11特別な処分
果たして予想通り、退学処分だった。 でも、校長は軽く咳払いをしてから、椅子に座り直した。
「とはいえ、学校は君たちが退学することを望んでいない」
アゴストが一歩前に出て、真剣な表情で言った。
「父の意向ですか?」
「いや……そうでもないね」
校長はペンを回し始めた。ええ~、校長のペン回し意外と上手いじゃん。
「実は、学校内のいくつかの人たちがそう思っているのだが。君の父親もその一人に過ぎないだけ」
「校長先生、俺たちが退学してしまうことを恐れて、自分の地位を失うことを心配しているのか?」
え⁉アゴストすごいこと言っちゃった。でも、私たちは皆それを理解しているはず。ただ、言る人がいないだけだ。
だって私たちの家柄を考えたら、フォスタンイーンの校長なんて私たちを退学させるわけがない。
不公平だけど、それが社会の基盤だもん。私が転生したゲームの世界でもそうだ。
「そ、そんなことないよ…理事会の意向も考えなければならないから……まさか……」
校長は慌ててペンを落とした。ペン回しが私より上手だったのがもったいない。残念だね……
「でもさ、歴史あるフォスタンイーン魔法学校の校長として、こんなに重大な違反行為を放置したら、みんなどう思うと思う?」
ここまで言われたら、子供でも校長の意図が分かるよね。
「はぁ、校長先生、要するに。私たち三人を罰したいけど、理事会に怒られるのが嫌で、早く事件を収束させて、私たちに退学させないでほしいっていう願望を叶えたいってことでしょ」
「あっ、そうそう!フェリウェムさん。さすがは我が校の三大天才!正直言って、君たち三人は優秀な生徒だから、退学は……あはは……」
アゴストは溜息をついて髪をかき上げる。
「じゃあ、校長先生。こんなに話したんだから、俺たち三人の本当の処分決定を言ってくれる?」
校長はまた咳払いをしてから立ち上がり、窓際にゆっくり歩いて行った。
「それでね、理事会のメンバーから提案されたんだけど、明日からあなたたち三人に停学三日間という処分を科すことにした。それにフェリウェムさんには学校の損害を賠償してもらうことになってる。でも私はこの処分が軽すぎると思ってね」
「だから何?早く言え!」
今までずっと静かだったシスネロスまで我慢できなくなって校長に大声で言った。
「怒らないでよ……ええと……君たち三人に社会奉仕活動という罰を与えたいんだ。これなら理事会のメンバーも納得するし、生徒や先生たちも認めてくれると思うんです」
「じゃあ、社会奉仕活動って何?老人ホームに慰問に行くの?それとも学校の近くの道を掃除するの?それとも孤児院で芸を披露するの?」
言い終わると、アゴストは校長室のソファに座って、机の上の果物を食べ始める。
社会奉仕活動ってそんなものだと思ってた。
「フェリウェムさん。ブドウ食べる?甘いよ」
「わあ、食べる!」
アゴストの言葉に従って一粒のブドウを食べた。うんうん~確かに甘い。ワインにするのもいいかも。
あ!ダメダメ!そんなことしたら私はルールを守らない悪い女の子になっちゃう。淑女として次から気をつけよう。
アゴストは笑ってソファを叩いて、私に隣に座るように合図した。
「座れよ、レディに立たせるなんて紳士じゃねぇから」
「ええ、でも……」
「美女と一緒に座るのが好きだよ」
「えへへ~じゃあ遠慮しないで座っちゃおうかな」
ちょっと嬉しいかも。それから私はまだ立っているシスネロスにも座るように合図した。
「シスネロス君、座ってよ、ソファは柔らかいよ」
「あ~お前たち二人……」
思ったよりシスネロスもソファに座った。これで私たち三人は立たなくて済む。
え⁉待って‼これってちょっとまずくない? 私の左右は学校で有名なイケメンだよ。
ああ!緊張する!
「私はフォスタンイーンの校長だぞ!君たちは私をなんだと思ってるんだ!」
「「「うるさい!」」」
「うん、すみませんが、社会奉仕活動のことを知っていていただけるとありがたいですが……聞いていただけますか?」
「校長先生、言ってください。聞いてますよ」
校長はとても疲れているようで、元気がない。私は校長がどうしてこうなったのか分からないけど。
「ありがとう、フェリウェムさん……実は、君たち三人に警察の人探しに協力してほしいんだ。それだけだよ」
「「「人探し?」」」
私たちは互いに顔を見合わせて、信じられないという表情をしている。
「うん、警察が捜索任務の通知を出しましたよ。学校に魔物の結晶を提供してくれるハンターが一週間行方不明になってるんです。学校はこんなに安く結晶を提供してくれる人を探すのは大変なんですね。だから君たちに警察と協力して外に出て探してほしいです。集合場所は勝利旅館」
「うん、見つからなかったらどうする?」
「それについてはね、アゴスト君、心配しなくても大丈夫ですよ。人が見つかろうが見つからなかろうが、学校は退学処分を取り消しますので」
「ええ~そうなんだ」
アゴストはブドウを食べ続けていた。私も食べたいけど、最近太った気がする。
お腹を触ってみたけど、やっぱりちょっとぽっこりしてる。やめとこう。
「校長先生、そのハンターはどうやって行方不明になった?目撃者とかいる?」
「シスネロス君、私に聞いても分かりませんよ」
シスネロスが立ち上がって校長の前に駆け寄った。
「ああ!校長として、分からないわけがないだろ」
「シスネロス君。きみ、ちょっと怖いですよ……正直、私もよくわからないんです。詳しいことは警察に聞いてみるしかありません」
校長はシスネロスに怯えていた。正直言ってシスネロスってちょっと怖いよね、なんか威圧感がある。
「それじゃあ、もう時間が無駄だ」
言ってシスネロスは校長室を出て行った。シスネロスもゲームと同じで、本当にせっかちだね。
「じゃあ、俺も行くよ、レイラ。そうだ!あとで俺たちの部室に来てね。外で待ってるから」
「うん」
アゴストが私に挨拶してからも校長室を出て行った。ええ!さっき名前で呼んだ?
まあいいか、そんなに大したことじゃないし。でもちょうどいいから、彼ら二人が何をしてるのか見に行こうかな。
今は校長室に私と校長だけが残ってる。
「じゃあ、校長先生……」
「フェリウェムさん、まだ用がありますか?」
校長はもうぐったりしていて、元気がないね。校長がなぜこんなになったのか分からないけど。
「あの、校長先生、賠償する金額はいくらですか」
「ああ、私の横にある書類に、施設損壊報告書が挟まっています」
「ええ、わかりました」
校長の言う通りに施設損壊報告書を手に取って、損害の状況を見た。わあ、やっぱり高いな……




