだけだ」
「フェリクス・ウルド・フォスコーロ、俺の名前。よろしく」
「じゃあフェリクス、自分の命をしっかり守れよ。次はエリザベス様が誰かを送ってくれることだ。まあ、こんな状況じゃ、難しいかもしれないな」
「必ず来るよ」
彼は笑いながらフェリクスの背中を叩き、二人は笑い合う。
その時、一人の革命軍の兵士が慌てて駆け寄ってきた。
「団長、大変です!魔物たちが再び侵入してきました。このままだと防衛線が突破されます!西側の城壁はもう持ちこたえられません!」
「わかった、後で行く。くそ!要塞には戦える人がほとんどいないのに」
「フォスタンイーンの皆は大半が戦えるはずです。先に行く」
フェリクスはためらわずに離れようとしたが、迅雷に腕を掴まれた。
「待て!要塞の中心に魔導士がいる。彼女が要塞内の結界を起動したおかげで、俺たちは魔物の餌にならずに済んでいる。だから彼女を守れ、魔物が要塞の中心に入らないようにしろ」
「分かった」
「おい、こぞう。気に入ったから死ぬなよ」
フェリクスは笑って手を振り、去っていった。要塞の下に着いた時、ディランがすでに待っていた。
「革命軍の者たちから連絡してくれた。しかし、こちらも戦える人が少ないね」
「ディラン、本当に大丈夫か?」
「心配するな、今の状態はジャクソンよりいいから」
二人は戦える学生たちと共に要塞内部を守るために向かっていく。
要塞の内部はあまり広くなく、壁はすべて硬い石でできていた。
中央には聖壇のような場所があり、そこには発動している魔法陣があった。
それが要塞全体を瘴気の脅威から守っていた。
「ディラン、あの魔導士は見たことある?」
「彼女が僕たち三人を救ってくれたと聞いてたが、本人は見たことなかった」
高いヒールの音が聞こえ、青髪の女性が彼らの背後に現れた。
彼女は白い魔導士の服を着て、星の飾りがついた巨大な魔杖を持っている。マントにはオリーブの枝と翼のついた剣が描かれていて、とてもかっこよい。
「誰?まさか迅雷さんが言ってたあの魔導士なのか?」
「赤髪のイケメン君、前方の魔物のことを心配しておいて。もう侵入してきてるわよ」
「え?全然感じなかったけど」
ディランは床に手を触れて、冷や汗を流している。
「フェリクス、来た…地面が震えてる…」
「えっ!?この数…革命軍は外で戦ってるはずなのに、なんでこんな大量の魔物が中に入ってくるんだ?」
「恐らく…」
みんなが黙り込む。誰も真実を口にしようとはしなかった。絶望的な雰囲気が呼吸すら苦しくさせる。
それでもディランはロッキーを召喚し、壁を再構築して出口を封じ、小さな隙間だけを残した。
やがて魔物たちの不気味な笑い声や背筋の凍るような叫び声が、
要塞の廊下の奥から聞こえ始め、地面の震動がますます激しくなる。
その時、青髪の魔導士が真っ先に前に立つ。
「さあ!みんな戦う準備をしろ。女神様のご加護がありますように」
同時に、城内には勇者を助けるための戦力が百人にも満たず、残りの者は城を魔物から守るために残らなければならない。
「勇者様、申し訳ありません。これが私が提供できる最大限の戦力です」
「エリザベス公爵、謝る必要はありません。これは僕の役目ですから」
「エド!銀級の君も勇者様と一緒に要塞へ行け。ロジナに詳しい君なら、勇者様をちゃんと補佐できるだろう」
「承知しました、公爵様」
その後、エリザベス公爵は城門の前で勇者一行に手を振って見送った。地図を持ったエドが少し考え込んだ後、先頭に道を案内する。
「勇者様、こちらです」
なぜか勇者たちが瘴気の中に入っても、魔物は攻撃してこなかった。おそらく前回と同じく、チャンスを伺っているのだろうが、それがむしろ彼らにとっては都合が良い。
魔導士たちは瘴気を浄化しつつ、周囲の警戒を怠らない。
「エドさん、城の方は大丈夫ですか?」
「勇者様、ご心配なく。あちらにはまだ銀級の実力者がいますから」
「そうですが…」
フランドが前方で、後ろにいる人たちに大声で呼びかける。彼は目の前の腐敗の木の根を剣で叩く。それは鋼鉄よりも硬いものだ。
「オエリ、こっちはもう通れない。見ろよ、この根っこ、前はこの通りになかったはずだが、今じゃここまで伸びてきてる。腐敗の木も城にどんどん近づいてるな」
「じゃあ、早く要塞の生存者を見つけないと。みんな無事だといいけど…」
「そうだな…待て!魔物たちが俺たちを見つけた」
全員が魔物たちが集まってくるのを察知した。
兵士たちは突撃してくる魔物と戦い、魔導士たちは魔法で応戦する。
エドは魔物を一体斬り伏せた後、勇者に向かって叫ぶ。
「勇者様、ここが通れないなら、こちらです!」
全員がエドに続いて木の根や荒廃した街を駆け抜け、魔物と戦いながら進む。
しかし、いつの間にか兵士の数は減っていく。
それでも彼らの進行を阻むのは腐敗の木。しかし、今回の腐敗の木の根には人の顔の形をしたものが無数に生えていて、すべての目が生きている人間をじっと見つめている。
その黒い根は複雑に絡み合い、大きな壁を形成しており、瘴気を絶え間なく放出していく。
エドはため息をついた。
「何なのか分からんが、これじゃ通れそうにないな」
「これ…気持ち悪い……」
オエリは目を伏せ、直視しないようにしている。フランドはその奇妙な根に剣を刺してみる。
「相変わらず硬いな…でもこの気持ち悪い物体は一体何なんだ?」
「フランド!避けて、ここはもう女神様の力を使うしかない」
「待て!前にも言っただろう、女神様の力を使ったら…」
「目の前の人々を救えなければ、世界も救えない。それに、今は魔物と戦っている場合ではないし」
「オエリ…」
オエリはすぐに勇気の印の力を解放し、瞬時に体中に膨大な魔力が満ち溢れた。
彼は大声で叫び、剣で巨大な高圧の剣風を発生させ、目の前のすべてを吹き飛ばした。
根が次々と粉々に斬り落とされ、道も土煙を上げながら開かれていく。
「これで通れるだろう、エドさん」
「ああ…そうだな…」
同時に要塞内では戦闘が続いており、地面には魔物の結晶や人の血痕が散らばっていた。これらの結晶はすぐに消えるが、今はまだ多く見られる。
どれだけの魔物が倒されたのかはわからないが、皆は息を切らし、傷だらけの体を引きずりながら戦い続けているだけだ。
倒れる者が増え、フェリクスも体力が尽きて地面に倒れてしまう。
「フェリクス!」
ディランは駆け寄り、フェリクスを襲おうとする魔物を斬り伏せた。だが彼自身も限界が近づいていた。
「ディラン…ごめん…」
「今は話すな」
ディランはフェリクスを支えているながら、魔物と戦い続ける。しかし、このままでは二人とも魔物に食われてしまうだろう。
瘴気が浸透し始め、要塞を守っている結界ももう限界が近づいていた。
その原因は女魔導士も傷だらけだからだ。
「なあ、ディラン。上で平民を守ってるジャクソンは大丈夫だろうか…」
「たぶん、僕たちと同じように戦ってるだろ」
しかし、魔物たちはそれ以上攻撃してくることはなく、後退していった。
「勝ったのかな?」
トンネルの奥から、巨大な魔物がゆっくりと歩いてきた。その筋骨隆々とした体と凶悪な外見は、ただ者ではないことを物語っている。
「ざ、残念…だったな、赤髪のイケメン君…もっとデカい奴が来たぞ」




